珍・学園無双〜外伝〜

〜二泊三日・湯煙の旅/1〜






七月。

夏休みももう間近!とテンションの高くなり、浮かれた奴等が多い、とある某日。

ロングバケーションさながらに、観光名所としては大層有名なとある観光地で、女性の楽しそうな声が響き渡った。



「いーやっほ〜〜〜い!!」

「……はしゃぎ過ぎだ」

「それでこそ、だろう?」



爽快な声を上げたの両隣りでは、自称その『兄』を名乗る男性が二人。

右隣に立ち、両腕を頭に乗せながら、余りの暑さにうざったそうに返すのは、馬超。

左隣に立ち、大量の荷物が入っていると分かるドラムバッグを抱え、涼しい顔をしているのは、趙雲。



さん!ついでに馬殿に趙殿、待って下さいよー!」

「おいてけぼりは酷いです〜!」



そして、その後ろから彼等に声をかけるのは、陸遜。

更にその隣には、陸遜と共に『弟』と認められた、姜維。

陸遜は自分の荷物なのだろうが、姜維は何故か彼は2〜3人分の荷物を背負っている。

どうやら、彼の抱える荷物は、や馬趙コンビのものも含まれているようだ。



更に彼等の後ろには、大型のバスが2台。

そこからゾロゾロと荷物を抱えて現れたのは、無双学園の生徒達だった。



「キャ〜〜〜〜〜☆お姉ちゃん見てみて!!凄いおっきぃ旅館だよ〜!」

「本当ね!しかも、すぐ目の前が海なんて……素敵」

「こらこら、そう走り回るな小喬君」

「そうだぜ〜小喬、お守する大喬が大変だぜ〜」



ゴージャス!という言葉がピッタリな旅館(和室洋室・室内バス完備)を目に小喬が声高く言うと、珍しく大喬もテンションが高いのか、キャッキャと飛び跳ねる。

それに周瑜先生が苦笑していると、今現在、教員と生徒という関係ではあるが、孫策も笑いながら大喬の肩を叩いた。



「おぉ!?こりゃすげぇ良い眺めだな!!」

「あぁ、これは中々……!!」

「権様…………荷物をお持ち致します………」



続けて出て来たのは、バスでの隣に座れなかった、甘寧・孫権。

それを追うように、周泰がそっと孫権の肩から荷物を取り上げつつ、バスからぬっと出て来た。










では、何故『無双学園』の生徒や教師達が、学校ではなくこんな観光地に来ているのかと言うと。



事の始まりは・・・・・・説明しておいた方が良いだろう。










* * * 回 想 * * *



いつか、学校行事で『第一次・無双学園大戦大会』が行われたのは、記憶に新しくも古くもないだろう。

結果として、勝者は『軍』であり、それも良い感じに収まった。

・・・・とは思ったものの、回りからはブーイングの嵐。



『これだけやっておいて、他のヤツには褒美はなしかよ』とか『頑張ったんだから、せめてお菓子の詰め合わせが欲しい』とか『馬鹿目が!』とか『キャンプファイヤーしたいですね』とか。

それらは、あの大戦を乗り切った者達の、当然の我が侭といったところ。

そして、勝者へ賞状とトロフィー(そんなもの授与してない)が渡された所で、劉備先生は癒し系笑顔で言ったのだ。



『ならば皆に、何かしらの褒美を与える』(〜決闘・After Image〜参照)



そうこうして、ようやく生徒や教師までもが忘れかけていた頃になって、劉備先生はある日の職員会議中、思い出したように「あ、褒美だけど旅行にしない?もちろん旅費他は全部学校持ちで」と、某吐血先生が聞いたら部屋中血みどろにしてしまいそうな事を、簡単に言ってのけたのだ。

そしてこれも予測通り、周瑜先生のお陰で、会議室はバイオレンスな赤黒色に染まったらしい。



決まったならば、善は急げだ!

大丈夫!旅費学校持ちと言っても、全部私のポケットマネーだから!



