ピンポーン!
…………………………………。
ピーンポーン!!
…………………………………。
…………………………………。
…………………………………。
ピピピピピピピピピーーーンピピピーンポンッ!!!
「だーーーーー!!分かってるっつーの!!!!!!!」
珍・学園無双外伝
[私達の関係]
週休二日制の内の、日曜日。
もちろん、学園も休みである。
10:30頃に鳴った目覚ましを止め、今日は暇だからどこに行こうかな?と考えていたにとって、これほど最悪な休日はなかった。
ベッドから起き上がり、窓の外を見ると、雨。
しかも、極論が心情な彼女の心にそったのか、土砂降りだった。
雨は、嫌いではない。
むしろ、暑い季節には、大歓迎である。
涼しくなるし、また少しセンチな気分にさせてくれる。
しかし。
センチ所か、外はまるでバケツをひっくり返したように、ドシャ降っていた。
こういう日は、殊更何もする気にはなれない。
面倒臭い。
ダルい。
外に出るのも嫌。
これらは全て、『何もやる気が起きない』というカテゴリに、分類される。
『折角の日曜なのに』と落胆しつつ、歯磨きをして顔を洗い、パジャマ替わりに使っているハーフパンツと、いつか友達の外国土産でもらったTシャツを脱ぐ。
そして、適当な部屋着に着替えると、この寮に入る際、両親に追加で送ってもらったパソコンを、立ち上げた。
立ち上がるまで暇だったので、洗面所へ行き、髪を梳く。
昨夜、風呂に入った際、余りの眠気に髪を乾かさず寝てしまった為、若干ムカつく寝癖があったりしたが、それは『今日は日曜日、誰とも会わない』と自分に暗示をかけて、見なかった事にした。
しかし、寝癖とはやはり気になるもので。
一通り、造反を起こした寝癖達を鎮圧した後、さらりと流れ落ちて来るサイドをヘアピンで止め、後ろは邪魔にならないよう、軽く括る。
それを終え、洗面所を出ると、パソコンは立ち上がっていたようで、モニターからは、長時間見っぱなしならば目をヤッてしまいそうな光が出ていた。
は、いそいそと椅子に腰をかけ、早速とばかりにInternet ○xplorer を開く。
そして、一人にも関わらず、満面の笑みを作ってサーフィンを開始した。
すると、それを邪魔するように、ベッドの頭元に置いてあった携帯が、盛大な音を立てて着信する。
それにビクッ!と反応しながら、音量を最大にしておいた、と自分に苦笑を漏らしながら、折り畳み式のそれをかぱと開けた。
メールボックスを開くと、見慣れた名前。
そこには、『馬ッチ』と送信者の名が表示され、件名には『暇なお前へ』という、何とも彼らしいもの。
内容も、やはり彼らしく、『暇なら付き合え』という一言のみ。
それにブブッと吹き出しながら、は『どこに?』と返信した。
暫くすると、返事が返って来る。
この雨に何所へ付き合えと言うのだろう?と、考えながらボックスを開けると、『どこでも』という、何とも適当なものだった。
以下は、それから約15分程続いた、彼女達のやり取りである。
『どこでもって………(;^_^A』
『何所へ行きたい?』
『いや……つーかこの雨の中、どこ行くっての?』
『何所でも良い』
『会話になってないよ(笑)』
それから先、彼からの返事はなかった。
首を傾げながら『どしたんだろ?』と思いつつ、はネットサーフィンを楽しむ。
そして、彼とのメールが終了して5分経ったぐらいに、冒頭のチャイム連打に戻る。
その時、はトイレに入っていたので、慌てていた。
一回目、二回目と続く内、『とっとと出ないと!』とテンパっていると、最後の連打になった。
連打の主は、何となく分かっていた。
こんな子供染みた事をする者は、彼女の知っている人間の中で、一人しかいないから。
「………………………よう」
「ガキみたいな事すんな!ピンポンダッシュかあんたは!!」
「トイレか?」
「一発で当てた事は、褒めてあげる。嬉しくないけど」
オートロック機能の付いた扉を開けると、そこには先程までメールをしていた馬超。
彼は、一度のチャイムで出なかったが、『トイレに入っている』と瞬時に判断したのか、顔色を変える事なく言った。
それに『そうさ正解おめでとう』と返しながらも、はリラックスタイムを邪魔されて、顔を引き攣らせている。
「大か?」
「失せろ変態!!」
「冗談だろう?お前はすぐに怒るな」
「普通、女の子に『大か?』とか聞く?」
「だから冗談だ」
「変人!変態!!ノットデリカシー男め!!!」
とんでもない質問をされ、面喰らったが、恥ずかしさの余り声を荒げる。
しかし馬超は、本当に冗談だったらしく、平然としていた。
それどころか、ギャーギャー煩い彼女の肩を押して、自然に部屋の中へ侵入する。
「馬ッチ!!聞いてんの!?」
「聞いてるキイテル」
「片言の辺りが、いかにも『聞いてません』な感じなんだよ!!馬鹿にすんな、この……」
「なんだ、何もないのか……」
「話を聞け!!!馬鹿男!!!!」
馬鹿にされた、と更に声デカく叫ぶが、彼は冷蔵庫を勝手に開けて(兄的冷蔵庫チェック・もちろん趙雲もさり気なくやる)、サイドに入っていたの大好きなアクエ○アスを取り出す。
それに、背中をバチバチ叩いて抗議すると、彼は蓋を開けて飲み出した。
「あーーーー!!!それ新しいやつなのに………」
「何だ?空いているのがあったのか?」
「……………もういい」
「お前はすぐに拗ねるな」
「黙れ!あんたは嫁いびりする姑かよ!?
