『桜咲き誇る春。新入生よろしくあたしは、この日、目出たく入学を迎えました。
何をかくそう、この『無双学園』は、超個性チックな人しか入学を認められない!
そんな、ある意味凄い難関な学校!!どんな個性豊かな奴等が一緒なのか!?とドキドキです。
私が入れたから、あんま基準的には高くないんでは?とか思うけど、まぁそこら辺はどうでもいいんだ〜。
学園生活が楽しければ全て良し!!だよね?』
[はじヨロ これヨロ!]
寮制度のセキュリティ万全の学園への道を、一人の女性が傘を深くさしてマイペースに歩く。
待ちに待った入学式。未来に希望を巡らせ、その輝かしい第一歩となるその日は、朝から大雨で少し寒かった。
式典=良い天気、との考えは皆同じだろうが、中々そう上手くはいかない事が多い。
もその中の一人で、朝から気分は鬱だった。
「んで、入学式なんに雨?しかも、どしゃ降ってるし…。」
せっかくの式も、こんな天気では有り難味もあるワケがない。
せっかく気合いを入れてめかしこんで来た服も、ズボンの裾は少し雨に濡れ、髪は湿気を含んでボンバっていた。
ブツブツと文句を言っている間に、は学園に着いた。
「個性重視とか言うワリには…普通の寮制学校と変わらないじゃん?」
前言撤回、とでも言う様に、は目を見張った。
何を撤回と言われれば、外観とは打って変わった園内の内装。
何とも言えないきらびやかさで、赤・緑・青を基調とした、縁や細工は全て金!!という『学び所』とは到底思えない金のかけ様。
その空間内だけ『中国好きな成り金野郎が作らせたの?』と疑いたくなるようなチャイナっぷり。
校長(園長)先生は中国マニアに違いない、と脈絡もない事を思いつつ、は靴箱で室内用の靴に履き替える。
そしてあまりの金の眩さに目が疲れたのか、眉間に皺を寄せつつ、指定されている教室に向かおうと、あらかじめ渡されていたプリントを眺めつつ廊下を歩き出した。
「うぉ!?二階かよ〜。めんどくせーな。」
ドンッ!!
階段を登るのを渋るめがけて、後ろから突撃して来た者がいた。
「うぉう!」
「おわっ!」
はあまりの衝撃に、前につんのめるが、何とか倒れるのを踏ん張って堪えた。
「ってー…。」
「ん?あぁ、すまんな」
ぶつかって来た相手に、メンチを切ってやろうとしただが、切る所か逆にその相手を見て、唖然と口を開けて見入ってしまった。
ぶつかって来たのは身長が180以上の長身の男で、男らしいという表現がピッタリの容姿端麗ぶりだった。
その顔に釘付けになってしまったのだ。
『すんげぇ美形…』
「…大丈夫か?」
「えっ?あぁ、はい。」
あまりにも不躾に見入っていたのだろうか、男はを訝し気に見ながら聞いてきた。
「そうか…。じゃあ失礼するぞ。」
「あぁ…はい。」
男はそれだけ言うと、階段を上がろうとしたが、ふいに止まりの方へ振り返った。
『美形は振り返る仕草もカッコ良いなぁ…』と思っていたへと、戻って来る。
「えっ…?」
「お前、新入生か?」
「あ…はぁ。」
「そうか。なら付いて来い。教室教えてやる。」
「あ…どうも。」
ハタから見れば素っ気なく聞こえるの返事だが、相手が余りにも美形過ぎて、少し気後れしてしまっているだけだったが、相手の男は特に気にしていないのか「行くぞ」とだけ言うと、そのまま一段抜かしに階段を上がって行ってしまった。
「あっ!ちょっと待ってー!」と言いながら、も慌てて後を追った。
「お前、名は?」
「あぁ、あたしって言いまーす。」
廊下を歩きながら、は自己紹介をした。
