[結果への過程・3]



 新しく、歩きやすく舗装されているそれとは違い、道を隠すように茂る枝や葉を歩くことは、”道”を定義している人間には、心理的に抵抗感があるものだ。故に、新道よりも旧道に人気がないのは、当たり前かもしれない。
 それを、ただひたすらに突き進む彼。そんな彼が、一人ぼっちで旅をしてきた事を知るは、その道がどんなに険しくとも、文句を言ったことはなかった。

 しかし。

 「まったく……。なんで、こんな事になっちまうんだよ。」
 「私に聞くなっつーの! っていうか、あんたがこの道選んだんだから、責任取ってよね!」
 「お前……。俺と旅してりゃあ、いい加減に危険があることぐらい分かるだろ?」
 「うるさいよ! そんな事より、こんな大人数、どうすりゃいいわけ!?」
 「………いつも通りに、やるしかないだろ。」

 ならずテッドも、旧道を選んだことを少しだけ後悔していた。
 それもそのはず。二人の周りは、大勢の山賊に囲まれていたのだから。

 「でも……これだけの人数だと、かなり骨が折れるな…。」
 「折れてくれて大変結構! でも、動ける程度に折ってね? あんた背負って山降りるなんて、勘弁だから!」
 「お前……俺だけ折ること前提かよ。ってか、一人で相手したら死ぬぞ、俺。」
 「大丈夫だって! 私の紋章で、ドカーンと援護してあげるから。」
 「まぁ……その『使えない刀』で相手しようと考えなかっただけ、まだマシか…。」
 「……ドカーンとする相手は、あんたに決めたわ。」
 「ちょっ……やめろって! マジやめろ!! 本当、俺死ぬから!!」

 こんな状況でも軽口を叩き合えるのは、片方は『年の功』の成せる技なのだろうが、もう片方は、この人数を相手にすることに焦りがあるからだろう。
 しかし、二人のこの会話が、敵対する者達にとっては余裕綽々と映ったようだ。

 「ほぉ…。この人数相手に、よくもまぁ、そう余裕ブッこいていられんな?」

 山賊を束ねる頭目と思しき人物が、嫌らしい顔を歪めてそう言った。対し、は、ムッと表情を変えた。

 「全然余裕じゃないし。こんな大人数相手にするの、始めてってだけだし。」
 「へへっ! 随分と威勢が良いなぁ、姉ちゃんよ。なんなら今、その小僧だけブッ殺して、お前さんと楽しんだ後に売り飛ばしてやっても良いんだぜ?」
 「…………。」

 男の言葉に、手下達が嫌らしく笑い始める。その言葉の意味を解して、気持ち悪さと寒気がした。思わず歯噛みして、眉を寄せる。

 「ふんふん。姉ちゃんは、なかなか遊び甲斐がありそうだしな。俺が楽しんだ後は、手下共に回して……そうだなぁ。可愛がった後に、良い値で売り飛ばしてやらぁ。」
 「……うるせぇな、糞野郎。」
 「あん?」

 度重なる暴言。リミッターが外れる。

 「今、なんつったよ、姉ちゃん?」
 「うるせぇ、っつったんだよ。この下衆野郎が。」
 「ちょっ……!」

 ここで焦りを見せたのは、テッドだった。彼女の普段の口の悪さは承知していたが、こうなってしまうと手がつけられなくなる。相手からの、これ見よがしな中傷で怒り狂うのも『若さ』だろうが、只でさえ怒りっぽい性格なのに、現在針を振り切っているであろう状態の彼女に、その言葉が届くはずもない。
 すると、山賊の頭は「生意気な女だぜ!」と舌打ちした。

 「へっ。その口の悪さは、後でたっぷり調教してやらなきゃなぁ。」
 「はん! そのムカつく顔面…………私が引き裂いてやらぁ!!!!!」
 「、ちょっ、待っ…!」

 山賊達が距離を詰める間もなく、彼女の右手が輝いた。直後、山賊達を大地の怒りが襲う。彼女の周りにいた者達は、その強烈な一撃を受けて、一斉に地に伏す結果となった。
 しかし・・・・。

 「………随分と………ナメた真似してくれるじゃねぇか。」
 「えっ!?」

 何故か、狙いのド真ん中に位置していたはずの山賊頭は、無傷だった。彼女は、それに驚きを隠せないようで、目を丸くしている。
 だがテッドは、その理由を瞬時に突き止めた。頭目の足下にひらりと落ちた、使用済みの『札』。

 「、焦るな。そいつは『土の守護神の札』を使っただけだ。」
 「………なるほどね。超こざかしいんですけど。」

 暗に『熱くなるな』と言うと、その言葉を受け取ったのか、彼女は冷静さを取り戻す。それに少しだけ安堵して、残る族を見回した。
 戦闘は、避けられない。そう思った矢先、視界に弓を引いている者が目に入った。
 狙いは・・・・・・・彼女?

 そう思うと同時、テッドの体は無意識に動いた。

 「!!!!!」
 「えっ…?」

 ドッ!!

 一方。
 急に呼ばれて突き飛ばされたは、わけも分からず突き飛ばされた。
 頭を打ち付けることはなかった。背中を軽く打ち付けただけだ。痛くは・・・ない。
 でも・・・・・。

 「くっ……。」
 「テッド!!?」

 視界に入ったのは、少年の右肩。
 そして、そこには・・・・・・放たれた矢が。

 「テッ…!」
 「俺に構うな……俺は……大丈夫だから……。」
 「なに言っ………うッ!!?」

 彼の傍に駆け寄り、身を屈めた瞬間。
 自身を襲ったのは、鈍い音と痛み。

 頭が・・・・・・痛い。



 『あぁ、殴られたんだ。』



 そう思った瞬間。

 の意識は、闇へ引きずり込まれた。