[転入生フォー!対応]






「よーし全員揃ってるね!またまた転入生が来たから、仲良くしてやんな!!」



朝のHRも終わり『これからT華麗なる″一時限目か』とクラス一同がそう思った時、生徒名簿を閉じながら祝融先生は言った。

またという辺り、ここは結構出入りが激しいらしい。

前回の呂布から予測する限り、今回も濃い奴が来そうである。



よからぬ不安がの頭の中で過っている時、その青年は待ってましたとばかりに教室のドアを開け、入って来た。

『あ、見た事ある』と思った瞬間、青年はに気付いたのか、ニッコリという音が合いそうな笑みを見せた。



「拙者は関平と申す!」

「お、イキの良いお兄ちゃんだねぇ!皆と仲良くやんな!!」

「はい!!」



元気一杯爽やか好青年!といった関平は、ピシッと背筋を伸ばし、それから90度背を曲げて挨拶をした。

祝融先生はそんな彼が気に入ったらしく、バシバシと肩を叩く。

キラキラと光を背負う笑顔な青年は、後光が差しているように見えた。



ふと、背中をチョチョイと突つかれる。

振り返ると、姜維が興味ありげに目を輝かせていた。



「どしたの?」

「あの方とは、良き友人になれそうですね」

「え、何で?」

「だってほら………」



指差された先(前)を見る。

あろう事か、関平はニコニコと笑いながら、を見つめていた。

友好的な笑みは悪意なく、の心を安らげていく。



「…………マイナスイオン系?」

「俺には合わんな。つーか、何でに笑いかける?」

「いや馬ッチ………これには色々と事情が……」



割って入った馬超(隣の席)が、実に不服そうな顔をしている。

と関平の出会いを知らぬ彼としては、相当不愉快らしい。

『かくかくしかじか』と、いつ飛んで来るか分からない祝融先生のチョーク攻撃を警戒しつつ、先日の逃亡劇の事を説明する。



だが、その際もう一人綺麗な女の子が居た、と付け加えると、彼はふんと鼻を鳴らし(どっちにしたって面白くないらしい)そっぽを向いてしまった。

また拗ねやがった、と思ったのも束の間、何と祝融先生が『の隣が空いてるから、そこに座んな』と仰った。

ヤキモチ焼きな兄を持つと大変だなぁと、それを見ていた姜維は思った。










「拙者は関平と申す!宜しくお願いします」

「あ、こちらこそ宜しく。です。で良いですよ」

「いえいえその様な無礼、拙者はとても……」

「じゃあ、ちゃん付けか、さん付けで」

「では、さんと呼ばせて頂きます」



関平が席に着き、一時限目の蝶々先生(生徒内のアダ名)が来る間に、近場の人間同士で自己紹介が始まる。

関平が着いた席は廊下側なので、前後と左であるとの紹介。

やはり思った通りの好青年で、白い歯が些か眩しい。



年齢はいくつとか、敬語はいらないとか話している内に、あの時一緒にいた少女の話になった。

「一緒にいた彼女は?」と聞くと、彼は「彼女は幼馴染みで、三学年に転入しました」と言う。

「仲良しそうなのに離れて可哀想だね」と言うと、少し困ったような顔で「仕方ありませんから」と笑っていた。



姜維もその話の輪に加わり、更に盛り上がりを見せたのは、すぐの事。

好青年と好青年の組み合わせは、実にに爽やかな風を送り込んでくれた。

姜維と関平、中々良いコンビになりそうだ。



そう思ったのも束の間、姜維の隣(関平の後)に居た陸遜が、更に輪に加わる。



「関殿、私は陸伯言と申します。これから宜しくお願い致しますね!」

「こちらこそ、宜しくお願い致します!
 実は友人が出来るかどうか心配していたのですが、皆さん良い人達で本当に良かった」

「いえいえ。分からない事があれば、私に聞いて下さい。
 宜しければ、校内の案内も致しますから」

「おぉ、それは是非ともお願い致します!」

「お任せ下さい!………………貴方とは、良い友人になれそうです!」



便乗するように、では私も!と姜維が笑う。

好青年コンビではなくトリオになりそうだな、とは微笑ましく思った。

しかし左隣の馬超は、何やら物言いたげな顔。



は全く気付いていないようだが、実は馬超は聞いていた。

聞いていたというより、兄的本能で見ていた。

陸遜の『お任せ下さい!…………貴方とは〜』の節あった、隠しワードを。



『お任せ下さい!Tさんを狙う亡者でなければ″、貴方とは、良い友人になれそうです!』



は気付いてない、絶対気付いてない。

この火計小僧は、絶対爽やかじゃないと。

いつから読心術をマスターしたのか本人さえ分からないが、馬超には確かにそう見え(聞こえ)た。



だが、切に感謝するのは、その相方である姜維の存在。

お前が黒くなくて良かったよマジ。

そんな彼の心の声が、聞こえて来そうである。



見ているだけだと、新たにこの中に入る関平という男は、白だ。

確証ではないが、どことなく安心出来た。

・・・・・・・・・・・・に向ける眼差しが、そういった類のものでなければの話だが。



「ぺーちゃんて呼んで良い?」

「へっ?」

「あ、やだ?なら無難に関君かな?」

「い、いや。ぺーちゃんで構いません!その方が親しんで頂けるかと……」

「え、マジ?じゃあぺーちゃんて呼ばせてもらうね!」

「はい!さん!!」



ぺーちゃんて・・・。

呆気に取られる馬超のT関平という男分析″には、『天然系』も刻み込まれた。

だがしかし、彼のに向けられる好意的なものは、一体何なのか。



恋や愛の部類ではあるまい。

どちらかといえば、慕うような甘えるような眼差し。

『大好きなお姉ちゃん』といった所か。



は全くと言って良いほど警戒心がないが、こいつは取り敢えず大丈夫だろう。

こいつの後ろにいる、火炎鳥という通り名を付けられて久しい、腹黒小僧よりは。



「え、ぺーちゃんいくつ?」

「19です!」

「では私と同じですね!」

「姜殿と……何か、縁のようなものを感じますね!」

「仲良くやっていきましょう!」



くれぐれも、関平は黒に染まらないでいて欲しいと思った。

ただでさえ親友が黒い事が判明したというのに、黒率が上がるのは非常に宜しくない。

ここは姜維に頑張ってもらわないとな、と思った。



しかし、馬超は知らなかった。



まぁ、知らなくて良かったのかもしれないが。

姜維とて日々、陸遜から、気付かぬ内に心の侵略を受けている事を。

姜維と関平の『天然』気質が同等なのであれば、確実に馬超の憂う未来はやって来る。



ある意味、陸遜が『荒らし』ならば、姜維と関平はそれ以上に対応に困る『困ったさん』だ。

ターゲッティングはこちらに設定されそうな気もするだけに、や自分に厳重な警戒が必要になる。

陸遜の場合、には恐いぐらい印象を良くしているので、問題はなかろうが・・・。



「……………………はぁ」

「?どした馬ッチ、元気ないぞ!」

「……………放っておけ」



もう、溜息しか出なかった。