珍・学園無双〜外伝〜

〜二泊三日 湯煙の旅・2〜






* * * 回 想 3 * * *



は、バスに乗ろうとしていたが、ふと何か大事な事を聞いていない、と思った。

彼女の思考を見通しているのか、趙雲はニコリ笑い、素知らぬ顔で問う。



、どうしました?」

「え、えっと……………バスの組み合わせとかって、あるのかなぁって」

「ありますよ」

「プリントに書いてなかったから、どうなってんの?」



苦笑いしながら質問に答え、義兄を見上げると、彼は何故だか寂しそうに笑っていた。

それに『何だ?』と訝しげに見つめるに、馬超が勝ち誇ったような顔をして、一枚のプリントをピラリと見せつける。



「あれ?」

「これがバスの並び順。出かける前に、張コウ先生が作ったらしい」

「へぇ〜?もしかして、バスの席順とか、先生達全く考えてなかったのかね?」

「らしいな。慌てて作ったものらしい」

「ふーん……」



手渡されたそれに、じっと目を走らせる。

と同時に、は徐に首を傾げた。



「ねぇ馬ッチ」

「なんだ?」

「なんで一年生が、2つに分割されてんの?」

「知らん」



全く使い物にならない『自称兄』に、は思いっくそメンチ切る。

しかし、んな事しても意味がないと分かっていた為、趙雲を見上げた。



彼女に見上げられ、彼は苦笑を漏らしたが、すぐに説明を開始した。



「まぁ要するに……。
 バスは二台しかない、それにこれは学校行事と言えど、各々の親睦を深める為のものでもある。
 それに、これは劉先生の案であるらしいが………。
 二学年、三学年を裂く事よりも、一学年を裂いて割り振った方が、色々と馴染みの友人もできるのでは?という事らしい」

「簡単に言うと、交友関係を広げる為に、俺達を裂いて、他学年と交流を深めろって事だろ?」

「そうだな。孟起の方が、説明上手みたいだ」



どこか嬉しそうな顔をする馬超に、趙雲が苦笑いで答える。

は、何故、先程から馬超がそんな顔をしているのか分からなかったが、プリントに書いてある『一年生分割表』を見て、「あっ」と声を上げた。



分割表には、こう書かれていた。



[二学年と同乗]
●関平 許チョ 呂布 姜維 孫策 小喬

[三学年と同乗]
●陸遜 典韋 張飛 ホウ統 馬超 



な、なんと!今なんと申した!!?

そんな心情が現れるように、目を見開くを見て、馬超は白々しく「どうした?」と聞いて来た。



「ちょ、ちょっと待ってよなにコレ!?何であたしが三学年なの!!?」

「公平に、くじ引きで決めた結果だろ」

「え、これくじ引きで作ったの!?ちょっと待ってよシャレんなんないからー」

「俺が一緒なんだから、良いだろう?」

「悪かないけど、子龍兄と離れ離れなのが、シャレんならないんだって!!」



趙雲とは違うバス、というだけで、何がシャレんなんないのか分からないが、のテンションがおかしい。

嫌な予感・・・。

それを全身で感じとったのか、馬超は額に汗かきながら、一歩後ずさった。

趙雲も同じく。



と、と離れた事を今し方知ったのか、甘寧が「ーー!!」と叫びながら、何故かバスの上から飛び下りついでに抱き着こうとする姿。

『あ、今はやめた方が良いのに』

そんな事を馬超・趙雲、そしての異変を感じ取ったのか、彼女に近付くのをやめた頭の良い組(陸遜・姜維)は、思ったのだが。



ーーーーーーー!!!!離れちまったけど、お前に対する俺の愛はグベヴォ!?!?!?」

「チッ!なんでくじ引きにしやがったんだ、チクショウめ!!」



振り向く事なく放たれた『覇王・裏拳』は、見事に甘寧の顔面にメリ込んだ。

はそれに見向きもせず、口悪く舌打ちまで付けて、ビビる馬超に「とっとと乗る」と言って、バスへ乗り込んで行く。

新たに『覇王・伝説』が作り上げられたと共に、「では出発しますよ〜」という、張コウ先生の滑らかかつ裏声に慰められるよう、二学年用のバスにメリ込んだ甘寧の目尻からは、一筋の『やり遂げた』涙がこぼれ落ちた。










