[試合前の私達]






体育館につくと、2、3学年はほとんど集まっていた。



「元譲様いるかな〜?」



は既に瞳を輝かせて夏侯惇を探す。もう様付けしているあたり、相当タイプだったのだろう。





「あ、子龍兄!」



お兄ちゃんスマイル全開でこちらにやって来た趙雲に、も笑顔になる。

そんな二人の雰囲気に割り込むように馬超が声を上げる。



「子龍、今日はなんだ?」

「今日はバレーボールらしい」

「ほぉ。チーム分けは?」

「えぇ。私はと一緒でしたよ」



趙雲は爽やかな笑顔だったが、どこか黒っぽい。

暗に『ふふ羨ましいか?羨ましいだろう?』という皮肉が込められていた。



「………チーム分けの表はどこにある?」



馬超は不機嫌を隠そうともせずに聞く。

趙雲は馬超のその反応を知っていたように、ふっと笑った。



「表はない」

「何?」

「ジャンケンで決めて取り合いをした結果こうなったんだ」

「俺はどこのチームだ?」

「私のチームでない事は確かですね」



趙雲の少し勝ち誇った受け答えに、ますます馬超は顔を曇らす。



「嘘をつけ子龍。本当はどこのチームか分かっているのだろう?」

「お主はわしのチームだ」

「な!?曹!!」



突如現れた曹操に、馬超は更に憤慨した。それはそうだ。

ただでさえを趙雲に取られて腹立たしいのに、あげく曹操のチームになるとは。



「ふざけるな。俺はやらんぞ」



サボリを公言した馬超だが、曹操と趙雲がふいに顔を見合わせて笑い出した。



「お前ら何が可笑しい?」

「くくく…馬超よ、嘘に決まっておろう?」

「ふふ、これからアミダで決めるんですよ孟起」



めずらしい組み合わせのツーコンボでからかわれたと知った馬超は、二人を睨んでの手をつかんだ。



「行くぞ

「へ?うん…」



その後ろ姿を見送りながら、曹操が趙雲に耳打ちする。



「相当なのか?」



その意味をすぐに理解した趙雲は、笑顔を崩さずに言った。



「えぇ。相当…ですね」



二人がお互いに別の意味でくすりと笑いあった時、祝融の声が響いた。



「じゃあこれからチーム分けをするよ!!」










チーム分け結果

*水魚チーム(劉備命名)
・劉備 諸葛亮 ホウ統 典韋 関羽 孟獲 黄忠

*ピチピチーム(小喬命名)
・孫策 太史慈 姜維 張コウ 大喬 小喬 貂蝉

*軍師と姉さんチーム(孫尚香命名)
・司馬懿 陸遜 夏侯惇 孫権 曹仁 甄姫 孫尚香

*美形と猛者チーム(曹操命名)
・周瑜 曹操 周泰 呂蒙 張角 許チョ

*正義と仁義チーム(馬超命名)
・馬超 趙雲  徐晃 黄蓋 袁紹

*オラオラチーム(甘寧命名)
・孫堅 夏侯淵 張飛 張遼 甘寧 董卓










「馬ッチと子龍兄と一緒だー!」

「ふん。正義があればなんて事はない」



アミダで明らかに正義は関係ないが、馬超は得意げに笑った。



「なんですかこのチーム名は…」



と趙雲一人で呆れ顔だ。



「でも孫君と典ちゃんとは離れちゃったね…」



ちょっぴり残念そうにが言うと、後ろから声がかかった。



「馬殿、趙殿。同じチーム故宜しくお願い申し上げる」



突然声をかけられて少し驚いただが、馬超と趙雲は別段驚く様子もなく声の主に挨拶を交わした。



「おう」

「こちらこそ」



それぞれ握手を交わすと、男の目がに写った。



「新入生の御方か。それがしは徐晃、字を公明と申す。見知りおきを」



徐晃という真面目そうな堅物な挨拶を、は緩やかに返した。



「あたしって言います。よろしく!」



にっこり笑って手を差し出した。

しかし、徐晃は手を出そうとしない。



「?何?」

「いや……その………」