ホコリとか溜まってたら、指で拭って『○○さん、埃が……』とか言う奴か!?
こんの………」
「分かったから、取り敢えず落ち着け」
余りにも、太々し過ぎる。
なのでは、キー!と、『姑』の真似を華麗に披露しながら、ヒステリックに喚いた。
もちろん、馬超はムカつくぐらい冷静に、彼女の背を擦って落ち着かせる。
「落ち着け、また俺が買って来てやるから」
「阿呆か!!!下の自販機行けば、いくらでも買えるわい!!!」
「ほれ、ゆっくり息吸って、ゆっくり吐いてみろ」
「普通に深呼吸しろって言えよ!!」
馬鹿全開で、テンション上がりまくりな彼女。
それを、どうにか落ち着かせようと思案した彼は、ニヤッと笑った。
そして。
「……………………何の真似?」
「落ち着くように、だ」
馬超はの正面に立ち、彼女を抱きしめた。
いくらの身長が高いと言っても、彼は186cmある。
なのでは、丁度彼の鎖骨に、額を付ける形になった。
「あのさぁ………………」
「何だ?」
「それって、馬ッチが落ち着くんじゃない?」
「おう」
「おうって……」
「俺もお前も」
「落ち着くっていうか……」
時折こうして、甘ったれたようにスキンシップをしてくる彼は、普段の不敵さからのギャップもあるのか、酷く可愛く見える。
なので、は苦笑を漏らした。
馬超は、ゆっくりと彼女の首に、顔を埋める。
彼の息がかかり、くすぐったかった。
内心『甘ったれめ』と笑いながら、背をゆるりと擦ってやる。
そういえば子龍兄も、時たま、これと似たような事をして来るなぁ、と考えながら。
「まぁ、あたしも落ち着くっちゃ落ち着くけどさ」
「だろう?」
「馬ッチ、それ……………ふんぞり返って言う台詞じゃないから」
「揚げ足取るな」
「その言葉、チミにそっくりお返し致しますわん!」
無意識に、この普段は甘えた態度を、見せる事のない彼に、口元が弛んでいた。
笑いに堪え切れなくなって、嫌でも肩が震える。
彼はそれに気付いたようで、顔を上げた。
「…………何だ?」
「馬ッチの甘ったれ」
「…………………」
「あはは、誰にも言わないよ」
じとっと睨まれたので、そう返す。
だが、彼の目は『そういう事じゃない』と言っていた。
『じゃあどういう事?』と、視線で返す。
「美しい兄妹の、美しいスキンシップ〜!」
「張先生の真似か?」
「あ、バレちゃった?」
「安心しろ、チクっておいてやる」
「うぇ!?冗談でしょ!?!??」
「俺はいつでも、本気だぞ?」
「勘弁してよーーー!」
が笑いながら身を離すと、馬超は少し名残惜しそうな顔をした。
けれど、彼がそれを口に出す事はなかった。
変わりに、彼女の手を取り、優しく握りしめる。
「何?手ぇ繋ぎたいお年頃?」
「お前は…………」
「ん、何?」
空気の欠片も読めないのか、彼女は首を傾げて笑っている。
そして、馬超もそれ以上言う事はせず、小さく苦笑を漏らすと、「行くぞ」と言った。
「だから、何所行くの?」
「どこでも」
「適当?」
「あぁ」
適当に、と聞いて、は一つだけ、行きたい場所があったと思い出した。
なので、彼女は口元に指を添えながら、ニッと笑う。
「じゃあ、あたし………行きたい所あるんだけど、良い?」
「あるなら最初に言え」
「ほほ、失礼。遠慮出来る女なんで」
「支度は?」
「なら、ロビーで待っててくれる?」
「分かった」
するりと手を離し、馬超は玄関へと向かう。
それを見ながらは、あ、そうだ、と彼を呼び止めた。
「何だ?」
「他に面子いるの?」
「いや?誰も誘ってない」
「そう」
「………………………………二人は嫌か?」
「ううん、全然。んじゃ、ロビーで」
「おう」
馬超は靴を、はパソコンの電源を切りながら、話す。
やがてパタン、と扉が閉まる音が聞こえて、彼女は音の方向を見遣った。
そこにはもう、彼の姿はない。
「………………着替えるか」
突然決まったお出かけに、部屋着を脱ぎながらも、の表情に面倒臭さや不満さは、微塵も感じられなかった。
普段、面倒くさがりな自分なだけに、自身で『意外な一面を見た』と思う。
多分。
それは、きっと馬超だから。
もちろん、相手が趙雲だとしても、嫌とも思わないだろう。
それはきっと、彼等だから。
近くて遠い、絶妙な距離だから。
急なお誘い
急なお出かけ
でも 私はそれが好き
近すぎず
遠すぎず
それは とても良い意味で
そして それが…………………
私達の関係