珍・学園無双〜外伝〜


〜似たもの同士・2〜






司馬懿の無気味な笑いに脅されて、着替えやら何やらを手早く支度を整え、ロビーに下りた

猛ダッシュで階段を下りると、そこには仁王立ちして先程より更に無気味に微笑む司馬懿が、待ち構えていた。



「えっと…………」

「遅いぞ、馬鹿めが!!」

「す、すいません……」



これでもかなり急いで支度をして来たのに……とが心の中でブツクサ思っていると、それを読んだのか、司馬懿はさらに畳み掛けた。



「これで急いだとでも思っているのか?」

「へっ?」

「23分41秒も人を待たせておいて、急いだと思っているのかと聞いているのだ!」

「ひえっ!」



ウガッ!と噛み付かんばかりに大声で捲し立てる司馬懿に、が肩を引き攣らせてビビる。



「司馬さん超コエー」

「『超』を使うな、馬鹿めがぁ!」

「だって〜………」

「言い訳をするな!凡愚めが!!」



ふと、は司馬懿が口走る口癖が気にかかった。

彼はよく『馬鹿めが』『凡愚めが』と言うが、よくよく考えると、この二通りしかない気がする。

そう思ったは、プッと吹き出しながらも、チラリと意地の悪い瞳を称えて司馬懿に呟いた。



「司馬さん……レパートリー少ないですね?」

「んなっ!?」

「だってぇ。『馬鹿めが』と『凡愚めが』しか言わないじゃないですか〜」

「……………………ぐぅ」



図星な所を刺されて、思わず司馬懿が喉を鳴らして、悔しそうに黙る。

それを見て、は『やっぱり図星か』と思い、更にププッと声を殺して笑った。

しかし、またしてもそれが司馬懿に聞こえてしまったらしい。



「貴様…………」

「はい?」

「馬鹿めぐわあぁ〜〜〜〜〜!!」

「うおぁっ!?」



が笑った事によって、司馬懿の短い堪忍袋の尾が切れてしまったらしく、彼はどこから取り出したか分からない羽扇を思いっくそ振りかぶり、の頭目掛けて振り下ろした。

しかし本能で危険を察知したは、ギリギリチョップ!で間一髪避ける。



「超アブネ〜!」

「『超』を使うなと言っただろうが!凡愚めが!!」

「司馬さ〜ん。さっきからそればっかりですよ?もっとレパートリー増やさないとね☆」

「ぐあぁ〜〜っ!!貴様のその話し方に腹が立つのだ、馬鹿めがっ!凡愚めがあぁ!!」



の使った『☆』マークが、更に司馬懿の怒りを煽る。

もそれを分かっていて使う辺り、中々に司馬懿を手玉に取っている。



「もぉ!司馬さん、唾飛ばさないでよね!汚いな〜」

「貴様ぁ!そんなに爆ぜたいかっ!!」

「あぁもう。呼び出したの司馬さんでしょ?どうすんの?どっか行くの?ずっとここに居ても話し進まないよ〜?」

「ぐっ……………。取りあえずは私に付いて来い!」



いい加減やり取りが面倒臭くなったのかが早口で捲し立てると、司馬懿は我に帰った様に冷静さを取り戻し、超高圧的な態度で言い放ち、ずんずんとロビーから出て行った。



「司馬さんって………結構面白いかも」

「おい!早くせんか、この馬鹿めが!!」

「はいは〜い!って歩くの早ぇ!」



既に豆粒サイズになりつつある司馬懿の足の早さに驚愕しながらも、は小走りに彼を追いかけた。










司馬懿に連れて来られたのは、渋谷。

「こんな休日に、車で来る奴の頭の中が分からぬ!」との事で、は司馬懿と共に電車に乗って来たのだ。



「わ〜い!渋谷超久しぶりなんだけど〜」

「一々騒ぐでない!!」



いい加減疲れたのか、司馬懿はの使う『超』に対しては、突っ込まなくなった。



「どこ行くんですか?」

「黙って付いて来れば良い」



それ以降、司馬懿は口を閉ざした。

は沈黙が楽しくなかったが、黙って司馬懿の後を付いて行く。



だが、久しぶりに渋谷に来て、嬉しくなってしまった心は止められず。

笑顔で辺りをキョロキョロと見回すは、いつの間にかグングンと司馬懿から離れて行った。

もちろん自身は見渡すのに夢中で、そんな事には気付いていない。



ふと後ろのの気配がなくなった事に気付いた司馬懿は、後ろを振り返った。

見るともっそい遠くに、が楽しそうに辺りを見回している姿が見えた。



「全く…………」



すぐさま彼は、の居る所まで戻った。



「おい!」

「あ」

「あ、ではない!馬鹿めが!」

「どしたんですか?」

