[雑音]



 一行は、トランへ続く森の中に入った。

 暫く森を進んで行くと、大きく開けた場所に出た所で、数人の山賊とみられる男達が、一行を待ち受けていた。男達は、「コウを返せ!」と言うを、鼻で笑った。
 と、その内の一人が、何かに気付いたようだ。誰かが「このガキ共、見たことないか?」と言った。そして、すぐに一人は『解放戦争を率いた英雄』であり、もう一人が『あの狂皇子を倒した同盟軍軍主』であることを知って、顔を青くして逃げていった。

 更に森を進むと、そこには、コウが倒れていた。ぐったりとして動かず、気絶しているようだ。

 「コウ!!」

 が駆け寄った。だが、コウを抱き起こす前に、巨大な芋虫───ワームが現れた。

 「うわ……マジッ!?」
 「チッ! なんだって、こんな時に!!」

 虫が大の苦手なの隣で、ビクトールが戦闘態勢に入ると、皆一斉に武器を構えた。






 最初は、全員で攻撃を繰り返した。
 ワームの攻撃は、そこまで強力ではなく、回復はおくすりや特効薬だけでこと足りた。

 楽勝だ。皆がそう思っていた。
 やったか、と思った一行だが、それがすぐに勘違いだったと気付く。暫くすると、ワームの背中が割れ始めたのだ。
 ペリペリ、ペリペリ。割れるその背を見て「ヒィッ、気持ち悪ッ!」と悲鳴を上げ、は思わずルックに抱きついた。
 ワームの割れた背から現れたのは、巨大な蛾のモンスター。グレイモスだ。

 「ちょっと、嘘でしょー!?」
 「ちっくしょー! これだから、虫系のモンスターは!」
 「……愚痴は後にして、とりあえず、手を動かしなよね。」

 ナナミに続き、悪態をついたビクトールにルックが軽く毒を吐く。
 同じモンスターといえど、形が変われば攻撃方法も変わる。その為、フリックとビクトールとが前衛に出て攻撃を加え、後衛に配置されたナナミとルックと、そして虫が大嫌いなが、後方支援に専念した。

 グレイモスは、雷や毒をたくみに使って攻撃してきた。
 それを、が大地の紋章の『守りの天蓋』や『大地の守護神』などで防ぐ。
 旋風の紋章を宿しているルックが『癒しの風』で回復し、また『切り裂き』や『輝く風』での攻撃も担った。
 ナナミは、後方からでも攻撃出来るため、攻撃を加えながら、ルックが回復しきれなかった仲間に『おくすり』や『特効薬』を使う。

 だが、いくら攻撃をしかけても、ワームが倒れる気配はなかった。

 「ギャーッ!マジ気持ちわりぃッ! このクソがッ、早く倒れろっつーの! てめマジ気持ちわりーんだよッ!!」
 「くそッ! いつになったら…!」

 グレイモスの後ろで倒れるコウを気にしながら、とフリックが顔を歪める。
 さきほどから、もうずっと休む間もなく攻撃を繰り返しているのに、それでもまだ倒れない敵を前に、着実に体力を削られていった。
 隣のルックに目をやれば、先程からデカイ呪文も連発していた為か、彼は明らかに疲弊していた。その額には、じっとりと汗をかいている。

 これは、本当にマズイ・・・・・・それなら!!



