[炎の英雄の待つ地にて]



 すぐさま転移を使い部屋まで戻り、未だ寝ているルカを叩き起こした。

 「貴様……なんなのだ、いったい…。」
 「早く支度して! あいつが、紋章を使った!!」
 「なに? ……行くぞ!」

 元々寝起きの悪くない彼だが、話を聞くとすぐに剣を腰にはき、バンダナとマントを身に付けた。
 彼が準備を終えたのを確認して、気配の消えない内に、は右手を掲げた。






 目を開けて、まず自分達のいる場所を確認した。どこかの洞窟のようで、辺り一帯は岩に囲まれている。
 先に動き出したのはルカで、眉を寄せながら足を踏み出し、辺りを確認し始める。
 だがは、それを止めた。そしてある一点を指差す。そこには、不可思議な模様の描かれた円形の床。

 「……なんだ、これは?」
 「これ……もしかして…。」

 見ただけでは判断がつかないが、すぐにそれが意味するものを理解した。感覚的に伝わってくるその模様は、どこかへ転移するための法陣。確信はないが、絶対そうだ。
 その直感より枝分かれした感覚が、この場所が『封印されていた』ものだと言っていた。そして、それは何らかの力の解放によって、この場に張られていた結界が破壊され、ひずみが出来たこと。
 ゲートが緩んだ、と。なぜそう感じたのか分からなかったが、その発光する模様の発する何かが、己の紋章を通じてそう言っていた。

 「おい…、どうする?」
 「これに足をつければ、きっと……どこかに通じる。」

 確信じみたその物言いに、彼が不可解そうな顔をした。しかし、時間がないことを知っていたため、素直に従う。
 二人で共に、その円形に足を踏み出す。
 途端、そこから溢れ出した光に飲み込まれた。






 光が止んだ。
 目を閉じていても明るみに出ているような感覚が、少しずつ引いていく。
 それが完全に収まったことを肌で確認してから、ゆっくりと目を開けた。

 そこには・・・・・・

 「なっ…!?」
 「誰……だ…?」
 「……くっ…。」

 まず目に入ったのは、旧知であるサナ。彼女は、自分達の登場に酷く驚いた様子で目を見張っている。
 次にクリスと、いつかチシャで彼女を罵っていた赤い服の少年と、その仲間達。
 どうやら、ここで戦闘が行われたらしく、皆そろいも揃って膝をついていた。

 次に・・・・・・・

 『なんで、あんたが…? あぁ、でも変わらないなぁ…。』

 眼帯をつけた、背の高い黒髪の男。目深に被った自身の瞳と男のそれが、かち合う。だが、男に懐かしさを覚えている暇はなかった為、構わずに逸らした。
 すると、クリスの傍にいたナッシュが声を上げる。

 「なっ…、お前……なんでこんな所に? 城に行ったんじゃなかったのか…?」
 「……………。」

 彼の言葉に、返事をしなかった。その代わり、ほんの少しだけ視線を向ける。
 次に、背後に目を向けた。そこには、自分が『目的』と称した者達が立っている。

 『ルック………セラ………。』

 心の中で彼等を呼び、その姿を真っ直ぐに見つめる。自分の登場を歓迎していないことは、その瞳を見ていれば分かった。だが構わず、彼等に一歩近づく。

 「なぜ………あなたが……!」

 後ずさりしながら、まず口を開いたのはセラだ。自分の登場に怯えるように、拒むように。言葉を紡いだその唇が、微かに震えている。
 それに何も返さずに、もう一歩踏み出した。

 その時だった。

 「………この地を去れと…………言ったはずだ。」

 仮面をつけたルックが、重々しくくぐもった声で呟いた。
 この地へ来てからは、それしか口にしてくれない彼。それ以外に交わした言葉はなく、やはり今回もそれだけで・・・。
 でも、今度は、それだけで姿を消させない。逃がさない。自分の背を押してくれた者がいるのだから、迷わない。
 もう一歩、踏み出そうと、した。

 「…。」

 ルカの声が、それを制止した。それは、次に自分がどのような行動に出るのか分かっているからこその牽制。馬鹿な真似は止せ、と言っているのだ。
 ゆっくり振り返ると、思った通り彼は顔を顰めている。足枷をつけるような事になるぞ、とその瞳が言っている。
 それに小さく首を振ってから、破壊者と呼ばれる者の一人に目を向けて、右手を差し出した。

 「俺を…………連れて行け。」