珍・学園無双外伝
[オンナノコの日/2]
一時間目が終わり、早速馬超は聞き込み調査に入った。
一番最初のターゲットにロックオンされたのは、不運にもが「可愛い弟分!」と言っている姜維。
授業が終わり一息、と席を立った彼の肩を、馬超が掴んだ。
「おい」
「え?は、はい?何ですか?」
姜維が爽やかな笑顔で振り返ると、そこにはいつもと同じムスッとした馬超。
だが姜維は、馬超がいつもとは違う、と肌でなんとなく感じた。
簡単に言うと………緊迫感があり、更に少々殺気立っている感じだ。
「え、どうしました?」
「から連絡か何か来てないか?」
「さんから………ですか?」
「そうだ」
馬超が頷く。
姜維はそれで馬超が何を言いたかったのか察知したらしく、あぁと呟くと眉を下げて困った様な顔をした。
「私には何も連絡が入っていないのです………申し訳ない」
「そうか……分かった。手間を取らせた」
「いえ。気にしないで下され」
「あぁ」
では、と姜維が教室から出て行ったのを見送って、馬超は次なるターゲットを物色する。
すると、姜維と入れ代わりに教室に入って来た陸遜と、目があった。
陸遜は目が合った瞬間、ニコッと少年らしい微笑みを浮かべ、馬超に近付く。
「おはようございます、馬殿」
「おう」
「あの……つかぬ事を伺っても宜しいですか?」
「俺もお前に聞きたい事がある」
と、両者同時に嫌な顔をする。
なんとなく、お互いの聞きたい事が、自分とかぶる様な気がしたからだ。
「……………………」
「……………………」
暫し無言で互いの出方を待っていた二人だが、やがて先手必勝とばかりに陸遜が切り出した。
「さんがお休みの様なのですが………」
「ならばお前の所には連絡は行っていないと言う事だな?」
「っ……………」
先手必勝のつもりが、話の途中でしっぺ返しを食らった。
陸遜の人形の様な顔が、悔しさで歪む。
逆に、馬超は少し勝ち誇った様な顔になった。
「そうか、手間を取らせたな」
「…………くっ」
ほくそ笑みながら背を向けた馬超に、陸遜はジッポで燃やしてやりたい衝動に駆られるが、伊達に『爽やか美少年』の異名を取っているわけではない。
ここは一歩自分が大人になって引けば良い、と奥歯を噛み締めつつ、自身も踵を返した。
所変わって、こちらは二学年の教室。
ここ最近Tシスコン・妄想・腹黒″と三拍子揃った男前趙雲も、馬超と同じくの欠席理由を知っていそうな輩を物色していた。
休み時間という事なので、教室内は仲の良いグループで別れていたり、次の授業までにと席を立ったりしていた。
彼は馬超の様に行き当たりばったりで物事を考えないので、あらかじめ何人かは検討をつけて当たろうと考えていたので、最初の人物はあっさり見つかった。
「権殿」
「む?趙殿ではないか」
声をかけると孫権はにこやかに挨拶をして、趙雲に歩み寄る。
趙雲も軽く微笑しているが、内心少し焦りはある。
馬超や自分ではなく、万が一この男性に『休むから』メールや電話が届いていたらと思うと。
やっぱり我慢出来なかったらしく、趙雲は微笑しつつも目が据わるのを押さえられなかった。
「?」
「権殿、聞きたい事があるのですが」
「あ、あぁ。なんだろう?」
突如目の据わった趙雲を見て、思わず孫権はビビる。
何故なら前に一度、その様な状態の趙雲に不運にも出くわしてしまった事があったからである。(キリ部屋外伝〜化粧と御飯〜より)
そんな孫権の心情などどうでも良いらしく、趙雲は微笑しつつも目は据わったまま、口を開いた。
「権殿、から何か連絡は入っていないでしょうか?」
「れ、連絡?」
「えぇ。どうも今日はまだ登校していないらしいので、もしかしたら権殿に何か連絡が入っているかも……と思ったのですが」
「い、いや。残念だが私には何も…………」
「そうですか。分かりました、ありがとうございます。引き止めてしまって申し訳ない」
「いや、気にしないでくれ」
「では失礼」
会話は続いたかの様に思えたが、淡々と突っ込みを許さぬ口調で、一方的に話を終わらせ戻って行く趙雲の背を、孫権は『は休みなのか……』と冷や汗をかきながら見つめていた。
孫権の次は孫尚香、と決めていた趙雲は、すぐに彼女に聞き込みに行く。
「え、ちゃん?何も連絡入ってないわよ?どうしたの?」
「いや、休みなのは分かっているんですが、メールもなにもないので……」
「あら?普通だったらあなたか馬君辺りにメール送るんじゃない?」
「それが来ていないので……」
「そう。でもごめんね?私の所には何も来てないわ」
「そうですか………」
孫尚香が駄目なら、T電波仲間″(お題部屋外伝〜身長差〜より)の一番長い電波役の周泰は、と聞き込みに入る。
「………………から?」
「えぇ。何かメールなど入っては?」
「………………いないな」
「では電話は?」
「………………済まん」
「………そうですか」
ちゃっかり周泰の口癖が移った事も気付かずに、趙雲は最後のターゲットへと移行した。
その最後のターゲットとは、甘寧。
だが『最後のターゲットは絶対にあってはならない』と思いつつ、懐に武器を隠し持ち、そいつの机へと向かう。
「あ?からか?」
「えぇ」
「いや、何もねぇけど?」
「そうですか分かりましたありがとうございます」
「あ………ちょっ…………」
と、早口に会話を終了し、甘寧に連絡がいかなかった事にホッとしつつ、変な事を勘ぐられる前にその場を去った。
「子龍、どうだった?」
「いや、済まないが………」
「そうか。俺の方も駄目だった」
「…………では誰が?」
「直接聞きに行った方が早くないか?」
「それもそうだな」
二時間目の授業を終えて早速結果報告をしあうが、お互いに該当者ナシとなると、行き着く答えはこんなものだった。
だが、彼等………正確には趙雲は『ある人物』の事を忘れていた。
T電波仲間″の一番短い電波役、小喬の事を。
は理由が理由だったので、取りあえず同学年で唯一の同性の小喬に連絡をつけてあったのだった。
ちなみに、朝のと小喬のメール内容は………………。
『おはよ〜小喬ちゃん。悪い、今日アレんなっちゃったから、休むネ?』
『ちゃんおはよ〜!うん、分かった。リョ〜カイ〜☆』
『先生にはもう連絡したからさ♪』
『は〜い☆お大事にね〜?』
『うん、アリガト〜☆』
という感じ。
そんな事は全く知らない馬超達は、その日の昼休みにの部屋に押し掛け、血の気のない顔を顰めた彼女に「デリカシーのない男サイテー」と言われるハメになるのだった。