そうのたまってくれたマイペース校長により、ふぅっと溜息を零しながら、資料やら何やらを取り寄せ、今はどこが旬な観光所か、と即座にネットで調べてくれた(実はウキウキだったらしい)のは、甄姫先生。

周瑜先生は服が血まみれの為、馬岱先生(保健医)に担がれ、保健室へ。



「旅行……楽シミダ」と言って、甄姫先生の打ち出した資料を、生徒と教員の数だけホッチキスで止め、そう言ったのは、魏延先生。

祝融先生は滾って来たのか、「あたしはバスを手配するよ!」と言って、片っ端からバス会社に電話。

張コウ先生は何をしていたのかと思いきや、彼は「放課後の会議室で起きた、惨劇吐血ショー……美しかったですよ、周先生!」と、机の上に飛び乗ってクルクル踊り狂っていた。



そんなこんなで、劉備先生発案・甄姫先生企画・演出他先生方の立てた旅行計画『大戦お疲れ様トラベル(資料)』は、放課後にも関わらず、寮内放送または携帯呼び出しを食らい、体育館に集まった全校生徒達に配られた。



突発的&即興の旅行計画ではあったが、生徒達は一部を除き、黄色い声を上げて喜んだ。

ちなみに、その黄色い声を上げなかった一部の生徒とは、「行き先は海だ」と言われた為に『嫌な予感』を体全体で感じ取った、の兄を称する男二人だった。




* * * 回 想 その2 * * *



そろそろ夏休みに入り、皆して「夏休みになっても、遊べる人は遊ぼうね」と言い合っていた生徒達にとって、旅費その他全てが学校持ち、という大々的な旅行は、休み前の前菜というよりも、メインに近かった。

