[チョビとダンディ]
「ん〜…眠ぃ…」
ケータイの目覚ましを止めると、は超ダルそうに身をよじった。
「む…ん、時間か?」
馬超もの動作で目を覚ましたらしく、伸びをしながら大欠伸をする。は目を擦りながら馬超の方へと顔を向けた。
「あ〜馬ッチおはよ…」
「おう。テンション低いな…低血圧か?」
「寝起きってこんなモンじゃない…?」
ぼさぼさの髪を手櫛でまとめるは、寝起きだからかまだ頭が働かないようだ。
「そうか?俺は寝起きは良い方でな」
「羨ましー…」
「…元々寝は浅いのでな」
低血圧そうなイメージだったが、馬超は本当に起きたばかりかと思う程はきはきと喋っている。
は身支度を整えるべく身を起こそうとしたが馬超の腕が自分に乗っていた為、顔を顰めた。
「馬ッチ…腕重い…」
「ん、すまんな」
するりと馬超の腕を下ろしながら起き上がる。
「くぁー!二日目かぁ…頑張ろー」
全くそう聞こえない声と共に伸びをしていると、後ろから馬超が頭を撫でてきた。
「…」
「んー?」
眠い目をこすり振り向くと、馬超は一瞬悲しそうな瞳でを見つめた。
「…何?」
その表情があまりに辛そうだったので、の顔が曇る。
ふっと彼の表情が緩み「いや、何でもない…」と言ってから目を逸らした。
「顔洗って来る。洗面所貸せよ」
「え…あぁうん…」
一瞬の事だったがとても辛そうな彼の顔。
は気になったが話をそらせれてしまった為、聞く事も出来なかった。
「タオルは確か…そこのダンボールに入ってるから…」
「おう、悪いな」
仏頂面でタオルを首にかけて洗面所へと向かった馬超だが、その後ろ姿はどこか影を含んでいた。
「…着替えよっと…」
はそんな馬超が気になりながらも、衣服を替え始めた。
いつの間にか自分の部屋に戻ったのか、趙雲の姿はどこにもなかった。
「子龍兄帰っちゃったのかな?」
「だろうな」
身支度を整えている内にの頭は冴えてきたようで、まず趙雲がいない事に気付いた。
「なんだよつまんなーい!」
「俺じゃ不満か?」
「んーどうでしょう?」
「何だその含みのある物言いは?」
馬超に先程の影はなくすっかり元にもどったようで、むにっとの頬を引っ張った。
「別に怒る気もしないしー」
「…ならこれならどうだ?」
ニヤリと笑って、今度は逆に押し出した。
「…馬鹿にしてる?」
「どうだろうな?」
「…ムカつく」
いつの間にか立場は逆転していた。
悔しくて馬超の脇腹を突つくが全然効果はない。むしろ鼻で笑われてしまった。
「ふっ、そんなものでは効かんな」
「弱点ないの?」
「アホ。誰が教えるか」
とのでこを小突いて笑った。
「ふ〜んだ。子龍兄に聞くもんね」
唇を尖らせてそう言うが、「口止めはしてあるのでな」と馬超は笑った。
「では俺は部屋に戻る」
「じゃあ学校でね!」
「…迎えに来てやろうか?」
「遠慮します!!子供じゃないし!」
ひらりと手を振って力強く答えるに苦笑しながら、馬超は自身の部屋へと戻っていった。
「おはよー!!」
「お〜!」
「うっす!」
「意外に早かったな」
教室のドアを開けて三人衆に声をかけると、皆待ってましたとばかりに返事をくれた。
孫策・典韋は手を振り、馬超はこっちへ来いと手招きをする。
「昨日はありがとね!」
椅子に腰を下ろし、でへへと嬉しそうに笑ったを見て三人も笑顔になる。
「楽しかったぜ〜!」
「また行こうな!」
「うん!是非是非誘ってねん!」
「当たり前だ」
は馬超の言った『当たり前』発言に更に笑顔になった。
『仲間ってこんな感じなんだ。なんか嬉しい…』
嬉しさに比例して顔が緩む。青春っていいなと思った。
「んでさ、一時間目って何だっけ?」
「んあ?」
隣に座っていた孫策に聞くが、彼は欠伸を噛みながらマヌケな声を出した。
「体育だぜ〜」
「あ、だから皆ジャージだったんだ」
