[来客]
松明の僅かに灯る坑道内で、ゲド達が、モンスターを相手にしている頃。
は、転移で坑道の入り口へ戻ってきていた。ルック達が坑道を抜けてから、そう時間は経っていない。ここで待っていれば、彼等が姿を見せると考えて暫くそこに立っていたのだ。
だが、いつまで経っても彼等が現れる気配は無い。
と・・・・。
ここで光が現れた。しかし、自分の待ち人ではない。
「……ルカ? どうして、ここに?」
「ヒューゴとクリス……だったか? 様子を見て来たが、あいつらは問題ない。」
「…それならいい。最悪な報告になるけど……こっちは、真なる雷の紋章を奪われた。」
「なんだと…? 貴様がついていながらか?」
「……ごめん。」
手痛いところを突いて来る。
しかし、ことの顛末を話すと、彼は実に苦い顔をした。
「真なる土の紋章か…。確か、ハルモニアのササライが所有していた物だったな…。」
「……ササライが?」
「なんだ、知らなかったのか? ハイランドにいる時に、耳にしたことがある。」
「……そうか……あの紋章は、ササライの…。」
今さらながら、あの少年が『真なる土の継承者』だったのかと眉を寄せる。しかし、それはもうどうでもいい。ルックが言っていた事が本当ならば、次に狙われるのは、ヒューゴとクリス。時間が無い。
「おい、どうした?」
「……次に狙われるのは、ヒューゴとクリス。」
「クリスとヒューゴは、ブラス城にいる。」
「ブラス城に…? なんで、また…」
「ハルモニア侵攻との連絡を受けたらしい。城主も、昨日の内に援軍を率いて向かったそうだ。」
「そう…。それなら、直接ブラス城へ行くのがいいよね。」
『目的』は、分かった。五行の紋章を集めて破壊すること。それは、分かっていた。
しかし、肝心な部分が分からなかった。彼等が『どの紋章を破壊したいのか』だ。
もしかしたら、全てかもしれない。だが、それでは辻褄が合わない。全てを破壊することなど、出来はしないからだ。
ルックのやっていた事、そして、言っていたことを全て鵜呑みにするなら、仮に全ての五行紋章を破壊するのだとしても、きっと均衡を崩しながら行わなくてはならないのだろう。
4つで1つを、3つで1つを、そして2つで1つを。
真なる紋章とは、それ一つ一つが強大な力を持つが、1つが2つに勝てるのであっては、あっという間にバランス自体が崩壊してしまう。最終的に、必ず1つ残ってしまうのだ。
「ったく……。あいつ、どんだけ周りに迷惑かければ、気が済むわけ…?」
苛立つ。自分は、いつもいつも後詰めに回る。だが、それならヒューゴとクリスを死守するだけだ。ルカと自分がいれば、あの二人は絶対に守れる。その自信があった。
自分の魔力と彼の剣技があれば、誰にも負けないと・・・・。
「…おい。愚痴愚痴している暇があるなら、とっとと戻るぞ。」
そう言って、ルカが右手を掲げた。
光が止み、目を開けるも、そこはブラス城ではなかった。
彼が狙いを外すなど、ここ最近は無かった為、盛大に顔を顰める。
「……あんた、どういうこと?」
「忘れていたが、お前に客が来ていた。」
「…はぁ? こんな時に、客?」
「あぁ。だから呼びに戻った。」
「……それを先に言ってよ。でも、クリスやヒューゴを守る方が…」
「見ただけで、戦力に成りうると判断したが?」
「…………。」
苛立ちは、まだ続いている。八つ当たりとは分かっていたが、彼にそう言わしめるのだろうからと階段を上った。呆れたような溜め息が、後ろから聞こえる。まぁ、ごめんとしか言いようがない。
しかし、こんな時に来客? 時間が無い時に限って、いったい誰だ?
そう思いながら自室のドアノブを回すと、そこにいた人物達に、言葉を失った。
「………に、まで……。なんで…?」
目の前にいたのは、幼いながらも大軍を纏め、苦悩しながら、それぞれの戦争を終焉に導いてきたかつての仲間達だった。
「やぁ、!」
「……お久しぶりです…。」
「ご無沙汰してます、さん!」
ずっと待っていてくれたのか、穏やかに自分の名を呼びながらまず近づいてきたのは、。次に、そして。
だがそこで、ふと冷静な自分が言った。『がいるということは、ルカの存在がマズい』と。彼は、自分がルカを助けた事を知らない。彼の親友は、うすうす勘付いてはいたようだが・・・・。彼には、はっきりと知らせていない。
故に、ルカに「…先にブラス城に行ってて。」と言って扉を閉めようとするも、それをに止められた。
「待ってくれ、。一応、彼にも同席してもらった方が良い。彼は……知っているんだろ?」
「…うん。」
師より聞いていたのか、それとも裏側の情報を通じて知ったのかは知らないが、どうやらだけは、ルカの事を把握しているようだ。仕方がないので『絶対にしゃべったり、声を出すなよ』と視線で釘を刺し、中へ入れる。
手際良く入れられて差し出された紅茶に口をつけず、ただ彼等の言葉を待った。「飲まないのか?」と言われたものの、申し訳ないが、本当に時間が無いのだ。悠長に茶を嗜んでいるヒマなど、今は、とても・・・・。
そう瞳で訴えると、は、困ったように小さく肩を諌めてから切り出した。
「なるほど…。時間が無いって言うのは、本当みたいだな。」
「じゃあ、やっぱり…レックナートさんが?」
「あぁ。」
紅茶を一口飲み、が頷く。やも、静かに頷いている。
「それじゃあ、。単刀直入に言おう。」
「時間が無いから、そうして。」
いつもの飄々としたものとは違う、真剣な彼の声。言葉を続けたのは、だった。
「さん。僕たちが来た理由は、分かりますか?」
「……大方。」
何となく分かっていた。彼等が、なぜこの地へ赴いたのか。
「…ルックのことで……。」
「………。」
ポツリと言葉を零したに、視線を向ける。
「あなたは……どこまで知っていますか……?」
「…それは、あの子の『目的』っていう意味?」
そう問うと、彼が顔を上げた。波のない静かな闇色の瞳。それに心地良さを感じる。
「あいつは、五行の紋章を集めてる。そして、それを壊すことが目的。」
「……でも、決定打がないことに、きみは気付いている。」
「うん…。一番肝心な部分が、まだ分かんない…。」
「そうだよな。簡潔に話すから、まずは俺たちがどうしてここへ来たのか、そこから話を聞いてくれ。」
「…分かった。」
小さく頷くと、が、に目配せした。その視線を受けて、彼が話し出した。