[ハルモニアの神官将]



 達が、トランとの同盟を成功させた。



 トラン遠征組が戻ってきた、翌日。
 は、ルックから会議があると聞いて、またも大広間に来ていた。
 暫く彼を相手に話していると、がやってくる。

 「おはよう、。」
 「おはようございます!」

 笑顔で挨拶を交わすと、彼は、そのままシュウの元へ向かい、何かを話し始めた。
 ルックと話を再開し、僅かながら穏やかな時間が過ぎていく。
 と、大広間の扉が勢い良く開き、そこから伝令兵が駆け込んできた。

 「何事だ?」

 冷静に問うシュウに、大急ぎで戻ってきたのか、兵士が荒い呼吸をしながら言った。

 「た、大変です! リドリー将軍の部隊が、ラダトで敵の待ち伏せに……このままでは、全滅してしまいます!! 早く援軍を!!」
 「やはり……レオン=シルバーバーグか……。」

 眉を寄せ視線を伏せた後、彼はに向き直った。

 「殿、すぐにも援軍を出しましょう。ここで、リドリー殿を見殺しにすることは出来ません。」
 「うん、分かった!」

 が、全軍に号令をかけた。






 「これは………………そうか、あいつがいるんだな。」

 早急に兵を纏めてラダトへ出陣し、リドリーを救出するための布陣を終えて間もなく、ルックが不意にそう言った。
 何となくその様子がおかしいことに気付き、声をかける。

 「あいつ? あいつって、誰?」
 「……なんでもないよ。」

 軽く頭を振って、視線を外した彼。
 ・・・・・なにかおかしい。訝しげな視線を送ってみるも、彼は「…護衛、頼むよ。」と言って部隊を動かし始めた。






 「進め!! リドリー将軍を包囲している部隊を狙うんだ!!」

 のかけ声と共に、各部隊が、リドリー救出のために動き出す。ビクトールやフリックらを筆頭に、それぞれが、各個撃破を狙って突撃を始めた。
 ルック率いる部隊は『魔法兵団』であるため、敵軍を遠巻きに攻撃していたが、は、彼が集中できるようにと、彼に向かって剣を振り上げてくる王国兵を一人で相手にしていた。
 できうる限り致命傷を負わせる事なく、極力殺さないよう、腕や足に怪我を負わせた。なるべく、相手が早い段階で戦意を失う方法で・・・。

 「……、大丈夫かい?」
 「あんた馬鹿ぁ!? 大丈夫なワケないじゃん! 一人でこんだけ相手にしてりゃあ、多少は疲れるッ!!」

 一つ大きな魔法を放ち終わった彼が声をかけて来たが、それに冗談とも悪態とも取れる言葉を返し、次々と襲いかかってくる敵兵を相手する。

 「……ふーん。そんな軽口が叩けるなら、まだまだ余裕だね。」
 「あんたねぇ……。あとで覚えときなよ!」

 いつもとは逆の立場で進む会話のやりとりの中、ふと、一人の兵士を捉えた。
 次の魔法に集中するため、目を閉じたルックの死角から剣を振り上げている、その姿。

 「ッ…!?」
 「危ないッ!!!」

 無意識に近距離転移を使って、彼を庇う。
 愛刀で攻撃を受け止め、競り合いに突入なった。しかし、自分は女で相手は男。どれだけ長い時を旅していても、当然、その力の差は埋められない。
 今までの旅で、それを嫌というほど経験してきた為、その流れを横へはらった。あまり戦慣れしていないのか、相手は、そのまま前のめりに倒れそうになったが、持ち直されても困るので、とりあえず鳩尾を思いきり蹴り上げてやると、低くうめいて気絶した。

 「……きみ。その武器、意味ないんじゃない?」
 「あんたねぇ…。助けてやったのに、その言い草は無いんじゃないの!? っつーか、これで刺したら死んじゃうじゃん! 『殺せ』とは言われてないんだから、ブン殴って気絶させられるなら、それが一番良い方法でしょ!」
 「……………。」

 その言葉に、彼は、それ以上なにも言わなかった。






 どれぐらい、戦い続けていたのか。
 ルックを狙おうとする敵兵を、あらかた沈めたところで、ふとそんな考えを巡らせた。
 せめて戦の状況が知りたくて、手を止め、こことは別の方へと目を向ける。と、その先で上がった歓声。

 「ねぇ、どうなったんだろ?」
 「……さぁね。」

 額を流れる汗を拭いながら目をこらしてみるものの、敵味方どちらで声が上がっているのか見当もつかない。
 すると、前線で戦っていたはずのビクトール達が、部隊を引き上げ戻ってきた。

 「ビクトール、何があったの?」
 「か…。怪我は?」
 「私たちは、大丈夫。それより…」
 「……済まねぇ。」

 その言葉で、敗戦を知った。

 「…………。」
 「に……報告だ。」

 閉口していると、ビクトールが重々しく肩を叩いた。






 本拠地へ戻って、すぐさま大広間に向かった。
 ルックは「…石版のところにいるよ。」と言っていたので、今回は自分一人で。

 『リドリー将軍が王国軍に捕まった』との知らせは、すぐへ届いたのか、報告を受けた彼は青ざめていたが、シュウが今後の対策を切り出したため、頭をきりかえたようだ。

 「リドリー将軍が捕まって………どうしたら……。」
 「確かに…。しかし、今は、どうする事も出来ません。」
 「……………。」
 「それよりも…………ハルモニアからの援軍がやっかいですね。」

 眉間に皺を寄せたシュウがそう言うと、突如、眩い光が現れた。それがルックであることを知っていたため、は、驚きもせずに光を見つめる。
 光から現れた彼は、に近づくと、言った。

 「そいつは、ハルモニアのササライだよ。」
 「ササライ…?」

 突如現れ、会話に割って入った彼に、は意味が分からないと言いたげに首を傾げる。
 それに構わず、彼は続けた。

 「やっと僕の出番だね。………あいつの相手は、僕に任せてくれていいよ。」
 「……はぁッ!?」

 それまで黙って事の成り行きを見ていたが、その言葉は聞き捨てならない。思わず声を荒げてしまうほどに。彼の身内であるが故、まったく見えない話をされて困惑するのも当然だ。
 ついつい会話をぶった切って、彼の前に立つ。

 「任せろって…、あんた、なに言っちゃってんの!?」
 「……うるさいね。きみには、関係ないよ。」

 彼は、素っ気なくそう言って背を向けたが、黙って行かせるほど自分は物分かりが良い人間ではない。

 「ちょっと、ルッ…」
 「……そうそう。きみは、僕の護衛役として一緒に来てもらうから。そのつもりでね。」

 それだけ言って、彼は、再び光を発し広間から消えた。

 「………………意味わかんねーよ!!」

 大広間に、自分の怒声が響き渡った。