[選ばれし者]



 この世界で生活を始めてから、早くも、一年という時が過ぎた。

 レックナートから課された、この世界での最初の課題である『文字の勉強』も、ルックに多大な迷惑をかけながら、人並みに読み書きできるようになった。
 文字を覚えてしまえば、地理や歴史の勉強も地図と本をひっぱり出すだけで、彼に面倒をかけることもなく調べることが出来た。

 始めは、戸惑うばかりだったこちらの生活も、一年も暮らしていれば流石に慣れた。



 夕食を終えたは、皿洗いをしていた。その隣にはルックが立ち、洗い上げた皿を清潔な布巾で拭いている。
 普段、ルックから彼女に話しかけたりすることは殆ど無い。今日も今日とて、彼女の隣で無言で皿を拭いていた。
 ふと彼女が、心底つまらなさそうな溜息をはいた。自分の顔を見ながらため息なんて、なんとなく不愉快だ。そう思い、ルックは口を開いた。

 「……なに?」
 「べっつにー。」
 「人の顔を見て溜め息ついてる暇があるなら、手を動かしなよ。」
 「はぁ……可愛くない…。」

 憎たらしい、と更に愚痴りながら、彼女がもう一つため息。
 それを無視して皿を拭きながらも、『そういえば彼女は、この頃ため息が多いな』と思った。

 「あまり溜め息ばかりついてると、幸せが逃げるらしいよ。まぁ、きみの幸せがどこへ行こうと、僕が知ったことじゃないけどね。」
 「はぁ…。なんでそう口が悪いの、あんたって? ってか、いっつも思い詰めてそうなあんたに、そんなこと言われたくないし。」
 「…………。」

 憎まれ口を叩いてやるも、気乗りしないのか、彼女が肩を落とす。いつもならば「うるせーバーカ!」とか言って、頭をはたいてくるのだが・・・。
 だが、今のルックにとって問題なのは、そこではない。最後の一言に気を取られたからだ。

 「……思い詰めてる? 僕が?」
 「思い詰めてんじゃん。ってか、あんた……自分で気付いてないの? 勉強してる時とか、ふっとあんた見ると、すんごい険しい顔してるよ?」
 「…………。」

 彼女が、勉強中に「小休憩する!」と言って、本を閉じたり髪を弄んでいたことは知っていた。その時、視線を感じたことはあったが、それを無視して自分は本を読み続けていた。余りに視線が強い時は、顔を上げて「…なに?」と問うてやった事もあるが、彼女は「べっつにー?」と言って視線を逸らすだけ。
 そんな彼女から、自分が思い詰めた顔をしていると思われていたなんて、はっきり言って心外だ。ついでに言えば、不愉快だ。
 思い詰めてる? 僕が? 何を・・・・。

 話題を変えようと口を開きかけた。が、それを阻止するように、彼女は言った。

 「思い詰めるほど、自分が追い込まれてるんだったらさ…。誰かに相談してみりゃいいじゃん。難しい問題とか一人で解決できそうにないものって、誰かに相談するだけでも愚痴こぼすだけでもいいから、全然気持ちが変わると思うよ?」
 「……下らないね。第一、僕が思い詰めた顔をしてるなんて、きみの勘違いなんじゃないの?」
 「ふーん…。勘違いなら、それが一番良いけどさ。でも本当、自分でどうしようもない問題だったら、他の人に相談すればいいよ。自分で見えないようなことでも、意外に他の人が知ってたりするかもしれないし。」
 「……きみと討論する気はないよ。第一、きみの頭の作りじゃ、僕について来れないだろ?」
 「クッッソガキっ!」

 直後、振り上げられた彼女の水浸しの手を避けて(その代わり、水飛沫が顔に飛んできたが)、話題を転換しようと思った。
 出会ってたかだか1年の女性に、これ以上おかしな事を言われたくないと思ったし、土足で心に踏み込まれたくないと思ったからだ。