教室に入ってすぐに気付いたが、クラスメート達は皆ジャージを身に付けていた。
色も様々で、赤・青・緑を基調としていればどんなデザインでも良いらしい。
長袖ジャージの奴もいれば、自分で改造したのかタンクトップジャージな奴までいた。
も学校説明会で『ジャージは赤青緑地ならどんな形・デザインのものでもOK』と聞いていた為、大好きな青色を選んで買っていた。
「馬ッチは緑で孫君は赤かぁ!あ、典ちゃんあたしと色おそろじゃん!!」
「お!?も青か!」
典韋は余程嬉しかったのか、の頭をグリグリと撫でた。
その光景を馬超は面白くなさそうに見つめ、ふんと横を向く。
「んじゃ着替えて来るね!」
「女子は専用の更衣室があるぜ〜!」
「え、まじ?どこ?」
「この隣の部屋にあらぁ!」
のほほんな孫策と未だに嬉しそうな典韋に教えてもらい、はジャージ片手に歩きだした。
「んじゃ行ってくんね〜!」
「行って来〜い!」
「変なのにつかまんなよ!!」
不貞腐れたままの馬超を横目に、は隣の教室へと向かった。
「あ!ちゃ〜ん!」
先客で中に居たのは小喬。
入って来たに手をぶんぶんと振りながら飛び寄って来た。
「小喬ちゃんおはよー!」
「おはよ〜!」
互いに互いの手を合わせ、にこりと笑い合う。
小喬はの腕に手をからめながら、上目遣いに見上げてきた。
『本当に可愛い顔してるよなー』
身長差があるせいか彼女を見下ろすは、小喬の可愛さに思わず破顔する。
「ねぇねぇ一緒に着替えようよ〜」
「うん、いいよ」
手を繋いで仲良く奥へ入って行く彼女達を、廊下で二人の男達が見つめていた。
世間話をしながら着替えを終え更衣室を出ると、ふいに声がかかった。
「そこの娘!」
やけに威厳たっぷりな声には少しドキッとしたが、とりあえず小喬と共にその方向へと振り向く。
声をかけてきた男は目付きが鋭く口元と顎に髭を生やしていて、言わばまるで覇者の様な風格。
その隣にはガタイがっしり!190近くもある長身で、左目を眼帯で覆い隠しているのが印象的な髪の長いこれまた髭の男。
『イヤン!タイプかも…』
長身の方の男は、正にの理想の男性象にジャストマッチ(死語)していた。
そんな彼女にウットリと見上げられた長身男は悪寒が走ったのか、ふいと目を逸らす。
『逸らす姿もダンディ…』
「お主達は新入生だな?」
「え…そうだよ〜!」
チョビヒゲがと小喬を舐める様に、爪先から頭のてっぺんまで見回す。
そのチョビの行動を深いに思い、思わずは顔を顰めた。
「ふむ…ではお主が小喬だな?」
「うん!」
チョビの舐める視線に気付かないのか、小喬は笑顔で答える。
は、何故チョビが小喬の名前を知っているのか不審に思ったが、彼女はそんな事気にも止めていない様だ。
少し警戒心を出し始めた様子を悟ったのか、ふいにダンディがチョビに声をかけた。
「孟徳…もういいだろう?行くぞ」
『うひゃあ渋いぃ〜!』
は初めて聞くダンディの声に思わず腰を抜かしそうになった。
『耳元で囁かれたら…イヤァン!!』
両頬に手を当て、チョビへの警戒心はどこへやら。すっかりダンディの渋声にとろけた表情になる。
「む、気が早いぞ元譲。声をかけたのなら口説くのが礼儀であろう?これからじっくりと…」
「阿呆か!!馬鹿も程々に抜かさんか!」
チョビもとい孟徳と呼ばれた男と、ダンディもとい元譲と呼ばれた男が口論を始めた。
『あの人…元譲さんって言うのかぁ…』
ダンディの名前を即座に脳内にインプットする。
「ダンディだよねぇ…超タイプ…」
「え、ちゃんのタイプ?どっち?」
「あの背の高い方!」
「そうかなぁ?やっぱ周先生だよぉ!」
「あたしはT漢″って感じが好きなの!!」
口論をしている男二人を見ながらも、女は女同士で男のタイプ議論を展開していると、馬超が後ろから声をかけてきた。