珍・学園無双〜外伝〜
〜似たもの同士・1〜
その日は土曜日で学園は休日、そして天気も機嫌が良かったのか快晴だった。
空を見上げれば雲一つなく、この世界を照らしている。
そしてこの学園を囲んでいる木々からは、小鳥達が互いに挨拶をする様に、ピチチとさえずっていた。
「う〜ん!良い天気ぃ〜!」
今し方起きたのか、目を擦りながら、起床したのは。
ちなみに、朝一番の爽やかそうな目覚めだが、時間はとうに昼を回っていた。
はベッドから起き上がると軽く伸びをする。
そして立ち上がると、クシャクシャになった寝癖を直しながら、窓を開けた。
「気持ち良い〜!何か今日良い事あるかも………」
天気も良いし目覚めもバッチリな彼女からすれば、こんなに良い日はきっと何か良い事があるかもしれない、とワクワクだ。
しかし彼女は知らなかった。
これから自分の身に降り掛かるであろう、悪夢の様な出来事を…………。
今日は休日だが、以外な事にには誰からも、お誘いの声がかからなかった。
いつもならまっ先に馬超やら趙雲らを筆頭に「遊びに行くから付いて来い」「映画でも行かないか?」など、有無を言わさぬ誘いの嵐なのだが、幸か不幸か今日は二人とも用事があったらしい。
馬超は確か、車の免許の更新。
趙雲は実家から『たまには帰って来い』コールが来たと、言っていた。
そしてその後に続く、親衛隊の姜維と陸遜。
彼等は今日は部活動の試合がある、と言って済まなそうにしていた。
別にが何を言ったわけでもないのだが……。
そして大喬と小喬。
大喬は久しぶりに孫策とデートが出来ると、それは嬉しそうに笑っていた。
小喬は「お姉ちゃん良いなぁ〜!」と言いながら、自分もちゃっかり孫尚香との約束を取り付けていた。
典韋は「わしぁ一日中寝てらぁ!」と言っていたので、きっと今は爆睡中だろう。
孫権は孫権で、本当はと一緒にどこかへ遊びに行こうとしていたのだが、周泰に捕まったらしい。
「男同士語らう為に、釣りにでも行って来る」と言っていた。
そして他の面子もそれぞれに私用があったらしく、この日は一人で過ごす事になった、というワケだ。
「あ〜あ、ヒマだなぁ………」
再度伸びをして、ポツリと呟く。
段々と空を見上げるのが飽きたのか、今度はベランダに出て手摺にもたれながら、階下を見下ろした。
余談だが、の部屋は211号室。
この寮自体、四階までしかないので、見下ろすという程でもないが………。
休日と言えば、誰かから必ず誘われて付いて行く事が当たり前になっていた故に、一人休日を過ごすというのは、何故か寂しい。
そんなポ〜ッとしているの視界に、ふと階下を歩く、一人の男の後ろ姿が目に入った。
「あ………あの人確か………」
はその男に見覚えがあった。
長い黒髪を風に靡かせながら、その男は寮を出て学園に向かって歩いている。
「15点の人……だっけ?」
その後ろ姿を見ながら、が首を傾げて呟いていると、ふいに『15点の君』司馬懿本人がこちらに振り向いた。
「え………」
「何を見ている!?」
聞こえたの!?と一瞬焦っただったが、そうでもなかったらしい。
多分、司馬懿はの視線を感じたらしく、二階()を見上げながら、そのキツめの瞳で睨んできた。
ちなみに2階と1階なのだが、少し距離があるので、大声だ。
「あっと……おはようございま〜す!」
「そんな事を聞いているのではない、馬鹿めが!!」
取りあえず元気に挨拶をするが、司馬懿は見られていたのが面白くなかったのか、いきなりお得意の台詞を吐いた。
「じゃあ何を聞いてんですかー?」
「馬鹿めが!馬鹿めがぁ!!二度も言わせるでない!何を見ているのかと聞いたのだ、馬鹿めが!!!」
「バカバカ言ってると、友達無くしますよ〜?」
「っ……この………馬鹿めがぁ!!」
「司馬さん怒りっぽいんですねー?」
全く自分の質問に答えようとしないに、司馬懿は怒り爆発寸前だ。
拳をプルプルと握りしめて、今にもビームを発射しそうな勢いである。
しかし、ふとその怒りはいきなり納まった。
フッと息を吐いていたかと思うと、急に口元に手を当てて、クククと喉で笑い始めた。
「?」
が具合でも悪くなったのか?と怪訝そうな顔をするが、司馬懿はお構いなしに笑い続けている。
「司馬さん?」
「ククク…………」
形勢は逆転。
余りにその光景が恐ろしくなったのか、は『見なかった事にしよう』と思い込んで、そそくさと部屋に入ろうとする。
それを、笑っていた司馬懿が止めた。
「おい!貴様!!」
「ヒッ!な、何すか?」
呼び止められて肩をビクッと引き攣らすが、司馬懿は許してくれそうにない。
そして、有無を言わさぬ無気味な笑顔で、早口に喋り出した。
「貴様、暇か?暇だろう?すぐに着替えて下に下りて来い!!」
「え……何で……」
「愚図愚図するな!早くせんか馬鹿めが!!」
「ひぇっ!?わ、分かりました〜」
無気味に笑う司馬懿に、恐れおののく。
多分、逆らったら恐ろしい事になるに違いない、と彼女の本能が告げていた。
「ククク………ふはははははは〜〜〜〜!!」
そして自分が部屋に入って支度をしている時、司馬懿が意味深に大笑いしている事を、はまだ知らなかった。