[転移台]
新たにトレジャーハンターを名乗る二人を仲間に加えて、ルシファーたちは順調に遺跡の中を進んでいった。
遺跡内は其所此所に罠が張り巡らされており、矢の雨やら落とし穴を筆頭にこれでもかと自分たちの行く手を阻んだ。しかし、それを皆で協力しながら回避し擦り抜けていく。
道中、ハンター二人の経緯を聞いた。少女の名はミリアンと言い、連れの男性はジュレーグと言うらしい。二人は親子ではなくハンティングの相棒で、元々はジュレーグ一人でハンターをやっていたらしいのだが、とある時ミリアンに出会い、その身体能力の高さや素早さに目をとめスカウトしたのだという。
こんな無口そうな男の人がどうやって、このゴリ押し万歳の少女を落としたのだろう。そうは思ったが、うっかり口にしようものなら先程のガクガク攻撃をされると思ったので、ルシファーは留まった。
この遺跡には、それまで出会った事のないモンスターが数多く出現した。
奥に行けば行くほどその数は増していく。まるで、その先には絶対に行かせないとでも言うように・・・・。
それらを何とか撃退しながら、奥を目指した。
戦闘メンバーはを同行者として、前衛にササライ・ジェンリ・ジュレーグ。後衛に自分・・ミリアンの6人。
ジェンリは、『スワローダガー』という武器を二刀流しており、ジュレーグは『篭手』で拳による攻撃を得意としているらしく、ミリアンは『ブーメラン』という飛ばしてもちゃんと手元に戻ってくる面白い武器を使っていた。ルシファーが『ブーメラン』に興味を抱いたのは、言うまでもない。
「ねぇ、ミリアンさん。」
「なにー?」
「そのブーメランっていう武器、触らせて下さい。」
どうしても触ってみたくて、とことこ近づきお願いしてみる。もう札の恨みは忘れた。
ちょっとだけでも見せて欲しかったのだが、ミリアンはそれに「はぁー!?」と、周囲が驚くほどの声を上げる。
「あなた、なに言ってるのー!?」
「い、いいじゃないですか、ちょっとぐらい…。」
本当にちょっと触るだけでいいんです。そう言ってみたのだが、少女は「いやよー!」と断固拒否。それじゃあ僕の武器も触らせてあげます。そう言って棍槍を差し出そうとするも「興味ないわよー!」と一蹴される。・・・なんだか、自分の武器を否定されたようだ。
「そんな、ちょっとぐらい…」
「あなたねー! 自分の武器を他人に触らせるなんて、どうかしてるー!」
「そ、そうですか?」
「そうよー! ねぇ、ジュレーグ? あなただって、自分の武器を他の人に触らせるの、やーよねー?」
「…………。」
少女にそう問われた男性は無言ではあったが、静かにこくりと頷く。・・・・やはり、この男性がどうやって、この少女をハンティングの相棒として口説き落としたのかが気になる。ここまで無口なのだから、手紙でも書いたのだろうか?
結局、少女にこれでもかと拒否されて諦めたものの、やっぱり触ってみたい。だがこれ以上しつこくしてもキーキー金切り声を上げられるのは分かっていたし、口では到底適いそうもない事も分かっていたので、ルシファーは諦めた。
それから、どれ位進み続けただろう?
またうっかり発動させてしまった壁の両側から突き出た槍ゾーンを何とか避け、前後から襲いかかってきたモンスターを倒した後、前を歩いていたジェンリが歓声を上げた。
「わ〜、見て見て〜、ルシファーく〜ん!」
「どうしたんですか?」
手招きされながら彼の指差す方を見れば、その先には大きなフロア。円形のドーム型になっており、天井はとても高く、軽く200名ぐらいは入れるだろう。
「うわ、すごい!」
「なんだか分からないけど〜、ここが一番奥かな〜?」
「行ってみましょう!」
ジェンリと二人で駆け出すと、それを追うように皆も追いかけてくる。だが、フロアの中心にある『台』のような物に目にして、首を傾げた。
円形のフロアの中心に置かれている、円形の不思議な台。素材はフロアの床と同じようだがその縁取りは金で装飾されており、中心部には不可思議な模様が描かれている。その外回りが僅かに発光しているようだが、時々ピリッと音を出すだけで、特に何か罠が張られている気配はない。
と、それを見たササライが「あれ?」と言った。
「ササライ、どうしたの?」
「なんだろう、この感じ…。」
目を閉じ、探るように眉を寄せている。それに首を傾げていると、がその隣に立ちながら、目を閉じ口元に手を当てた。
「これは…。」
「。きみも感じたのかい?」
「うん…。これ、もしかして転移の…?」
「僕もそう思うよ。でも…」
「ここは………魔法が使えないはずでは…。」
二人の中に更にが加わって、何やら小声で話し出す。保護者であるその三人の中に交じりたいと思ったが、横からジェンリに声をかけられたので振り返った。