二階と言っても教室は階段から少し遠いらしく、一番奥に位置するというので、は急ぐのも面倒!とゆっくりと歩を進める。
そんなの歩調に合わせてか、男の方もゆっくりと歩いていた。
「いくつだ?」
「ん、21」
「ほう?俺と同い年か」
男は唇をニッと上げて笑った。
「名前、何てーの?」
「俺は馬超、字は孟起だ」
「んじゃ、よろしく〜」
立ち止まって手を差し出す。馬超も「あぁ」と言って、握手をした。
同い年とあって緊張も解れたのか、はいつもの調子で喋り始めた。
この学園は、年齢に関係無く入学が可能で、中には60を超える者も在学していると聞く、年齢幅のある学園だった。
同学年でも年の差が大幅に違ったりもするらしいので、にとっては同年代がいるのは嬉しかったりする。
「だがな、俺は去年の入学だ」
「え?じゃあ一年先輩かぁ」
「先輩といっても同い年なのだから、気など使うなよ?」
「うーん…頑張るよ」
性格柄なのか、笑うというより不敵に微笑む馬超に、は力を抜いて笑った。
「一緒じゃないのが、ちと残念だねぇ」
「何だそれは?口説いているのか?」
「ぷっ、違うよ。君みたいなのが同じ学年だったら良かったのになって思っただけでーす」
手をひらひらと振りながらおどけているを見て、馬超も笑った。
「そうか、それは残念だ」
「以外と遊び人?」
「んなわけあるか!」
いつの間にか、出会って間もない男と軽口を叩いている内に、二人は目的の教室に着いた。
ドアの前に立つと、新入生はほとんど集まっているのか、ザワザワと声が聞こえる。
「うわ、ちょっとキンチョー」
「気にしてたら身がもたんぞ?」
と言いながら、馬超がドアを開けた。
教員が入って来たのかと思ったのだろうか。
一斉に生徒達は一斉に達を見遣ったが、生徒だと分かるとまたザワつき始めた。
馬超はさほど気にする風もなく、先に入って行った。
そしてドカッと適当な席に腰を下ろすと、長髪の男とお喋りを始めた。
そして、さも昔馴染みの様な口調で、そそくさと中に入って来たに声をかける。
「、こっち来いよ!」
「へっ?あぁ、うん…。」
自分の席を探そうとしていたを阻止し、を呼びつけた。
はきょろきょろと自分のクラスメート達を見回しながら、馬超の隣に腰掛けた。
すると、馬超と仲の良いらしい、先ほどは髪に隠れて分からなかった長髪の、これまた美形君が声をかけて来た。
「あれ?新入生の方ですか?」
『うわ…こりゃまた美形だなぁ…』
「こいつは」
二人目の美形出現に驚きを隠せないをよそに、変わりに馬超が答える。
「。こいつは趙雲だ。字は子龍。俺と同期。」
「よろしく、さん」
「あ…こちらこそよろしく」
差し出された趙雲の手を軽く握って、挨拶を返す。
馬超も美形だが、こちらの趙雲とやらも負けず劣らず美形であった為、少し恥ずかしくなる。
呆然としているに、馬超が目をつけた。
「どうした?さっきからボーっとして?」
変わらず不敵とまでに笑みを作って、考えている事は分かっているぞ?とを見つめた。
「あ、いや。美形が二人もいるから…気後れしちゃっただけ」
「中々正直な奴だな!」
と、自分が言い当てる前に本音を晒したの頭を、よしよしと撫で回した。
「ちょっとぉ!髪型が乱れるっしょ!」
が抗議するが、「んな事気にするなよ。この雨の湿気で元からぼさぼさだろ?」などとかわされた。
「俺は正直な奴は好きだぞ?」
「はいはい、そりゃど〜も」
「本当だって!」
にしてみれば、本当に美形だったから口に出したまでの事だったが、趙雲は世辞と取ったらしく「お上手なんですね」と言ってくすりと微笑んでいる。