 「……そうそう。そろそろ、きみに転移魔法を教えないとね。」
 「は?」
 「きみが転移魔法を使えないから、いつまでたっても、僕が買い物役じゃないか。」
 「別に、買い物ぐらい私がついて行くんだから、どっちが出来ても変わらなくない?」
 「……分かってないね。僕は、きみみたいな力馬鹿じゃないから、重い荷物を持つのは大変なんだよ。それに、汗かくのは嫌いだし。」
 「だーれが、力馬鹿だ、この知識馬鹿! 男なら、荷物ぐらい余裕で持てる腕力ぐらいつけてみやがれ! お前、タマついてねーのかよ!」
 「…………つくづく思うけど、柄も口も悪い上に、下品だね。」

 またも襲いかかってくる拳。それを軽く避けながら、大げさに溜め息をはいてやった。

 「……嫁の貰い手、無いよね絶対。まぁ、きみを『嫁に貰いたい』なんて殊勝な男、この世には、絶対存在しないだろうけど。」
 「ざっけんな、このクソガキ! 世の中には、私みたいな変わり種が好きな男もいるんだよ!」
 「きみの事を好きになる、変わり種? ……ふーん。それは、是非ともお目にかかってみたいものだね。」

 そう言って避けの体勢に入ったが、いつまでたっても彼女の拳が飛んでこない。訝しく思い彼女を見ると、なぜか微笑していた。
 その姿に、何かあると思い身構えていたが、結局、彼女は何も仕掛けてはこない。相変わらず不気味に微笑むその姿は、本当に本当に”不気味”としか言いようがなかった。
 警戒を解くことなく身構えていると、彼女は、何を思ったか急に笑い出した。

 「……何だい?」
 「はんっ! 実はこないだ、レックナートさんに『貴女には、全く魔法の才能がありません』って言われたばっかりなんだよねー!」
 「………。」
 「しかも『魔法の才能どころか、魔力がまったくありません』って言われたんだよねー!」
 「……それで?」
 「要するに、私は、魔法が使えないってことよ! ははっ!」

 ・・・・バカな奴。と、まずはそう感想を抱いた。
 確かに、師の言う通り、彼女には、魔力のかけらすら感じられなかった。それは、今知ったことではなく、彼女に初めて会ったときから気付いていたことだ。
 それにとてつもない違和感を感じていたが、別に問題になるでも、自分にとっての足枷になるでもなかろうと思ったので、ルックは、それを彼女に口にしたことも師に直接問うこともしなかった。

 しかし、そう力説する彼女に、正直呆れ顔を隠せない。
 同時に、最大限の『馬鹿にする溜め息』がこぼれた。

 そもそも、魔法の才能が『欠片も無い』と言われて笑っている時点で、やっぱりこの女はおかしい。笑うというより、彼女の意図としては、『魔法が使えないから、買い出しに行くのはお前だ!』と優越に浸りたいのだろうが、どちらにせよ、買い物に彼女が付いてくることになっている。むしろ「来るな」と言っても、露店の多く並ぶ、色とりどりの華やかな街に、彼女が行きたがらないわけがない。

 あまりの馬鹿馬鹿しさに、呆れを通り越し、むしろ笑ってしまいそうだった。それすら通り越してしまったため、もう嫌味しか出てこない。

 「……魔法が使えないことを、笑って話せる時点で…きみって頭が相当おかしいよね。要は、なんの取り柄もないって事だろ?」
 「な、なんの取り柄も…!?」
 「……でも、レックナート様の言うことも良く分かるよ。確かにきみには、魔力の欠片を1ミリたりとも感じない。実は、それって凄く不思議なことなんだけどね。普通なら、小さな子供だって多少なりとも持ち合わせてるのに。ということは、きみの頭の中が、相当カラッポってことかな? まぁ、魔術師には向いてないってことは、初めて見たときから分かってたけど。」
 「天誅ッ!!」