全校で旅行など、他の学校では有り得ないが、この少数精鋭制(個性中心)の学校ならば、頷ける。

二泊三日という、長いような短いような旅行も、きっと良い思い出になるのだろう。



そんな事を思いながら、は荷物を纏めて、部屋を出た。



、遅いぞ」

「あ、馬ッチおはよー」

「私もいますよ」

「子龍兄!おっはよー」



と、階段からひょっこり顔を出し声をかけたのは、馬超。

続けて、大きなドラムバッグを肩にかけ、朝も晴れ晴れな爽やか笑顔で登場したのは、趙雲。

そんな二人と軽く挨拶を交わし、階段を降りながら「楽しみー!」と笑う



ロビーに着き、部屋のカードキーを曹丕に渡す為、ベルを鳴らす。

出て来た男は『表』と言われている方だったのか、にこにこと笑って言った。



「おはよう、ちゃん」

「おはようございまーす!今日はT表″なんですね」

「うん。おかげで、清清しい朝を迎える事が出来たよ。ねぇ甄?」



キーを受け取りながら、曹丕が目をやったのは、豪華なソファ。

もそれに習い振り返ると、そこにはデカい衣装ケースを三つも持って行くのか、甄姫先生が優雅に足を組み、座っていた。



甄姫先生は、曹丕の言葉に満面の笑みを浮かべ、「えぇ、そうですわね」とニコリ笑う。

その笑顔だけで、は、彼女がこの旅行を如何に楽しみにしているのか、理解出来た。



甄姫先生のケースの隣には、『曹丕』と名前が書いてある札の下がった、黒い鞄。

どうやらそれを見る限りでは、彼もこの旅行に行くらしい。

だが、彼の仕事はこの寮の管理人故に、全ての生徒達からキーを受け取るまでは、ここに残らなくてはならない。

寮の戸締まりもしなくてはならないし、必然的に、バスに乗るのは最後になるだろう。



名前の付いた鞄、という時点で馬超はニヤニヤしていたが、は苦笑しただけで、爆笑まではいかなかった。

何故なら、甄姫先生と曹丕の微笑ましい夫婦面をチラリと垣間見てしまったから。



夫婦揃って旅行が出来る事など、滅多にないのだろう。

自由奔放で、『校内結婚も可』なこの学園だとしても、互いに職に付いている為、難しいのかもしれない。

甄姫先生の柔らかな笑みを見て、も思わずニコリと返した。



「どうしたの、ちゃん?凄い嬉しそうな顔してる」

「嬉しいですよ〜!」

「どうして?」

「だって、同学年で旅行はあっても、三年生になってからだと思ってたし………それに」



「旅費払わなくて良いしな」

「おやつやお土産代は、自分で持つみたいですね」



『皆と行けるなんて、夢にも思わなかったから』と言おうとするも、ここで兄貴コンビが調子を崩す。

確かに旅行のプリントには『旅費は学校持ち』と書いてあり、パンピーのとしてはうわラッキー!と思ったが、ここで『言わなくても良い暗黙の了解』を口にしたのは、馬超。

そして、何か的外れな事を言っている趙雲は、本当におやつを持って来たらしく(殆どに上げる分らしいが)、コンビニの袋がドラムバッグからぶら下がっている。



階段を降りている際、馬超がジトッと彼のバッグを睨み付け、何か言っていたのはその所為か、と思ったは、またも苦笑が漏れてしまった。








さん、おはようございます!」

「良いお天気ですね!旅行日和です!!」

「おはよう、伯言に伯約!」



寮を出ると、早速待ってましたとばかりにかけられる声。

それに景気良く挨拶を返しつつ、は弟分一号・二号を見つめた。



「やっぱ二人とも、制服着てると初々しいわ〜」

「えっ?本当ですか!?」

「わぁ!ありがとうございます!!」



今回の旅行は、一応『学校行事』という事で、行き帰りだけは制服の着用が指示されていた。

基本は私服、とされているこの学校で、月一の制服デー(Day)しか着る事のないそれは、普段はクローゼットの中にひっそりと掛けられている為、おかしなヨレはない。



はベタ褒めしたワケではなかったが、他の女性からすると(特に年上とか)、相当イジられるだろう美少年二人。

大好きな『お姉さん』から、ちょっとでもそういった言葉がかけられただけで、満面の笑みをまき散らす。

それに「可愛いなぁ」とまたも苦笑しながら、はバスに乗る為歩き出した。



と。



「「」」

「ん?」



困った事に、美少年ズを褒めたのが気に入らなかったのか、声をハモらせたのは兄貴ーズ。

出待ちして一緒に階段を降りた仲だというのに、制服に関して一切ツッコミがなく、他のガキ共を褒めた事に立腹しているのか、目は座っている。

それに何となくイヤ〜な予感を感じたのか、は何か言われる前に「わ〜二人もすっごいかっこ良いよ〜!」と、半ばフォローするよう声を上げた。



「ふん、当たり前だろう!」

「ふふ……そうですか?そうでしょうとも!」



美少年ズは、の『フォローしなきゃ!』という心情が、分かっていた。

しかし、その丸分かりな『フォロー』をそう取らず、途端パアァと明るくふんぞり返ったのは、馬超。

続け様に義兄・趙雲は、その言葉が聞きたかった!と言わんばかりに、先程まで込められていた黒ずんだオーラ(嫉妬心)を引っ込め、爽やかな笑顔をこれでもかと辺りにばらまいた。



「おはよう、!晴れるかと心配していたが、このような晴天で何よりだ!」

「はぁ…………疲れる」



朝から気を使う事になったは、一気に脱力したように、制服とは違いヨレヨレになった。

それに気付かず、孫権がバスの窓から手を振り、声をかけたが・・・。



「権様………チュッパチャップス、食べますか………………?」



周りの歓声にかき消されたのか、意中の相手はその声にさえ気付いてくれず、隣に座っていた周泰からは、出発前だというのに『お菓子交換』を強請られる結果に終わった。



朝からやんやと煩い生徒達に、劉備先生は「良い思い出になれば良いな」と笑った。