急に赤くなりもじもじし始める徐晃。は、その姿が何故か典韋と重なった。



「もしかして…照れ屋さん?」

「うっ…!?」



図星だったのか、徐晃の顔は赤くなった。



『ウブだなぁ…』



典韋もそうだが徐晃も女がてんでダメな様で、に握手を求められただけでモジモジ君だ。



「可愛いね…」



ふいにポツリと漏らした言葉。

しかし徐晃にはバッチリ聞こえたらしく「なっ…!」とか言いながら口をパクパクさせている。

馬超から舌打ちが聞こえた気もするが、それは隣に立っている趙雲にしか聞こえなかった。



「い……今何と?」



聞き違いだと確認する様に、徐晃が問う。



「ん…可愛いなって…」

「か……可愛……!?」



にこりと笑ったに、徐晃は恥ずかしさに耐えられなくなったのか「それがし、ネ…ネットをはって来るでござるー!」と言いながら逃げてしまった。



「すっげーシャイだね」



耳まで真っ赤にしながら敗走した背中を見つめ、は呆気に取られた。



「お前はあーいうのがタイプなのか?」

「は?」



急に馬超に話をふられて思わず聞き返す。

つーか昨日その手の話を少しした気もしたが、とりあえず返事はしておく。



「んーまぁ…遊び慣れてる男とかよりは……」



その答えに何か腹の立つ事でもあったのか、馬超は不貞腐れている様だった。



「またブーたれてるし…」



はぁ、とタメ息を吐くが、馬超はふんと鼻を鳴らして典韋達の方へと歩いて行ってしまった。










「気にする事はないですよ」



そう言ってこちらに微笑んでくれる趙雲だが、の気分は晴れない。



「子龍兄さぁ…」

「はい?」

「馬ッチて何ですぐ拗ねんの?」

「………さぁ?」

「何、今の間…」



馬超の怒る理由が分からないにしてみれば、自分の言動行動に一体何の不快があるのか理解出来ない。

馬超は馬超で原因を言ってくれないし、これでは何も解決しない。



「それにさぁ。タイプの話聞いてきたのアイツじゃん?今の不貞腐れ理由って絶対それだよね?アイツが聞くから答えたのに、何でブーたれらんなきゃなんないの?なんで一々怒るワケ!!」



思えば徐晃とが話始めた頃から機嫌は悪かった。

趙雲は隣にいたので彼が渋い顔をしていたのも分かっていたし、を他の男に会わせたくないワケも十分承知している。

可愛い妹分に変な虫がつかないようにしてはいるものの、本人が目立つ為、どうしようもない。



ようは馬超の勝手な焼きもち以外の何物でもないが…。

しかしそんな事をに言っても理解出来ないだろうし、どうせ言うなら馬超本人の口から言うべきだろうと考えている趙雲は、話をずらした。



「多分が自分の相手をしてくれないから、つまらなかったのでは?」

「何ソレ?」



ただの我侭ヤローじゃん。と言って膨れたを宥める。



「まぁ、気にする事はない」

「分かったー。りょ〜か〜い」

「さぁ!アミダで対戦カードが決まったから、試合開始だよ!!」



祝融先生の声を合図に、ザワついていた生徒達はコートへと集まった。










「どこと試合?」

「…………………」



仲間の不具合は試合に関わる、と思い馬超に近付いて聞いただが、彼はまだ腹を立てているのか無視を決め込んだ。



「ねぇ」

「……」

「ねぇってば!」

「………………」

「ガキ馬ッチ」



ムカついたのはも同じで、そう言って趙雲の元へと走って行った。



「ふん…」

「何だ?ケンカでもしたのか?」



寄って来たのは典韋。スキンヘッドをポリポリかきながら、大股で馬超に歩み寄る。



「関係ない」

「ま、あんまを束縛すんなよ」

「……放っておけ」



馬超の肩を叩いて「じゃあ俺も試合あっからよ!」と行ってしまった。