[分断]
ようやく煙がおさまり、そっと目を開けた。
まず視界に入ったのは、先程の紋章攻撃を受けて大破した敵の哀れな残骸。
「…。」
彼女の方へ目を向ける。
円の負荷や、他の紋章の力を抑えながら『覇王』による影響を一時的に封じて体が耐え切れなかったのだろう、倒れ伏していた。
「っ、!!」
もう一度名を呼んで駆け寄ろうとする。
やルシファーも、足を踏み出した。
その直後。
ピシッ・・・・・ビキッ、ビキッ・・・・
「えっ…!?」
「ササライ、避けて!!」
遥か頭上でおかしな音がしたと思い顔を上げようとするも、ルシファーの声で咄嗟に足を止める。直後、ガラガラと大きな音を立てて天井が降ってきた。恐らく、数人で紋章を発動させた衝撃に耐えられなかったのだろう。
「、を…!!!」
「分かってる…!」
一番近くにいたに彼女を任せ、降ってくる瓦礫を避けながら後ろに下がる。
ドドッ、と一面に音が鳴り響き、フロアは再度、砂煙に覆われた。
煙が沈静化したのを期に目を開けて、ササライは驚愕した。
中心部にある転移台を半円に割るように、瓦礫によってフロアが分断されていたのだ。
「ササライ!」
「ルシィ、無事かい?」
「僕は大丈夫! ジェンリさん、大丈夫ですか?」
「ウン、ボクも平気〜。」
思いの他分厚い天井だったのだろうその量は多く、転移台の力なのかは分からない(さっきよりも発光が強くなっているから、多分そうかもしれない)が、瓦礫から作られたとは思えないほど『綺麗な壁』となっている。
それが何を意味するのかは分からないが、はっきりとしているのは、パーティーが二分されてしまったということ。
こちらは、自分とルシファーとジェンリの三人。
ということは・・・・
「! ミリアンとジュレーグは、そっちにいるかい!?」
「うん…二人ともいるし、も無事だ…!」
「あぁ、良かった…。」
仲間達の安否を確認し、彼女の無事も分かって安心する。
しかし、これからの事を考えなくてはならない。それぞれが一度遺跡から出て、どこかで落ち合うべきだろう。
そう考えていると、ここでルシファーが向こう側に声をかけた。
「! は、本当に大丈夫なの!?」
「…大丈夫だよ…! ちゃんと息もあるし……気絶しているだけだから…!」
「…。」
少年は、きっと混乱しているに違いない。いや、少年だけではなく、自分以外は皆が混乱しているだろう。
紋章が使えないと言われているこの遺跡で、一瞬だったがそれが出来た。そして、『それ』を可能にしたのが彼女だということ。
彼女自身が「使え」と言って使わせたのだ。彼女が『何か』をしたという事は、幼い少年でも理解出来るはず。
だが、それは後でいい。今はここから出ることが先決だ。
ここでジェンリが旅荷から地図を取り出し、ここ一帯の地域を確認し始めた。
傷を負った左腕に痛みが走ったが、気にしている余裕はない。その隣に立ち、同じく地図を見つめる。
自分たちは、遺跡を出るために今来た道を戻り、北側の吊り橋を使えば良い。しかし、達との合流地点を決めかねた。エストサイドかラミを合流地点にしたとしても、北側の自分たちは、そこに行くまでかなりの遠回りになる。何より、ミルドレーン付近の橋を渡らなくてはならない。
どうするべきかと思案していると、ジェンリが向こう側に声をかけた。
「く〜ん! 僕たちは〜、今来た道を戻るよ〜! きみ達は〜…」
「…分かった…! 僕らは、南側を通ってラミの方へ出るから、合流場所は…」
「ラミとエストサイドだとアレだから〜、ミルドレーンにしようか〜。」
「で、でも…!」
二人の会話に割り込むように、ルシファーが声を上げた。
少年の懸念は『狩り』のことだろう。ヘルド城下で見つからなければ、次はミルドレーンやシャグレィ付近で行われていてもおかしくないからだ。だが、ヘルド城塞を抜け出してからすでに数日が経っている。ヘルド地域での捜索は『成果なし』とされ、次はこの地域かヒギト地方になるかもしれない。だとすると、早めにヘルド地方に戻っていた方が良い。
しかし、それをジェンリやミリアン達に言えない。が首都を騒がせている『』だと知られるわけにはいかない。
だからこそ、ササライは少年に言い聞かせた。
「ルシィ、大丈夫だよ。」
「だって…!」
「…いいかいルシファー、よく聞いて。きみが『懸念している事』は、僕にはよく分かってる。でも、次は『こちら』かもしれない。だからこそ、早くこの地域から出た方が良いんだよ。」
「っ…………分かった。」
暗に『狩りが、こちらでも行われる可能性がある』と言うと、少年はうまく受け取ってくれたようだ。それに一つ頷いてからジェンリを見つめると、彼は「それじゃあ〜ミルドレーンで〜。」と達に言って立ち上がる。
「……皆………気をつけて…。」
「ウン、くん達もね〜!」
「…うん…。」
こうして、一つであったはずのパーティーは、真っ二つに分断された。
それが偶然だったのか必然だったのかは、知る由もない。
だがササライは、とても・・・・・・とても嫌な予感を感じていた。
「、皆………どうか気を付けて。」
崩れた天井から流れてくる、まるで”あの時”のような風。
それが、『不穏』を乗せて、自分の頬を掠めていったから・・・。