珍・学園無双〜外伝〜
〜似たもの同士・6〜
イタイイタイ『あ〜ん事件』から一時間後。
食事を終えると同時に、と司馬懿は諸葛カップルに代金を払い、逃げる様に別れを告げた。
「もうお帰りですか?」と月英はとても残念そうにしていたが、あのバカップルっぷりに目も当てられないや司馬懿からすれば、十分過ぎる程帰りたい気持ち満点だった。
今二人が歩いているのは、学園近くのコンビニ前。
先程の諸葛亮・月英のイチャつきが脳裏に焼き付いて放れないのか、司馬懿は渋谷から帰って来る途中の電車の中でも今でも、終止無言で俯いていた。
「司馬さん、あたしデザート食べ忘れたからさ〜」
「…………コンビニか?」
とうとう無言に堪え切れなくなったが司馬懿の袖を引っ張ると、彼は顔を上げる。
「あのバカップルぶりに当てられて食べらんなかったし」
「珍しく意見が合った気がするな……」
尚もクイクイと司馬懿の袖を引きながら、がコンビニへと誘導する。
「よしっ!元気がない司馬さんの為に、あたしがデザートおごったげよう!」
「甘いモノは好かぬ」
「じゃあイチゴでもバナナでもど〜んと来い!」
「……………馬鹿目が」
「はいはい、その台詞聞き飽きたから」
ブチブチと文句を漏らしつつも、司馬懿はに背中を押されてコンビニに入った。
「どこで食べよっか?」
コンビニを出て、買った物を入れた袋をブラブラとさせながらが問うと、司馬懿は「別にどこでも良かろう」と呟いた。
「じゃあ寮のロビー行く?」
「私を殺す気か?」
「殺す?ロビー行くと死ぬの?」
司馬懿の言葉の意味を理解出来なかったのか、が首を傾げる。
「分からぬか?」
「全然イミフメーなんだけど」
「……………馬鹿目が」
「馬鹿でもいいから、意味は?」
が急かすと、司馬懿は眉間に手をやりながら、溜め息を吐く。
「こんな時間にロビーで仲良く甘い物を食べていたら、私の命が危なかろう?」
「余計に意味が分かんないんだけど………」
「少しは頭を使え」
「司馬さんの問題は遠回し過ぎて分かりません!」
司馬懿からすれば、これだけ正解に近付けて言っているのに、当のは全く理解不能とばかりに唇を尖らせる。
「お前の親衛隊に見つかりでもしたら、私の命がないと言っているのだ」
「へぇっ!?」
最後にやはり「馬鹿目が」と呟いて溜め息をつく司馬懿に、がナニソレ!?とばかりに目を丸くした。
「名を上げれば切りがないが……馬超、趙雲、孫権、姜維、陸遜、甘寧。それから………」
「ちょ……ちょっと待って!」
「何だ?」
「親衛隊って何ソレ!?いつあいつらがあたしの親衛隊になったワケ?」
「いつと聞かれてもな………」
冷静に分析して言う司馬懿に、が納得行かないとばかりに待ったをかけるが、先に上げた6人は、誰から見ても『親衛隊』だろう。
本人からすると「司馬さん見解可笑しいでしょ!?」と思う所だが、全ての人が「親衛隊でしょ、ソレ」と思っている限り、完璧に親衛隊である。
「大体、親衛隊って言うか友達だし!」
「……………そうか」
「ってゆーか、デザート食べようよ」
「そうだな」
も司馬懿も、別段この話に特に何があるわけでもなかったらしく、話題はすぐにデザートに戻った。
「じゃあ校門前で食べようよ?」
「私は別に食べなくても………」
「女に奢らせておいて言うセリフそれ?」
別に司馬懿が集ったのでもないのに、は偉そうにふんぞり返って唇を尖らした。
それに司馬懿が更に溜め息をついた事は、言うまでもない。
「いただきまっす!」
「くく………太るぞ?」
「うっさい!黙って食え」
校門前に陣取ったは、さっそく袋からブツを取り出し、パクつき始めた。
「ほらほら!司馬さんも早く食べなさい」
「本当に私に食べろと………」
「だって甘いモン嫌いっつったのそっちでしょ?」
「ぐっ…………」
が司馬懿用に取り出したブツは、バナナだった。
「甘い物は好きではない」とのたまった司馬懿の為に、「じゃあ果物にしよう!」と彼女なりに気を使ったのである。
「ほれほれ!あたしの奢りなんだからね!」
「ぐぅ…………い、いらぬ」
グイグイと押し付ける様にして渡されたバナナを、司馬懿は拒否する。
「ホラ!早く!仕方ないなぁ〜。………ホレ!」
「くっ…………凡愚め」
「聞き飽きたって言ったっしょ」
今度は御丁寧に皮まで剥いて、は再度バナナを押し付けた。
「あっ!もしかして………」
「何だ?」
急に何か閃いた様に、が手をポンッと叩いた。
司馬懿がそれを訝しげな顔で見つめる。
「やってほしいの?『あ〜ん☆』って」
「なっ!?」
からかう様にがニヤリと笑うと、司馬懿の頬が赤く染まった。
「…………………………っの」
「ん?何?やってほしいの?」
免疫のなさそうな司馬懿をからかえたのが楽しかったのか、が暫く笑っていると、司馬懿がポツリと呟く。
がそれに乗じてさらにからかおうとすると…………。
「馬鹿目がぁ!!」
深夜を回る頃、司馬懿の怒声が園内全体に響き渡ったのは、言うまでもない。