[分かってる]
「頭痛い…」
の入学二日目は、この第一声から始まった。
頭痛の原因は、もちろん昨夜の歓迎パーティの時に飲んだ酒。
馬超主催のパーティはとことん盛り上がり、夜遅くまでカラオケをした後馬超・趙雲・の三人で二次会をするべく飲み屋を渡り歩いたのだった。
カラオケで多少飲んでいた為に最初はカクテルやサワー系を頼んでいただが、いつの間にやら馬超にあおられてウィスキー・日本酒・ウォッカ等強い酒を飲まされた。
そして何気にあの美形コンビは酒に強かった為、一人で酔いつぶれてしまったのだった。
何故なら自分で寮に帰った記憶がない。
ってゆーかどうやって帰って来たんだろう?と起きたばかりの頭を動かしつつ疑問に思っていた。
気付けば朝だし服は昨日のまま。化粧なんて落としているはずもなく、寝ている間に目でも擦ったのかマスカラが手に付いていた。きっと鏡を見たら、パンダになっているだろう。
「ふあ〜!」
大きく伸びをして、欠伸をする。
しばらくボーっと外を見つめ、ゆっくりと起き上がった。
「水…」
フラフラとおぼつかない足取りで水を飲むべくキッチンへと向かおうとするが、途中何かにつまずき危うく転びそうになる。
「んわっ…あぶね…」
とにかく頭痛を治す為に水が飲みたかったので、つまずいた障害物を見ずにキッチンへ向かう。
「んむ…」
と障害物が唸った気もするが、には聞こえなかったらしい。
蛇口を捻ってカップに水を入れた。
ごくっごくっごくっ
「ぷあ〜!ふぅっ。……………………!?」
少し目の覚めた顔をこすりなんとなくキョロキョロと部屋を見回していると、そこには。
「俺にも水をくれ」
「ぶっ!!」
自分の真横に立っていたのは、眠そうに目をこする馬超。
「……………………」
「…どうした?」
目を閉じて再度開けてみるが、馬超は変わらずつっ立っている。
「え…何で?」
理解に苦しむこの状況。
馬超はが何を言いたいかすぐに察知したらしく、頭をボリボリと掻きながら目をそらして呟いた。
「…つぶれたお前を運んでやったのは誰だと思っている?」
要するに、酔いつぶれたをこの部屋に運んでくれたのだ。
それで納得がいったらしいのか、はすぐに頭を下げた。
「っごめん!迷惑かけた!それとありがとう…」
「構わん」
「本当ごめん!マジゴメン!!」
「気にするな。俺だけで運んだわけではないしな」
そう言って、馬超は床を指差した。
「あ…」
見るとそこには趙雲が転がっている。
「子龍兄!」
初日でいきなり男連れ込んじゃったよ!と思いながらも慌てて趙雲のそばに駆け寄る。
「寝てるだけだぞ?」
「分かってるよ、んなこたぁ!」
言葉使いとは裏腹に何故かおろおろしているを見て、馬超は不思議に思った。
「なんだ、どうしたんだ?」
「あたし子龍兄の事蹴っちゃったかもしんない!」
先程の障害物はきっと趙雲だと思ったのだろう。怪我をしているか見たいのだが、相手は眠っている為にどうする事も出来ない。
「…お前が蹴りを入れたのは俺だぞ」
「えっ、ウソ!?やだごめん馬っチ!」
再度頭を下げるも馬超は相変わらず気にもしていない様子だった。
「そんなに謝るな。気にしていない」
「良かったぁ。アリガト!」
はほっとして両手を胸に当てて安堵する。
「で、今何時だ?」
「ん、え〜と……アレ?」
時間を見ようとポケットを探るが、携帯が見つからない。
「ケータイ…どこやったかなぁ?」
バッグの中身を散らかしながら探すが、どこにも見当たらない。
「む?」
「ん?何」
「…すまん。俺が没収したままだった」
とポケットからの携帯を取り出した。
「もう。ん〜…五時…うわー早起きだよ」
「もう一眠りするぞ」
「そーだね」
馬超も水を一気に飲み干し、元寝ていた位置へと戻ろうとする。
