[戦いの誓い]
の制止も関わらず、破壊者と12小隊の戦いが始まった。
だが、それは『激戦』とも呼べないものだった。一瞬の内に、勝敗が決してしまったのだから。ルックの持つ、『真なる風の紋章』の最強魔法によって。
風の申し子と呼ばれていただけあり、彼の風魔法は、目を見張るものがある。その中でも最強を誇る『永遠の風』を使われてしまっては、いくら鍛え抜かれた彼等でも耐えきるだけの力は無かった。
ジョーカーにジャック、そしてアイラは息はあるものの、その衝撃で気絶。そして、エースやクイーン、ゲドは意識があるものの、膝をつき立ち上がる事もできないほどダメージを受けている。
そんな彼等を目に、は、静かに項垂れた。
彼の風魔法の威力は、何年も共に過ごしてきた自分が、一番よく知っている。目の前の傭兵達では、絶対に耐え切れないと、もちろん分かっていた。
だが、ゲドがそう易々と紋章を手放すことはないだろう、とも思っていた。にも関わらず、やはり紋章術の得意なルックに打ち勝つ事は出来なかった。
・・・・・仕方がない。
額に宿る盾紋章を使おうと、目を閉じる。だが、ゲドに制された。
「ゲド…?」
「………………俺達のことは、気にしなくていい。」
「でも…」
意図が分からず眉を寄せると、彼は、全て理解したように言った。
「………俺達のことは………後でいい。」
「なに、言って…」
「………………『家族』を……連れ戻すんだろう?」
「!!」
彼は、先ほどの会話のやりとりで、きっと気付いてしまった。自分が探している『弟』こそがルックであると。だからこそ、これから始まる戦いの見物人が少なく済むように、12小隊のことは構うなと言っているのだ。
・・・心が痛い。申し訳ないと、心の底からそう思った。
ギリと奥歯を噛み締め、視線を上げる。そして、敵対を決めた者の瞳を見つめた。
でも、もう一度。もう一度だけ、言葉にしよう。
あんたに、この”想い”が届くように・・・・。
「ルック……なんで傷つけ合う? なんで、言葉を聞いてくれない?」
「……………。」
あぁ、届かない。もうこの”声”は、あんたに・・・。
顔を逸らした彼を見て、もう無理なのだと悟った。もう、この声は、決して届くことが無いのだと。
けれど一瞬だけ、そのペールグリーンの瞳に悲しみが見えた気がした。だが彼は、すぐにそれを打ち消すと、決意を固めたように言った。
「邪魔をするなら………相手が、きみであろうと……容赦はしない…。」
右足を半歩引いた彼。それを目にし、僅かに首を振った。
自分にも譲れないものがある。助けたい人がいる。
他でもない、あんた達を。
だから・・・・・
「戦うことでしか……あんたらを止められないなら……。」
「僕は………これだけは、譲れないんだ……。」
互いの主張に最後の言葉を交わしてから、愛刀を抜き放った。それに呼応するように、彼も瞳に炎を宿し、右手に力を込めた。
だがは、ふと思い出し、指を鳴らした。途端、厚い結界に囲われていたルビークの民が、次々と倒れていく。それを見たゲドが僅かに眉を寄せたが、安心させるように説明した。
「…ゲド、大丈夫。少し眠ってもらうだけだ。あんたの言うように、見物人は、少しでも減らしておきたい。」
すると、ここでクイーンとエースが声を上げた。
「、止めなよ!!」
「そうだぜ! 俺達が、束になっても適わなかったんだぞ!!」
彼等は、口々に『止めておけ!』と言い、自分を心配してくれている。
だから、顔だけを彼等に向けて、笑ってみせた。
「大丈夫だ、二人とも。俺は、絶対に負けない。だから、少し静かにしていてくれ。………あぁ、それとついでに…。」
忘れるところだった。そう思いながら、もう一度指をはじく。途端、小隊の者たち全員を覆うよう張られた結界に、ゲドが目を見開いた。
「……?」
「…あんたら、絶対にそこから出るなよ。出たら、巻き込まれて死ぬぞ。流石に、そこまで俺も面倒見切れない。」
「…………あぁ、分かった。」
小隊全員を覆う結界は、紋章の力に巻き込まれないためのもの。そう伝えると、納得いかないようではあったが、彼らは小さく頷いた。恐らく、自分がこのような芸当が出来ることに驚いているのだろう。
「さて、と……。お待たせ。」
ふっと笑いかけると、一瞬、彼が声を詰まらせた。
これは、いけない。ルックは、直感的にそう思った。
感情のない無表情の中に、僅かに見えた彼女の快楽の笑み。凍るように笑い始めた、その口元。
・・・・・・『彼女』が来る。
その瞳を見据えながら、そう思った。闇の彼女が出てくる気配が、色濃くなっていた。
「……どうしても………戦うことは、避けられないようだね。」
「あんたが譲れないっつったように、こっちにも、あんた達に対して譲れないもんがあんだよ。」
「……出来ることなら、抵抗せずに、ゲドの紋章を渡してもらいたかった。」
「馬鹿言うな。…まぁ、いいや。それより、覚悟しとけよ? 前みたいに、無傷じゃ済まさないからな。」
「っつーか、帰してやろうとも思わないけど。」と付け足して、彼女は笑った。それを見て、まだ彼女が『彼女』と完全に交代していないことを確認する。
セラも同様らしい。恐怖にも似た威圧感を感じながら、ロッドを握りしめている。
だが、彼女のその唇から完全に笑みが消えたとき、その心は『闇』に染まる。
そして、真逆の彼女が出てくる。無慈悲で冷徹な、戦いを好むもう一人の彼女が・・・・。
もし『彼女』が出てきてしまえば、その戦闘能力の高さから、こちらの勝率は格段に落ちる。
「……………。」
そう思いながらも、ルックは、覚悟を決めた。