 まさに単純の権化。とばかりに、簡単に頭に血が上った彼女の鉄拳を、難無くかわす。そして左手に皿、右手に布巾を持ったまま近距離転移し、やれやれと大げさに頭を振ってみせた。

 「暴力にばかり頼る、きみの頭の中が知れないよ。でもまぁ……さっきも言ったように、その頭には、何も詰まってないんだろうけど。」
 「このガキ! マジしばく!!」

 怒りが爆発した彼女を嘲笑うように「疲れたから、後はきみがやっておいて。」と言い残し、皿と布巾をテーブルに置いて転移した。行き先は自室だ。
 ぽかんとした表情で、それを阻止することが出来なかった彼女を残して。






 洗い物は殆ど終わっていたため、残すは皿拭きだけ。
 復讐はとりあえず後回しにして、今はこの皿を片付けてしまおう。そう考えて、溜め息をつきながら、テーブルに置かれた布巾を取ろうと手を伸ばした。

 その時。



 ────  ────



 「ッ……!?」



 ────  早く ────



 「こ、声…?」



 ──── 早く 私の元に ────



 「なん…で…?」



 ──── 選ばれし者よ ────



 声が聞こえた瞬間、青ざめた。この世界へ来た時の、あの恐ろしい頭痛や目眩に教われるのではないかと思ったからだ。
 しかし『声』は、それだけ言って聞こえなくなった。

 「……な、何なの…?」

 この世界で生活を始めてから、『声』は一度も聞こえなかった。それが、また自分の捨てたはずの名前を呼んだ。その意図が分からず、恐怖で身を折り肩を抱く。
 正体の分からない者の『声』は、自分が『つまらない』と思う度に聞こえていた。だが、この世界に来てからは、毎日新しい発見ばかりだった為、そう思うこともなかった。
 今も、もちろんそうだった。それなのに・・・・。

 『声』は、かつてのように自分を呼んだ。その意味は? 意図は?
 焦りや不安を拭おうと頭の回転を早めていると、光と共にレックナートが現れた。

 「レックナートさん…。」
 「、話しがあります。」
 「あ、私も、聞きたいことが…!」

 彼女に聞けば、あの『声』の事が分かるかもしれない。全てが解決することはなくとも、彼女に相談すれば、何かしらの糸口が掴めるかもしれない。
 しかし、口を開こうとする前に、彼女の転移の光に包まれた。






 自分は、よほどの用がない限り、レックナートの部屋を訪れる事はない。
 「来るな」と言われたわけではないが、あの部屋に入るだけで見えない重圧を背負わねばならなかったし、何よりその部屋へ行くには、階段を最上階まで上らなければならない。
 自分は、転移魔法という技術を使うことが出来なかったし、しょっちゅう階段を昇降するのも嫌だったし、それほど何か重要な用件というものもなかった(大抵は、ルックに聞けば解決した)からだ。

 そんなわけで、転移の光が収まった後、次に来るべき重圧に備えて気合いを入れていたが、それがのしかかってくることはなかった。
 不思議に思い、目を開けてみると・・・。

 「……あれ? ここは…?」

 明らかに、レックナートの部屋ではない。
 それよりも、この場所は、四方八方が岩で囲まれていた。ざっと辺りを見回すも、出入り口と呼ばれるものがなく、転移でしか来れない場所なのだろうと推測できる。
 しかし、ここは、一般で連想するような洞窟とは何か性質が違う気がした。
 確かに、目に入るのは岩、岩、岩なのだが。・・・・・なにか違う。

 直感的に、そう感じた。
 肌に触れる空気は冷やりとしているが、纏わりつく程でもない。
 例えるなら、ここは・・・・・とても神聖な場所?

