珍・学園無双〜外伝〜
〜 PU RI KU RA・6 〜
先程に笑われた典韋は、笑われて悔しかったのか、ムキになって踊り狂っていた。
それに対して暫くと趙雲は大爆笑だったが、ふと孫策と大喬が達に近寄って来た。
「お〜!典踊り狂ってんな〜!」
「豪快ですね!」
大喬が典韋の踊りと言えない踊りを見て、声を潜めてクスッと笑う。
孫策は豪快なもので、「イケてねぇぜ典〜!」とギャハハと笑っていた。
孫・大の二人はそれを見て腹を抱えていたが、と趙雲はだんだん見飽きたのか、が趙雲にコソッと耳打ちをする。
「ねぇ子龍兄」
「どうしました?」
「今日の記念にプリクラ撮らない?」
「っ…………」
プリクラと聞いただけで、何故か趙雲の表情は一気に曇った。
それに何か気に触る事でも言っただろうかと、が眉を顰めて首を傾げる。
「どしたの、子龍兄?」
「いや……何でもないですよ……」
何でもないワケがない、と彼の顔を見ては思った。
いつもなら、『良い』と思えば笑顔で了承する趙雲だが、今は表情は曇ったままで言葉も歯切れが悪い。
「行って来いや?」
と趙雲がお互いに黙りこくっていると、踊っている典韋がこちらを振り返りもせずに、そう呟いた。
「典………?」
「可愛い妹が誘ってんだぞ?兄貴として行くっきゃねぇよな?」
ちらりと肩ごしに趙雲と目を合わせた典韋は、『はお前を心配してんだ』と言いたげに彼を見つめる。
「……そうですね。折角だし、撮りましょうか」
「………いいの?」
「えぇ」
典韋の優しい心遣いと、の自分を思ってくれる気持ち。
それに動かされ、趙雲は彼女にニコリと微笑んだ。
「フレームどれにしよっか〜?」
「これなんか可愛らしいのではないでしょうか?」
「え〜!何か意外〜!」
プリクラコーナーへ入った二人は、早速コインを投入してフレーム選びを始める。
が迷っていると、趙雲は彼女が好きそうなフレームを指差した。
それが意外だったのか、が楽しそうに歓声を上げる。
「子龍兄はコレとか好きそう!」
「それですか?ふふ、さすがはですね。分かっています」
は逆に、趙雲の好きそうなフレームを選び、彼はそれに笑みをもらしながら、二種類のフレームを選択した。
「ねぇ、子龍兄………」
「?」
「プリクラ……嫌い?」
「……………」
ふいにおずおずとしながらが振った話題に、趙雲は返事が出来なかった。
「やっぱ……苦手なんだ………」
「………すまない」
彼の沈黙を肯定の意で受けたは、少ししょぼくれながら俯く。
そんな彼女に、趙雲は謝る事しか出来ない。
「やめよっか」
「えっ………?」
「嫌な事させたくないしさ……。それにプリクラで何か嫌な事があったんでしょ?」
「………………………隠せないな」
「え?」
趙雲を気遣って寂しげに笑った。
それを見てしまった趙雲は、参ったとばかりに苦笑した。
「には隠し事が出来ないのだな、と」
「…………別に……無理には聞かないし」
「今はそうしてくれると助かる」
「でも…心配してるってのは分かっ……」
「分かっていますよ」
ふと泣きそうになった彼女の頬を、趙雲の大きな両の掌が包み込む。
そして自分の額を彼女の額にコツンと当てて、瞳を閉じる。
はその行動に驚いたが、趙雲は変わらず目を閉じたまま、口元に笑みを浮かべた。
「今は言いません。ですが時期が来たら………必ず」
「………うん」
は、自分の頬を包んでいる趙雲の手に手を重ね、目に薄らと涙を浮かべて微笑んだ。
「綺麗に取れたかな?」
「きっと綺麗ですよ」
「えへへ〜!」
それから趙雲は、の涙を拭いてやり、寄り添う様にプリクラを撮った。
制限時間付きの落書きを済ませて、外に出る。
出て来るのを今か今かと待っているに苦笑しながら、趙雲は彼女を見つめる。
「わっ!出て来たよ!」
「どれどれ………」
嬉しそうに取り出して、出て来たそれを見てみると、何故か趙雲の胸は苦しくなった。
あの日と全く同じ様に笑った自分。
そして、あの少女と全く同じ笑い方をする女性。
「?どした〜?」
儚げに笑う趙雲を気にして、が首を傾げる。
「いや………」
「一人じゃ………ないよ?」
ポツリと呟いた彼女の言葉。
たったそれだけの一言が、趙雲の胸に暖かく染み込んだ。
ふいに鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうになる。
はそれに気付いたのだが、わざと見ない様に顔を逸らした。
「元気に……なってほしかった」
「えぇ。もう大丈夫です。ありがとう……」
「典ちゃんも孫君も……心配してるんだからね……」
「えぇ、私は……幸せものですね」
微笑した趙雲に、も笑顔になりながら、プリクラをハサミで切った。
切り終わると、片割れを趙雲に渡した。
「これ、記念だからずっと忘れないで持っててね?」
「えぇ。あなたも……ずっと持っていて下さいね?」
「うん。これでいつも一緒だね!」
ふと、趙雲は以前にもこんな会話があった様な気がした。
いつどこで?そんな事は分かっていた。
趙雲は、その会話を懐かしむ様に、同じ台詞・同じ笑顔で見上げてくる女性に笑いかける。
「私達はずっと一緒ですよ……」
もう二度と 失いたくはない
幸せだった あの日々を
そして この幸せな一時を
今も夢に見るあなたと すぐ傍で微笑む私の妹
似ても似つかない けれど…………
あなたもあの時 彼女のように 笑っていましたね