「アンタは……本当に優し過ぎる。その”力”を、自分の為だけに使わないんだから。」
「あんたの言いたい事は、分からなくもないよ。でも……本当にその”役割”を担うのは、私じゃない…。」
「…アンタのそういう所、昔から全く変わってない。まぁ、オレは好きだけど…。」
「私は…………あんたの邪魔をするつもりはない。でも……」
「でも? …アンタ、分かってないよ。アンタがやろうとしてる事は、結果的にはオレの邪魔をするって事になる。それぐらい分かってんだろ?」
「っ……。」
「かち合っちまった時は……言うまでもないだろうけど…。」
「あいつは……ちょっとやそっとの事でやられる玉じゃない…。」
「…オレだって、それを見越した上で、こうして自ら動いてんだよ。いくらアンタでも……邪魔をするなら容赦しない。それだけは…覚悟しといてくれ…。」
「…………。」
[封印を守る者]
球状の物体から機械兵のような姿に形を変えた、敵。
まずは様子見と考えたのか、ルシファーは前衛に攻撃を、そして後衛には回復を指示した。
相手がどういった攻撃を仕掛けてくるのか分からないので、万が一の為に後衛にそう指示を出したのは、とても良い傾向だ。
そう思いながらササライは、指示通り攻撃を仕掛けに行った。死角から懐に入り、武器を振り上げながらも敵を注意深く観察する。
だが、一打を与えた瞬間『これはマズい…』と思った。シールディフェンダーと呼ばれるこの敵には、物理攻撃がきかなかったのだ。
ガキン! と音をさせてフレールが弾かれ、取りあえず体勢を立て直す為に距離をあけるが、見ればジェンリやジュレーグも攻撃を弾かれて苦い顔をしている。
・・・明らかに分が悪い。紋章が使えないということが、どれだけ不利な事なのか。
と、ここでシールディフェンダーが動き出した。腕を振り上げ、目の前にいたジェンリに向けて思いきり振り下ろす。彼は直ぐさま反応して距離を取り、なんとかその一撃を避けたものの、シールディフェンダーはそれを追いかけて更に二撃目を繰り出した。それを咄嗟に武器で防ごうとしたようだが、流石にその威力には勝てなかったらしく、華奢な彼は思いきり弾き飛ばされる。
「うわ〜ッ…!」
「ジェンリ、大丈夫かい!?」
「ウン、大丈夫だよ〜…。でも、ちょっとだけ危なかったかも〜…。」
・・・相手のリーチは然程長くはないが、振り上げから振り下ろしまでのスピードが思いの外早い。しかも武器で受けようと踏ん張ってもあれだけ飛ばされるのだから、マトモに食らえば内蔵破裂どころでは済まないだろう。
そう考えている間にも、敵は、次にジュレーグを狙ってその屈強な腕を振り下ろしている。上手く避けてはいるが、相手のスピードが予想外の早さである事と物理攻撃が全くきかないという事も相まって、パーティーの士気は早くも落ち始めていた。
「ど、どうしよう…!」
「ルシィ…。」
後方を見れば、焦っているのかルシファーが慌てている。
しかし、ここで甘やかすのは為にならないし、何よりそんな悠長なことをしている余裕はない。下手をすれば全滅を招くのだ。
「ルシィ、どうするんだい!?」
「えっと、あの…っ!」
やはり、決定権を少年に託したのは間違いだったのではないか?
は何か思惑があって少年に全権限を委ねたのだろうが、少年がこれでは混乱だけを招く。戦闘に関しては、まだ自分やが指揮を取った方が・・・・。
そう考えている合間にも、シールディフェンダーは近くで応戦しているジェンリやジュレーグに攻撃を仕掛けている。
これでは埒が明かない・・・・。
相手は、スピードもあり、力も強い。そんな攻撃を受け止め続けていれば、いずれ仲間達の腕が先に悲鳴を上げる。
サッとに視線を向けるも、彼女は僅かに眉を寄せ、唇を噛みながら俯いている。まるで葛藤しているように・・・。
「キャアッ!?」
自分の近くで声が上がり、そちらに目を向ける。
壁際に追いつめられたジュレーグを助けるためなのか、回復役から転じて攻撃を始めたミリアンに、シールディフェンダーが襲いかかろうとしていた。
「ミリアンッ!!!」
シールディフェンダーは、すでに腕を振り下ろそうとしている。
少女に一番近いのは自分。咄嗟に駆け寄り少女を思いきり突き飛ばすと、次に、襲い来る攻撃を受け止めようと身を捻って、武器を両手で突き出した。
しかし・・・・・
「ッ!!?」
「ササライ!!!!!」
振り下ろされている腕に気を取られ、それがフェイクだと気付いた時にはすでに遅かった。もう片方の腕から繰り出された、死角をついた攻撃。
それをなんとか避けたと思った直後、二撃目を繰り出した敵の腕に鋭利な刃が取り付けられていたと知ったのは、左腕に今まで味わった事のない激痛を感じてからだった。
