[刻まれた名前]
と別れた後。
は、ルカを伴って、転移で城を出た。
向かった先は、ビュッデヒュッケ城から北東に位置する、少し離れた緩やかな丘。そこに、ずっと探していたはずの物が、誰に触れられる事なく静かに置かれているのを見て、そっと歩み寄った。
「懐かしいなぁ……。」
15年前同様、宿星達の名が刻まれた『石版』。それを、つ、と指でなぞる。
風に晒され続けていた所為か、少し薄汚れてしまっているが、聖なる力に加護されているのか、ひっそりとしながらも存在を主張している。
『約束の石版』
これがこの場にあると教えてくれたのは、だった。彼は、師にそれを言伝られており、自分に教えてくれたのだ。
最後の決戦を前にして、願掛けではないが、きちんと目にしておきたかった。かつての、そして、今の仲間達の名が刻まれたそれを。
それに大切な者達の名が刻まれていることを、知っていた。そして自分の名が、決して刻まれる事は無いことも。
地然星には、あの娘の名前。そして天間星には、あの子の名前が。
「セラ…………ルック………。」
彼らの名を口にし、その名が刻まれた場所をなぞる。冷たい感触。
思うことは、ただ一つ。
『絶対に、死なせない』
自分の知る未来のように、彼らを死なせない。
絶対に、運命を変えてみせる。
「絶対に………助けるから……!」
涙は、流さない。それは、全て終わってからで良い。
彼らを助けた後、思いきり泣けば良い。また笑い合えた時に・・・・。
「それまでは……………とっておくよ。」
最後にもう一度だけ、彼等の名をなぞった。
必ず救ってみせるから、と。
彼女が、石版に指をすべらせている間中、ルカは口を開かなかった。
だが、ふと気付く。
彼女が、目を閉じ触れていた場所が、僅かに淡い光を放ったことを。