 が、そう考えた時だった。



 「ッ!?」
 「え……これは…?」

 の右手が、同時に輝きだした。
 だが、はその右手から溢れる禍々しい光に顔を強ばらせている。は、己の右手から溢れる暖かい光に眉を寄せた。

 その光を見た、途端・・・・・

 「あれっ……なんか…………っッ!?」

 は、自分の意識がブレるのを感じた。
 それは、『何か』が自分の内側から這い出てくるような、ゾッとする錯覚。

 「なに、これ……!?」

 ”それ”に飲まれそうになった、瞬間。
 知らず”それ”は、己の意志を通り越し、まるで己が言葉のように言葉を発した。

 「……”継承者”よ………右手を、グレイモスへと掲げよ……!!」

 その言葉で、の二人が、同時に右手を掲げた。
 禍つ力と、聖なる力。
 その光は彼等の頭上で混ざり合い、その力は確固たる意思を持って、グレイモスに牙を剥いた。

 「くっ…!!」
 「え、なに、なに? きゃッ……!!!」

 辺り一帯を、巨大な力が閃光した。皆、咄嗟に目を閉じる。
 耳には、モンスターの苦痛の咆哮が響いた。






 光と音が消えたあと、それぞれ恐る恐るに目を開けると、あのモンスターはいなくなっていた。まるで、かき消されてしまったように。
 、二人の紋章の力によって消滅したのだ。

 「やった……のか?」
 「……みてぇだな。」

 フリックが大きな息をはき、ビクトールが頭を掻きながら答える。
 は、互いに顔を見合わせていた。次に、互いの右手を見つめる。

 「くん……きみは…。」
 「さん…。」

 互いに認識した、瞬間だった。互いに『真なる紋章を所持する者だ』と。
 と、呆気にとられている二人の間に、グレミオとナナミが割って入った。

 「ぼぼぼぼぼ、坊ちゃん! 大丈夫ですか!? どこか怪我は…!」
 「!! 大丈夫!? 怪我は無い? 痛いとことか…!」

 血相を変えて心配する青年と少女に、二人はまた顔を見合わせた。そして、互いの大切な者に「大丈夫だよ」と笑って答える。

 「みんな、怪我は無い?」

 は、仲間達に声をかけた。皆が皆、互いの顔をみながら一つ頷く。
 ふとの姿が目に入り、近づいてみた。

 「あれ、さん……?」

 声をかけてみるも、彼女は何も言わなかった。ただ、唖然と立ち尽くしていた。
 その瞳は、『信じられない』というように、の右手を見つめて・・・・。

 「さん…?」

 もう一度、彼女を呼んだ。しかし、やはり何の反応も返ってこない。
 埒があかないと思ったのは、自分だけではなかったようだ。今度は、ルックが彼女の隣に立って声をかけた。

 「。」

 しかし、彼女は何の反応も示さない。
 ルックは、を睨みつけた。いつものように。
 そんな彼女から返ってきたのは、意外な一言・・・・だった。



 「なん………なんで……? …なんで………ソウル……イーターが……?」



 その言葉に、ルックは顔色を変えた。
 それもそのはずで・・・・

 彼女は、の持つ紋章が『ソウルイーター』であることを知らない。知るはずがないのだ。何故なら彼女は、あの解放戦争に参戦しておらず、ずっと旅に出ていたのだから。
 それより彼女は、トラン地方で戦があったこと、そしてという英雄の存在すら自分に聞くまで知らなかった。そう、知らなかったはずだ。それなのに・・・・

 彼女は、の持つ紋章を、一度見ただけで言い当てた。
 その『通り名』を口にしたのだ。

 なぜ、きみが・・・?
 どうして、きみが、彼の右手に宿る紋章を知っている?
 彼のことは、知らなかったはずなのに・・・・なぜ、その紋章のことだけを?

 に視線を移した。だが彼は、目が合うとすぐに逸らしてしまう。
 何か隠すように・・・・・彼女の『何か』を知っているように・・・。

 「……。」
 「…………。」

 彼は、何も答えなかった。無視されたことで、無意識に顔を顰める。
 もう一度問いかけようとした時、グレミオの声が上がった。

 「坊ちゃん!! コウくんが………!!」

 その声に反応し、達が、彼の所へ駆けて行く。

 その声で我に返ったのか、彼女が顔を上げた。「?」と小さく声をかけたが、彼女は「なんでも…ないよ…。」と、顔色悪く答えただけだった。






 『なんで…………どうして………?』

 それまで、小さく揺らいでいたざわめきが・・・・・・・今は、心を支配するように大きな波となって押し寄せていた。