「ルシファーく〜ん。」
「どうしました?」
「なんだか〜、ちょっぴり寂しそうだったから〜声かけてみただけ〜。」
「あ、いえ…その…。」
「あの三人は〜何か相談中みたいだけど〜。ボク、あの台のこと多分知ってるよ〜。」
「え!? お、教えて下さい!」
そう言うと、彼はニッコリ笑って説明してくれた。
「これは〜、きっと『転移台』だよ〜。」
「転移台?」
「そうだよ〜。幻大国は〜、昔からこの転移台って言うのがあるらしくて〜。」
「どういった物なんですか?」
「これは〜、幻大国内の違う地域に転移する為のモノなんだよ〜。」
「転移…?」
話に聞いた事がある。勉強の時間に習った。転移とは、確か『空間移動』の魔法だ。
使えると相当便利な魔法らしいが、一般人には到底扱える魔法ではなく、相当高度な技術を持つ魔術師しか使えないと。
「っていうことは、これで他の地域にも行けるってことですか?」
もしそうなら、各川の橋を危険を冒して渡ることをしなくても、簡単に幻大国内を動き回れる。ということは、その転移台とやらがある場所にもよるだろうが、国境近くに出られるかもしれない。達と逃げられるかもしれない。
そう考えたのだが、次にジェンリが放った一言によって、その考えは打ち砕かれる。
「でもでも〜。他の地域にある転移台は〜、確か『三国戦争』の時にフレマリアやスカイイースト勢に破壊されちゃったらしいんだよね〜。」
「えっ!? そ、そんな…!」
落胆を隠せない。ここに来たのは”力”を手にいれる為だったが、何より優先しなければならないのが『この国から出る』ことだと、ルシファー自身分かっている。
だからこそショックだったのだが、ふと彼が転移台を見て言った。
「でも〜。パッと見その転移台は、まだ『生きてる』みたいだね〜。」
「え、本当ですか!? それじゃあ…!」
「ウン。使えそうだけど〜、でも半分死んでるみたいだから何とも言えない〜。」
「そうですか…。」
「あれ〜? ボク、もしかして落胆させちゃったかな〜? 言わない方が良かった〜?」
「いえ、その…大丈夫です…。」
受けたショックは、隠そうとしても隠し切れない。彼はそれを分かってしまったのだろう、肩をポンポンとたたいてきた。
「それじゃあ〜、試しに使ってみる〜?」
「え!?」
「半分は死んでるけど〜。半分は生きてるんだから〜、使えない事もないんじゃないかな〜?」
「でも…」
「それは、やめておいた方がいいね。」
横合いからの声に振り向けば、ササライ。話が終わったのだろうか?
すると、目を丸くしながらジェンリが問うた。
「なんでですか〜?」
「ジェンリ。きみも言ってた通り、この装置は一応まだ生きてる。…一応ね。」
「それじゃあ〜、試してみるのも良いんじゃないですか〜?」
「へぇ…どこに飛ぶかも分からないのに? そんなリスクは冒せないよ。」
「どうしてですか〜?」
「ここに来た目的は、確か”力”じゃなかったっけ。ねぇルシィ?」
「そ、そうだけど、でも…」
逃げる方を優先した方が良いのではないか?
そう言おうとすると、彼はそれを手で制して続ける。
「僕らは、決定権をきみに渡したんだよ。それにきみは、”力”が欲しいんだろう? だったら、それを優先す……」
その言葉を最後まで聞くことが出来なかった。それまで、フロア内に宝箱はないかと散策していたミリアンが突如「皆、上、上ッ!! 逃げてーッ!!!」と叫んだのだ。
言われた通りに見上げると、頭上から猛スピードで落下してくる『何か』。
「なっ!?」
「避けろッ!!!」
「っ…!」
それぞれが転移台から飛び退き、落ちて来た物体を見つめる。
金属性の丸い球状。頭上から落ちてきたというにも関わらず、それは、転移台を破壊することなくふわっと宙に浮いている。と思った直後、それが急激に形を変え始める。
球状の物体から、まるで変化するよう音もさせずに形を変えていく『何か』。
それを見たが、小さな声で「シールディフェンダー…。」と呟いていた事を、誰も知るはずがなく・・・・。
「な、なんなの、これッ!?」
「ルシィ、気を抜いちゃ駄目だ!!」
「…来るぞ……!!」
ササライとが武器を構える。
「う〜ん……コレ、すんごく強そうだね〜…。」
「キャー! なんなのこれー!? 如何にも『おれ強いぜ!』って感じじゃないのー!?」
「……騒ぐなミリアン。行くぞ。」
それと見たのか、ジェンリやミリアン、ジュレーグも武器を取り出した。
「…そう…………これが………この子の『最初の試練』……。」
再度、ポツリとそう呟いた彼女の声を聞き取れる者など、ここにはいない・・・。