[鳴かぬなら・10]



 ・・・・。

 あの短い出会いと別れから、10年という月日が経ちました。
 あの時のあなたの微笑みを、今でも忘れたことはありません。

 貴女は、覚えていますか?

 鳴かぬなら、と・・・・・・・その続きを、俺に問うてきたことを。
 あの時の俺は、その答えを告げることが出来ずにいました。
 その『答え』を、見出すことが出来ずにいました。

 でも、貴女にもらったあの言葉で、手に入れることが出来ました。
 姿を消す直前、貴女の言ってくれた、あの言葉で・・・・。
 軍師になれる、と。その一言で、俺はようやく目を覚ますことが出来たんです。
 そして自分がやるべきこと、やりたかった『夢』を思い出すことが出来ました。

 あの時の『答え』・・・・・・『鳴かせてみせる』。
 いま、貴女にそう伝えることが出来たなら・・・・・
 きっと「そうだね。」と、笑ってくれるのでしょう。

 あれから俺は、勉学を重ね、ハルモニアに留学しました。
 そして、沢山の知識を身に付け、晴れて軍師と成り、今日この日を迎えます。
 あの頃と変わらないのは、友人を作らないことです。未だそうだと思える人物に出会えていないだけですが、いずれそうと認めた人物が現れれば『友人』というものになっても良いと考えています。

 貴女は、今、何をしていますか?

 貴女への淡い想いは、あれからも、ずっと消えることなく燻り続けています。
 貴女を想い、貴女に認められるような男になろうと、今でもその気持ちを持ち続けています。

 俺は、貴女の言葉で、自分を取り戻すことが出来ました。
 でも今度は、俺の番です。貴女から貰った優しさを、今度は俺が誰かに返す番です。
 ここに、貴女はいないけれど・・・・。

 今度は、俺が、今まで俺を救ってくれた人達の為に『誰か』の力になろうと思います。
 貴女は、傍に居てくれなかったけれど・・・・。
 でも俺は、『この国』を、貴女が認めてくれたこの”力”で支えていきます。人と人を繋ぐことは出来ないけれど、この生まれ持った才を使って、この『困難』を乗り越えようと思います。

 貴女は、今、どこにいるのですか?

 もう二度と会うことはない、と。
 そう言われたあの日の記憶が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇ります。

 あの時の貴女は、何か確信があってそう言ったのでしょう。
 だから俺は、それを信じてしまいそうになりながらも、必死に願っていました。
 『出来ることなら、もう一度会いたい』と・・・・。

 それが叶うことはないと、あの時から、心のどこかで分かっていました。
 貴女の言葉には絶大な力が秘められていると、そう思っていました。
 二度と貴女と会える日は来ないのだろうと。礼を言うことすら、叶わないのだろうと。



 けれど・・・・・・・



 俺は、『また』貴女に会うことが出来た。
 あの頃とは『何一つ変わらぬ姿』の、あの時のままの貴女と。

 それは、”想いの強さ”だったのかもしれない。
 『もう一度、会いたい』と。
 そう思っていた、生意気な子供の”唯一”の願い。
 貴女に認められるような男になるために、一心不乱に駆け抜けた、あの頃の・・・。

 何一つ変わらないその姿を見ても、俺は、なに一つ気にはならなかった。
 願いが叶っただけで、この心は、打ち震える喜びに満たされていたのだから。

 その驚いた顔を見て、俺は、そこでようやく貴女に一歩近づけた気がした。
 ”想う”ことの”力”は、何よりも強くて尊いこと。

 それを、ようやく理解することが出来たから・・・・。



 貴女は、微笑んでくれた。
 優しく、悲しく、儚さに満ちた顔で。
 あの頃よりも更に深くなった、今にも消え入りそうな笑みで・・・・。

 今度は、俺が、貴女に返します。
 貴女が持つ本来の笑みを取り戻せるかは、分からないけれど。
 それに伴う『努力』はしてきた。今なら自信を持って、胸を張ってそう言える。

 だから俺は、貴女の名を、10年という時を経た今日この日、また口にすることができた。
 貴女を想う、一人の”人”として。
 そして・・・・・・・・誰よりも尊い、貴女の役に立つために・・・・。






 「………。」

 「………大きくなった。久しぶりだね…………………ジン。」






 全ては・・・・・・・・・

 そう

 貴女のためだけに