 ふと、ここで違和感に気付いた。次に、自分の視界がおかしくなってしまったのかと目を擦る。何故なら、この洞窟に『明かり』と呼ばれるものが、何一つなかったからだ。それなのに、ここが四方を岩で囲まれた洞窟で、かつ出入り口がないと認知できた。なぜだか、認知できてしまった。
 けれど、何度辺りを見回しても、光は無い。それなのに見える。

 疑問符だらけで目を瞬かせていると、レックナートが言った。

 「やはり……貴女には、”見える”のですね…。」
 「この中の、って……意味ですよね?」
 「えぇ。”見え”ますか?」
 「はい。でも、何で…?」

 「………。貴女に、”二つ目の選択”をする時がやってきました。」

 なぜ見えてしまうのか。
 そう問うことを許さぬように、彼女はそう言った。
 その言に、自身に課せられた選択がまだあったのかと目を見開く。

 「貴女は、”その存在”に……資格がある事を認められました。」
 「その存在? なんなんですか、それ…」
 「…………。貴女は、その存在を求め、その存在もまた貴女を求めています。」

 こちらの質問もお構いなしに、彼女は、ただただ言葉を紡ぐ。
 そんな彼女を、ただ目を丸くして見つめるしかなかった。

 「この洞窟の奥に眠る、真なる紋章………それを得るも得ぬも、選ぶのは貴女次第……。」
 「真なる…紋章…?」

 思わず眉を寄せる。と同時に、驚きがせめぎ寄せた。
 彼女は、この先に紋章があると言った。先の言葉は、自分がその紋章より得ることを認められた、ということなのだろう。
 しかし、納得のいかないことがあった。先日彼女は、自分に『魔法の才能がない』と言っていた。魔法の才能がないということは、すなわち、紋章を宿すことすら出来ない。そう言われているのと同じことだ。宿す事すらできず、ましてそれを使用するなど、夢のまた夢だと・・・。

 「でも…前に、あなたは言ってたじゃないですか。私には、紋章を宿すことが出来ないって。」
 「…確かに、そう伝えました。しかし、それは”今の貴女”だからです。今の貴女には、魔力の欠片が微塵も感じられません。ですが…。」

 そう言うと、彼女は、一度言葉を区切った。そして、一呼吸分の間を取り続ける。

 「貴女にその力がなくとも……紋章が、貴女を”認めた”のです。」
 「で、でも…!」
 「紋章に認められたならば、話はまた別…。例え貴女にその”素質”すらなくとも、紋章によって、何がしかの恩恵を得ることは出来るでしょう。」
 「私に、紋章が…使えるようになるってことですか…?」

 その問いに、彼女は答えない。
 『言わない』のか『言えない』のかは分からないが、多分後者だ。

 だから、考えた。

 憧れていた、この世界。宿してみたいと思っていた、紋章。
 宿すことすら出来ないと言われた日は、余りのショックに酷く落胆したものだ。
 だが、自分を選んでくれたという”その紋章”を宿せば、使えるようになるのかしれない。
 彼女がはっきりと言わないのは、『分からない』のかもしれないし、『言えない』だけなのかもしれない。どちらなのか、自分には見当もつかない。
 しかし、自分を認めてくれた紋章というものが、一体どんな物なのか気になることだけは事実だった。

 「私を認めた紋章って…?」
 「……残念ながら、紋章の名称やその能力については、まだ教えることが出来ません。」
 「んー……。」

 俯いて、しゃがみ込み、更に思案した。
 彼女の言葉に隠された”意図”を探ることに頭を切り替える。そして、それを見つけた。要は、『自分には、それを得るだけの”覚悟”があるか?』ということだ。
 それもそうだ。紋章の名前や能力で得る得ないを選ぶ。それでは面白くない。だが、そこには、確実にリスクが存在する。生半可な気持ちで『真の紋章』と呼ばれるものを持つことは、後の後悔の元になるかもしれない。

 自分は、今、試されているのだ。

 更に考えた。
 真の紋章には、個々に『呪い』と呼ばれるものが存在している。自分を選んだ紋章に、どんな呪いがあるかも分からない。その呪いと対峙する”覚悟”が必要になってくる。
 だが正直、自分を選んでくれた『それ』を手にしたいという思いが強かった。