すると、ふと趙雲が話題を変えた。
「さんを見た時に思ったのですが、中々背が高いんですね?」
「へぇ?」
「そうだな。女にしちゃ結構でかいな」
それはの身長の話で、彼女は170近い事もあってか、初対面の時には必ずと言っていい程言われる言葉であった。
しかし、本人は言われ慣れている為、あまり気にならない。
馬超の『でかい』という物言いに失礼な、と思いつつも、それに頷く。
「ん〜、よく言われる」
ふっと女らしからぬ笑い方をして、机に頬杖をついた。
「つーか、馬超だってでけーじゃん?」
「俺は男だからでかくて良いんだ」
「何だソレ?差別っスか?男尊女卑ハンターイ!」
「ぷっ!」
下らない言い合いをする二人に、趙雲が笑った。
「笑うなよ」と馬超に横目で言われるものの、付き合いが長いのか、はたまた気が合うのか趙雲はお構いなしだ。
「会って初日から良いコンビだな」
「はぁ?趙雲さん本気で言ってんの!?勘弁だわ〜」
「何だソリャ!?俺への恩を忘れて子龍に寝返るのか、お前は!!」
「ちょっ!いひゃい…」
いきなり名コンビ呼ばわりされて、すかさずが抗議する。
馬超からすると「教室を教えてやったのは誰だ?」と引き攣った笑いを浮かべながらの頬を引っ張っている。
その馬超の手を抓り、手を離させる。
「ひ〜!レディに向かって何事!?」
引っ張られた頬をさすりながら抗議するを尻目に、馬超は再び話を戻す。
「で、どれぐらいあんだ?」
「何がよ?」
「体重とか」
ぶっ!!とが吹き出し「大丈夫ですか?」と笑いながら気遣う趙雲。
いきなりの込み入った話をする馬超を上目遣いに睨み、口を尖らせて言う。
「セクハラですか?」
「そうなのか?」
「そうだろう?」
セクハラ扱いされる馬超に、趙雲はあっさりと切り捨てた。
「ププー!裏切られてやんのー!」
「うるさい!!これも俺に対する子龍の愛情の裏返しだ!」
「孟起、怪しい発言は控えてくれないか?」
に負けたくないのか、尚も抵抗を続ける馬超を更に趙雲はみじん切りにした。
「ふふっ…」
「ははっ…」
二人して笑っているのを見て「んだよ、二人して…」と拗ね始めた馬超を無視して、趙雲はに訪ねた。
「さんは、お幾つですか?」
「21でっす!!」
「なら、孟起とは同年ですね」
「趙雲さんは?」
「私は24です」
「じゃあ、三つお兄ちゃんですね〜」
「おい、俺は無視か?」
自分を置いて盛り上がる会話に、馬超は不機嫌を丸出しにして呟いた。
気のせいか、趙雲を睨んでいる気がする。
「うわっ!馬超って短気なの?」
「どちらかとT言わなくても″短気ですね」
「T言わなくても″って何だ!!」
「うへー。今度は逆ギレだよー。最近の若者はすぐに怒るよねー」
「怒った馬超には何を言っても無駄ですから、そっとしておいてあげましょう」
自分も若者なのだが、おばちゃん口調でそう言ったに対して、趙雲が繋いだ。
「おい!逆ギレって何だその言い様は!?それに子龍!!お前、俺の相棒のクセにの肩持つのか!?」
「いえ、私は正論を述べただけですよ?」
と、どうしてもに勝ちたい馬超を更に追い詰める。
「お前の正義は俺とは違ったのか…」と馬超はヘコみ始めた。
「あっはは!何か面白いね、このトーク」
「さんて、結構楽しい女性ですね」
「いやぁ、それほどでも…」
「俺を無視するなー!!」
そんな事をして三人してギャアギャア騒いでいると、教室のドアが、ガラッと開けられた。
そしてそこへ、当然、全員の目が集まった。