も水を飲んで少し頭痛が安らいだのか、眠くなってきていたのだ、重大な事に思いあたった。
「ってゆーか馬っチさぁ…」
「何だ?」
「何で二人してあたしの部屋で寝てたの?」
重大だ。
何せ乙女の部屋で、大の男が二人も寝ていたのだから。
がそんなんアリですか?と思っちゃったのも無理はない。
「…気にするな」
「気になるって」
「それはですね」
いきなり二人の間から声が上がった事に驚いただが、馬超は全然といった感じである。
「子龍、やはり起きていたのか」
「目の前ででかでかと声を大に話をされていたら、誰だって目を覚ましますよ」
「それは悪かったな」
起きたばかりなのに爽やかさ満点な笑顔の趙雲のプチ嫌味をさらっとかわす。
「子龍兄おはよー」
「おはよう」
趙雲とはお互いに笑顔で挨拶を交わす。
その姿は本当の兄妹の様で、馬超は本日最初のムカつきを感じた。
「、俺には?」
「あ、言うの忘れてたね。おはよー馬っチ」
「うむ」
の笑顔に怒りを静めたのか、馬超は満足気に頷いた。
「で、先程の話の続きですが…」
「あ、何なに?んで何でなの?」
「それはですね…」
俺との時間を邪魔すんなよこの野郎!と黒になりつつある親友を睨む。
趙雲はそれを完全に無視してにT何故自分達がこの部屋で寝ていたか″という経過を説明している。
「くっ…」
「という事です。分かったかな?」
「了解ー!」
趙雲のあまりのシカトっぷりに馬超は再びムカつき始めた。
しかしとりあえず眠たかったので、いきなりを問答無用でベッドに引きずり込んだ。
「馬っチ!?これあたしのベッ…」
「抱き枕だ。気にするな!」
「気にするっちゅーの!」
不意打ちでベッドに引きずり込まれ、後ろから抱きしめられた形になったは、かなり困惑した。
「いやー馬っチに襲われるぅ!」
「アホ!抱き枕だと言っているだろう!」
「孟起、は一応女性…」
「抱き枕だ!!」
何気に失礼な趙雲の物言いに、頑としてを離そうとしない馬超は最早ただの駄々っ子だった。
「いいよ子龍兄…」
「、しかし…」
「もう寝ちゃってるし」
「早っ!!」
馬超は、趙雲も思わず突っ込む程の早寝を披露した。
「蹴っちゃったお詫びも兼ねてね」
ふふっとが笑う。
そして意味の分からなさそうな趙雲に笑いかけると、もぞもぞと布団をかけた。
「…」
「ん、どした子龍兄?一緒に寝たい?」
「なっ何を言って…」
「冗談じゃん」
「なっ!!」
にからかわれたと分かった途端に、趙雲は頬を染めた。
「…からかうものじゃない」
「ごめんごめん!」
んじゃおやすみ!と言っては寝に入ってしまった。
寝顔を見られるのが恥ずかしいのか、馬超と向き合う形で。
「…以外と免疫があるのか」
確かに、起きてみたら男が二人自分の部屋で寝ていたら驚くだろう。
しかし馬超に抱き締められて寝るという事にはあまり羞恥を感じていなさそうな所、以外と男慣れしているのかもしれない、と趙雲は思った。
「む…ぅ……」
「?」
一人考えに浸っていると、馬超が寝言をいっていた。
彼はすでに夢の世界の住人になっている様で、口をモニョモニョと動かしている。
「う……」
「…………………」
寝言を言う馬超に、趙雲の胸がチクリと痛む。
「孟起…彼女は…は。お前の妹じゃないんだ…」
眠る馬超にそう苦し気に呟いた趙雲は、の背中を見つめる。
「…」
そのまま彼は二人を起こさないように部屋を後にした。
「それぐらい…分かっている」
趙雲が部屋を出て行ったのを足音で確認すると、馬超は目を開けた。
自分の発したその名前で彼は目を覚ましたのだ。
彼自身、自分がに妹の影を重ねている事など分かっていた。
初めて、一目見た瞬間から。
「分かっている…」
再度そうくり返すと、が起きぬ様に優しく腕の中に閉じ込め眠りについた。