己の左腕に目を向ければ、肩から肘にかけて鮮血が迸る。
「…ジュレーグさんとく〜ん! ボクと三人で引きつけるよ〜!!」
「……承知した。」
「分かった…!」
自分が怪我を負った事で、三人が相手の注意の引きつけ役を買ってくれた。それに有り難いと思ったが、あまりの痛みに膝をついてしまう。
「ササライ、大丈夫!? 早く傷を…!」
心配したのかルシファーが駆け寄ってきたが、あえてこう言った。
「僕は、っ……大丈夫だよ…。それより…早く皆に指示を…。」
「で、でも…僕じゃ無理だよ…!」
「このパーティーのリーダーは、きみなんだッ!! 早く指示を…!!」
「っ…!」
「ササライさん、すぐ止血しますー!!!」
ミリアンが駆け寄って来て腕の止血を始めてくれたが、ササライは礼を言うことも忘れて考えた。
・・・分かっていた。少年を激励しようが、代わりに誰が指揮者になろうが、決して勝てる戦いではないと。『リーダー』という言葉のプレッシャー故かルシファーは固まってしまうし、紋章も使えず、物理攻撃のきかない敵を倒すことも出来ない。
全滅を回避するには・・・・退却しかない。
それを言葉にしようと、口を開いた。
「皆、すぐに退きゃ…」
「、ジェンリ、ジュレーグ、ルシファー!! あんたらは、敵を引きつけて!!」
それまで俯き葛藤していたが、少し離れた場所から声を張り上げた。
「…?」
「ミリアン!! あんたは、ササライの傷の手当を!!!」
「は…はいー! 合点ですーッ!!」
彼女に言われた通りに、ルシファーが達の輪に加わる。
それを横目に彼女を見れば、何か決意したように右手を掲げて詠唱する姿。
「、何を…!」
「あんたは黙ってて!!!」
ここでは紋章を使えない。
森に入ってから、試しに自分が紋章を使用しようとして無駄に終わったことを、彼女だって知っているはず。全滅を免れるには、もう逃げるしか選択肢がない事を・・・。
それより何より、彼女は『円の負荷』によって、その”力”の殆どを『封じ』に使っている。例えこの場で紋章が使えたとしても、それによって威力は半減以下になる。何の意味もなさないのだ。
「きみは、いったい何を…!」
「攻撃系の紋章を持ってる奴は、すぐに詠唱を始めて!! 持ってない奴は、敵の目を引きつけて!!!」
「ですが…!」
「っ、いいから言う通りにして!!!!!」
がそれに何か言おうとしたようだが、あらん限りの声で叫ぶ彼女の気迫を目に、言われた通りシールディフェンダーから距離を開けて詠唱を開始する。ジェンリや自分の止血を終えたミリアンも、敵の射程範囲外から詠唱を開始した。
紋章を持たないルシファーとジュレーグが、敵を引きつけるため前に出る。
「私が合図をしたら、一斉に放って!!!!!」
彼女の声を耳にしながら、ササライは混乱した。しかし何とか思考を巡らせる。
紋章が使えない場所であるのに、彼女は『詠唱しろ』と言った。『合図をしたら一斉に放て』と。
それは、どういうことか?
彼女は・・・・いったい『何』をしようとしている?
『魔法が一切封じられてしまう』この場所で、いったい・・・・何を・・・。
「っ!!」
ここで、とある可能性に思い当たった。
魔法が封じられている場所。魔法が封じられている・・・・封魔の・・・地。
「まさか…!」
封魔。魔法がきかない。影響を受けない地。
それは・・・・・『この世界にある、どの紋章の影響』?
それまで考えもしなかったが・・・・・あった。あったではないか。
『全ての紋章の”影響を受けない紋章”』が。
「覇王の……紋章…?」
そうだ。彼女は”それ”を持っていた。自分は、それを知っていた。
・・・例えば、それが元々この地にあった物だとしたら?
大本がその場に無いとはいえ、その影響を未だに受け続けているが故の『封魔の地』であったとしたら?
例えば・・・・例えば、その”力”を一時的に彼女が『封印』しようとしていたら?
他の紋章からの負荷を負いながら・・・・
更なる負荷を承知で、無理矢理『それ』をしようとしたら・・・・・・
彼女は・・・・!!!!!
「っ、、駄目だッ!!!!!」
咄嗟に駆け出そうとするも、彼女の詠唱終了の方が早かった。
その右手が光ることはなかったが、「今だ!!!!」という言葉が放たれる。
それを受け、仲間達が、一斉にシールディフェンダーに向けて魔法を放った。
「ッ!!!!!!!」
駆け出し、何とか彼女を止めようとするも・・・・・
ドオォオオォォォォオオオオオンッ!!!!!!
仲間達がそれぞれ放った魔法の影響から、辺り一面が砂煙に覆われた。