[全て戻して]
意識が、浮上していく。それは、いつものような急激なものでない。
ゆっくりと、優しい力で引き上げられるように。
それは、”目覚め”の時。
無意識に映し出されるパノラマ。それに見えたのは、かつて自分が無くしていたはずの『記憶』たち。ずっと、ずっと忘れていたはずの。
・・・・違う。忘れていたんじゃない。消されていたはずだ。
自分が、この世界を選んだあの時、師の手によって・・・。
より渡された、数々の記憶。それは、目まぐるしく映し出されては消えていく。この『幻想水滸伝』という世界を。
移り変わる景色。意識が覚醒していく中で、それらを、まるで映画を見るように見ていた。
だが、それも『ある一つの場面』で、重大さを確認する。
遺跡のような場所。シンダルのような。『』として、忘れていたはずの。
でも、今は違う。『』の記憶があるからこそ、それがシンダル遺跡と確信出来る。
その場所も、今となっては、このグラスランドのどの地にあるのか、戻った記憶によって理解し得る。
「リザードクランの………北!!」
その地で彼らは、『儀式』を行おうとしている。
何の? ・・・・風の紋章を壊し、”灰色の未来”から救う儀式を。風の見せる記憶に心を痛めるが故。人の未来を憂うが故。
それによって、あの子は、確実に命を落とす。そして、連れ添うようにあの娘も。遺跡の最奥にある、あの祭壇で。
目覚めた記憶は、様々な情報と共に、これから起こるであろう未来も見せてくれた。
それが・・・・・・それが、正規の『エンディング』。
でも・・・・
彼が、未来を変えてみせると言ったように、自分も、彼等の為に未来を変えると誓った。それが、例え世界のバランスを狂わせる事になったとしても。
それこそが、今の自分にとっての『糧』であるのだ。自分が出来る、唯一の事なのだ。
「っくそ!! 諦めて……………たまるかよッ!!!!」
同時に、意識が急浮上した。
目を覚まし、創世の洞窟から転移した。
今は、とりあえず戻った方が良いかと考えて、ビュッデヒュッケ城へと標準を定めた。
「!」
「さん、大丈夫ですか!?」
「怪我は……?」
光から身を現すや否や、達が声をかけてきた。彼らが居るということは、ここは、標準通りビュッデヒュッケ城の自室。
自分がルックと共に転移で消えた為、心配をかけたのだろう。皆、心配そうな顔をしながら大丈夫かと問うてくる。
「…大丈夫。怪我も何もないから、心配しないで。」
静かにそう答えて、今度は、逆に問い返す。
「ところで………私があの子と消えてから、どれぐらい経った?」
「……また倒れていたのか?」
そう言ったのは、ルカだ。彼は『またか』と言いたげな視線を向けてくる。だが、彼だけではなかった。例の一件のごとく、が眉間を寄せていたのだ。
静かに首を振っていると、ルカが言った。
「一日しか経っておらん。」
「一日も…? そっか…。でも、それなら大丈夫だね…。」
「……なにが……大丈夫なんですか…?」
顎に手をやりながら呟くと、が不可解そうに言う。自分が大丈夫だと言っている意味を、解せないのだろう。
仕方ないのだ。分かるはずもないのだ。この世界に、これから”先”を知る人間など、記憶を取り戻した自分しか居ないのだから。
歴史の記憶を・・・・。
「なんでもないよ。」と笑ってみせる。すると次に、が口を開いた。
「…。ブラス城での戦いなんだけど…」
「あぁ…。その過程も結果も分かってるから、報告はいらないよ。」
どういった経緯を経て、勝利か敗北かを伝えようとしてくれたのだろう。けれど、それを途中で遮ると「ごめんね。」と笑ってみせる。
対する彼は、どうして分かるのだという顔。
「、どういう事だ?」
「それは…」
歴史の記憶を思い出したから、とは言えない。『城内で噂を聞いた』と言うべきなのだろうが、生憎彼は、そんな嘘に騙されてくれるほど愚かではない。
それなら、これをどう説明するべきか。そう思案しながら口を開きかけた時、部屋の扉が控え目にノックされた。内心、それにホッとする。
「だれ?」
「……私だ。」
「ルシア…?」
扉を開けると、自分よりいくらか背の高い、褐色の女性。それを見上げながら、内心マズいと思った。
「…何か用?」
「あぁ…。トーマスが呼んでいる。」
「…城主殿が?」
「あぁ。着いて来い。」
ルシアは、それだけ言うとルカにも視線を向けた。目があった彼は、面倒くさげな顔をしていたが、は声をかけた。
「あんたも行くんだよ。」
「……俺もだと?」
「運命共同体。二人で仲良く行こうや。」
この後、どこへ案内され、そこで誰を紹介されるのか、もう分かっている。最後の最後で仲間になる奴なんて、二人しか知らない。
そして、そこに居る者たちに、何を問われるのかも・・・・。
「…もうすぐ『ラスト』だ。腹を括って。絶対、ハッピーエンドで終わらせてやる!」
そう言ってやると、彼は鼻を鳴らす。
だが、ふとルシアに視線を戻せば、とある二人の男に釘付けになっていた。彼女の視線の先には、と。マズいと思った瞬間、ルシアが声を上げた。
「貴様らは………むグッっ!!?」
「ほらほら、行こうルシア。……おい、とっとと来いよ。」
「ふん、分かっている。」
黙らせる為に彼女の口を手で塞ぎ、ルカに視線を送って部屋を出た。
相方は、やる気なさげに腰を上げた。