「貴様、逸れていた事も分からないのか!!」

「えっ!?ウッソ〜?」



余りに注意散漫なに、司馬懿はガックリと肩を落とす。



「…………もう良い。とにかく逸れるでないぞ?」

「はーい!了解しましたぁ!」



チャキッと呑気に敬礼のポーズを決めるに、心から司馬懿は『疲れる…』と思った。










「あれ?」

「ん?どうしたのだ?」

「いや、あれって………」

「?」



暫くキャイキャイと騒いでは逸れかけるに手を焼きながらも、なんとか歩いていた矢先の事だった。

が遠くの方に目を凝らして、司馬懿の袖を引っ張り、ある一点を指差す。

司馬懿もが何を発見したのか気になったので、彼女の指が示す方向を見つめた。



「あれって、諸葛さんって人じゃないですか〜?」

「何っ!?」



諸葛亮、と聞いて目の色を変えた司馬懿は、思いっきり目を擦りながら、その方向を見た。

しかし、彼は近眼の為か、全然見えない。



「ありゃりゃ?司馬さん、もしかして近眼〜?」

「五月蝿い!少しは静かにと何度言わせれば……………」

「おや?司馬殿ではありませんか?」



と、ここで噂の張本人、諸葛亮が登場。ちなみに字は公明。

と司馬懿がギャーギャー騒いでいるのが遠くから見えたらしく、こちらに歩いて来たのだ。



「諸葛亮…………」

「如何しました?司馬殿」

「???」



諸葛亮を睨む司馬懿に、睨まれても全く動じない諸葛亮。

そしてそれを『何だ?』と傍観している



三者の間で実に微妙な空気が流れる中、それを破ったのは、凛とした女性の声だった。



「公明様。こちらに居られたのですね」

「あぁ月英。済みませんね」



現れたのは、無双学園で一番の才女、との声も高い月英。

彼女は諸葛亮の彼女でもある。



「あら?司馬殿に……さんではありませんか」



そう言いながら、月英が微笑む。



「あっ!月英さん、こんにちわ!」



月英に釣られて、も思わず微笑んだ。



「御機嫌よう、司馬殿。デートですか?」

「御機嫌よう、月英殿」



相変わらず微笑んで、礼儀正しく挨拶をする月英に、司馬懿は一応の礼節と言わんばかりの返事を返す。

多分、憎っくき『諸葛亮の彼女』というだけでも思わしくないのだろうが、一応の礼儀は分かっている。

そこへコソッとが耳打ちをした。



「司馬さん、ここは否定しないと」

「何をだ?」

「デートじゃないし」

「デートではないのですか?」



と二人の会話の間に、月英が割って入った。



「実はですねぇ。司馬さんに脅………」

「馬鹿めが!」



ペチッと司馬懿がの頭を軽く叩く。



「いた〜い!司馬さんあたし女の子なんだけど〜!」

「どこがだ凡愚め!」

「ふふ……」

「うふふ……」



と司馬懿の夫婦漫才の様なボケ突っ込みに、諸葛亮と月英が苦笑した。



「そうだ!」

「どうしました月英?」



ふと月英が何かを閃いた様に手をポンッと叩いた。

諸葛亮は、彼女が何を言い出すのかすぐに理解出来たが、敢えて笑顔で聞く。



「司馬殿、さん。宜しければ、私達と御一緒しませんか?」

「なっ!?」

「へっ?」



いきなりの月英の提案に、司馬懿は驚愕し、はポカンと口を開けている。

その『彼氏』の諸葛亮は「ふふ、困った人ですね」と言いながらも、まんざらでもなさそうだった。



「ダブルデートというのは如何でしょう?」

「え〜!?でもあたしと司馬さんはデートじゃないし……」

「男と女が二人で一緒に……というのは、これはもう立派なデートです!」



有無を言わせぬ月英の目の輝き様に、も司馬懿もそれ以上は何も言えなかった。



「では参りましょう!」

「えぇ!?マジですか?」

「私はマジですよ、さん!」

「ヒョエ〜!」

「さぁさぁ!参りましょう!」



の返事も待たずに、月英は彼女の手を引いて、ずんずんとスクランブル交差点を渡って行った。



『…………相変わらず激しいな』



残された司馬懿は諸葛亮にそう視線を送る。



『…………それ以上は言わないで下さい』



諸葛亮は諸葛亮で、眉間に手を当てて、チラリと司馬懿に視線を返した。



「「はぁ………」」



男二人で同時に溜め息をついて、楽しそうに交差点を渡って行く女性陣に目を遣り、歩き出した。