 静かにレックナートを見た。

 「得ます。」
 「……覚悟は、ありますか?」
 「私に、その資格があるなら…。」

 言い終えると、転移魔法とはまた違う光に包まれた。思わず息を飲む。
 それを黙って見ていた彼女が、言った。

 「………”全て”を得るという、貴女の覚悟……………しかと見届けました。」






 うっすらと目を開ける。やはり光は無い。分かるのは、先ほどと同じような岩壁に囲まれた出入り口のない場所ということだけ。
 ふと上げた視線の、更にその先。そこに在るものに、釘付けになった。

 岩壁に壮大に描かれていたのは、壁画。そして、その中心に存在しているのは”紋章”。
 目を逸らすことが出来ず、じっと見つめる。
 だが、どうしてだろう? それを見ている内に、懐かしさと悲しみが込み上げてくるのだ。



 ────  ────



 「あっ…!」

 唐突に理解した。この壁画が、あの声とリンクしていると。
 声に呼応するよう、壁画が色を持った。中心の紋章が、淡く発光し出す。

 「そっか…。あんたが、”声”の正体だったんだ。」



 ────  ずっと・・・ ───



 「あんたが……私を、ここへ呼んだんだよね?」



 ──── ずっと 待っていた ────



 「……うん。かなり待たせたちゃったよね…。」

 ゆっくりと光を強めていく、紋章。
 早く、さあ早く、と促されているようで、つい苦笑してしまう。
 先ほどの転移は、これの仕業だったのか。そう思いながら、全くの無意識に右手をかざしていた。



 ──── 待っていた 継承者よ ────



 「何年も待たせて……ごめんね…。」

 今まで自分を呼び続けてくれた”それ”に語りかけながら、そっと瞳を閉じた。






 「紋章は……?」
 「はい、これです。」

 紋章を宿し終えると、またも光に身を包まれた。
 目を開けると、そこには先ほど別れたレックナート。彼女は、開口一番にそう問うてきた。
 右手に宿った紋章を見せると、盲目の女性は、何らかの方法でそれと認めたらしく、話し始めた。

 「。貴女の右手に宿った”創世の紋章”。それは、貴女に必ずしも平穏や安息をもたらすものではありません。ですが…」
 「創世の紋章って言うんですね。……分かってます。自分で決めたことですから。」
 「……………。そうですか。それなら…。」

 レックナートが、転移の呪文を唱えた。光が、自分たちを包みこむ。
 光の消失した洞窟の中に残るのは、ただの無音だった。






 魔術師の塔に戻り、レックナートから”創世の紋章”の能力を、少しばかり教えてもらった。
 今は、まだ全てを教えることができない。そう言われて落胆したものの、少しでも分かるのならと熱心に聞いた。

 一つ目は、創世の紋章は、他の真なる紋章と”共鳴”というものが出来ること。
 二つ目は、共鳴した真なる紋章の所持者なら、世界中どの場所にいても相手の位置を特定できること。
 今はそれだけしか教えられない、と彼女は言い、続けて『私も、真なる紋章と呼ばれるものを持っている』と言った。そして『まずは、私の紋章と共鳴しなさい』と。
 彼女に言われて右手を掲げると、塔全体を覆うほどの光が溢れた。

 これで共鳴は完了だと彼女は言った。それを聞いて、『意外に簡単に出来てしまうものか』と思いながら、彼女に礼を言って部屋を後にした。

 そして、次に、彼女の命に従ってルックの部屋に向かった。
 扉を開けた彼は、最初、何の用事だと言いたげな視線を寄越してきたが、右手の紋章を見せて事情を説明すると、暫し唖然としていたものの承諾してくれた。
 二度目の光が、塔を覆った。



 それから先は、長い永い戦いだった。

 ルックに付き合ってもらい、魔法の指南を受け、自分の中に湧き上がる紋章の違和感に慣れる為、毎日毎日練習を重ねた。



 それは、トランで『解放戦争』が始まる、一年ほど前の話。