* * * 回 想 4 * * *



バスに乗り、のテンションも落ち着いた所で、またも問題が起きた。

普段から登校中だろうが、授業中だろうが、放課後だろうが、必ず学園内のどこかしらで爆発の絶えない学校ではあるが、今回は『誰が誰の隣で〜』という、初歩的な席取り。

生憎プリントにはそこまで書いてなかった為、誰が誰の隣に座るか、ここそこでモメていた。



ではないか!俺の隣に座らないか?」

殿、私の隣は如何か?」

「この際、女なら誰でも良いわ!おい女、こちらへ来い!!」



早速と言って良いほど、一斉にお声がかかる。



まずは孫家のパパ・孫堅。

負け時と紳士な態度で名乗り出たのは、張遼。

そして、失礼に輪をかけた物言いの、董卓。



だが、それもそのはずで。



三学年には、殆ど女っ気がない。



紅一点・星彩という少女がいるが、彼女は愛想を振りまくタイプではない。

それより、旅行という行事に緊張したらしく、昨夜は眠れなかったのだろう。

良さそうな席を見つけ座ると同時に、誰が誰になるか、という事にも構わず、早々に寝てしまったのである。



それに、関平とは話をするものの、一定の人間以外とは余り喋るのを良しとしない為、後は隣が誰であろうと構わないようだ。

彼女とは、趙雲繋がりで仲良くなったが、自身、彼女が『無愛想』とは思わないし、むしろそういう性質が『かっこ良い』と思っていた。



話を戻して。



孫堅・張遼・董卓他、何を思ったか諸葛亮(多分、月英と居れない寂しさを、紛らわせようという私情だろう)やら、皆のとっつぁん代表の黄蓋まで、彼女に声をかけ始める。

逆ハーと疑われそうな、ある意味おいしい展開だ。



としてみれば、皆のお誘いは、大層嬉しかった。

しかし、『子龍兄がいなければ、隣に座りたい男は、只一人!!』と、腹の内で蠢くドス黒いものを抱えていた。

彼女が狙う席は、ただ一つ!!



「えっと…………あたし、実は元じょ……」

「却下」

「むグッ!?」



狙い目も狙い目、夏侯惇の席に座りたい!と逆指命しようとした矢先、彼女の口を、馬超の大きな掌が被ったのだ。

としてみれば、冗談めかして言おうとしていただけに―――それで断わられれば、しゃーないかと思っていた為―――、盛大に邪魔する彼は、最早壁でしかない。

勢い良く取り払おうとした彼女の手首を、馬超は余裕で受け止め、顔を近付けてニヤリ笑う。



「んぐっ、ムグぐぐ!!」

「何言ってるか、分からん」

「グぐむぐっむぐグぅ!!」

「プッ、面白いなお前」



ちくしょー離せ!と言ってみたものの、それは彼にとって、笑いのツボを刺激するだけだったらしい。

くっそー!と思ってみても、女と男の力の差は、覇王化してない彼女故に、当たり前のように違う。

すると、そんな彼女の目の前に、跪いて手を取った若者がいた。



さん、どうか私の隣に座って下さい!」



そう言って、実に爽やかな笑顔で言ったのは、陸遜。

彼は、と同じく『三年生と同乗組』に入っていた為、美味しい所をかっさらう役を狙っていたっぽい。

そして、それに憤慨したのは、馬超かと思いきや・・・。



「陸遜、それは俺に譲る所だろう!!」

「陸殿、いきなり現れて攫おうとは、良い度胸ですな!!」

「とにかく、その女はワシの隣じゃーーー!!」



先に声をかけた孫堅・張遼・董卓他の男性陣。

しかし、そんな野次で「す、すみません」と言う程、彼は可愛い性格はしていない。



陸遜はににこやかに微笑むと、馬超に咄嗟に目配せをする。

馬超もその意を受けて、『今は致し方ない』と言うように、の目と耳を、その大きな両手で器用に被った。

「え、なに!?」と、急な目隠し、耳隠しには驚いていたが、馬超の「ちょっと黙ってろ」の一言で、了承したらしい。



陸遜はそれを見届けると、徐に立ち上がり、背後で野次を飛ばす『どっかの馬の骨』共に、彼女には絶対見せないT裏の顔″を出した。

そして、一言。



「そこまでの隣に座りたいのなら、月英殿から頂いた、このプチ連弩(炎玉装備)にて、この陸伯言がお相手致しますよ?」



さり気なく『さん』付けを取った所が、また彼の腹黒さを強調させる。

そして、モブ達が彼の手元を見ると、成る程プチの名に相応しい連弩が・・・。



この小僧、侮り難し!!

勇猛果敢な男達がそう思うと同時、それで勝利を確信したのか、陸遜はキラキラと爽やかに、かつ黒く笑って見せ、今一度、に向き直った。



問題は、ここからだった。

馬超はから手を離し、陸遜と対峙するよう睨み付ける。

そう、陸遜にとっての最後の敵(?)は、馬超。



何が最後なのかは分からないが、『モブも黙った事ですし』と、彼は馬超とのTの隣、席取り合戦″の決着を付けようとした。

しかし、戦利品であるは、ある一点を見つめると、彼等の戦いをヘシ折るように、笑顔で言ったのだ。

それこそ、何の躊躇もなく、興味から出た言葉のように。



「あっ!司馬さんじゃん!!あたし、司馬さんの隣に座る!!!!」



憂い憂いとして―――15点で、何かに親近感が湧いていたのだろう―――司馬懿を指命したには、流石の馬超・陸遜も、開いた口が塞がらなかった。

というか、『何故、司馬懿なのか?』という疑問が、頭を駆け巡っていた。

指命された司馬懿はというと、別段気にも止めていなかったのか、座りたければ勝手に座れと言うように、ちゃっかり隣の開いている席に座っていた。