[Oh my suns!!]






すっかり話も盛り上がり二人で軽口を叩いていると、孫堅に声をかける者が居た。



「父上っ!」

「む?………おぉ、権か!」



孫堅に近付いて来たのは、瞳は綺麗なグリーンをしていて髭が揉み上げから顎まで繋がった男。

顔に似合わず声は高めだ。



「試合をサボって何をしているのですか!?」

「権よ、俺はサボってはいないぞ?人数が合わぬのでな。このと一緒に抜けて来た所だ」



そう言って孫堅はを紹介する。



「あぁ、新入生だな。私は孫仲謀だ。よろしく頼む」

「あっ。あたしはです。ヨロシク〜!」



二人は互いに握手を交わした。



「T孫″って同じ苗字なんですね〜。あ、もう一人孫君いたなぁ」

「策の事か?」

「えぇ、そうでっす!」

「この権と策は俺の息子だ」

「っ!!??」



さらりと言った孫堅の一言。

しかし、はあぁそうなんですかと言おうとして、言葉を飲んだ。



『親子!?……………似てない!!』



「似てないだろう?」



声には出さなかったが顔がそれを物語っていたのか、驚愕した表情のを見て、孫堅に視線をやりクスリと笑った。



「父上も悪い人だ。また女性を驚かせて」



孫権も驚くに苦笑しながら、父を見つめた。



「ウッソ!?似てないですね!!」



冗談でもないと感じ取ったのか、がそれを受け入れて返事をすると、孫堅は嬉しそうに彼女の頭を撫でた。



「表面は似ていないが、中身は俺ソックリだぞ?」

「へぇ……そうなんですか?」



そう言われて孫権をまじまじと見遣る。



「な……何だ?」



あからさまに見つめられて照れたのか、孫権は少し赤くなった。

それに気付いた父親は、ふいに笑い出す。



「はっはっは!権、お前何を恥ずかしがっている?」

「なっ!?父上、からかわないで下さい!!」

「あははっ!息はピッタリなんですねぇ」

「そうだろう?」



相変わらず顔を赤くする孫権とそれをからかう親孫堅。確かに父子の息は合っていた。



「仲良い親子なんですね〜。権さん可愛い!」

「んなっ!?」

「む?権の方が好みか?」



ふと口を付いた言葉で更に孫権は真っ赤になった。

孫堅は孫堅で、少し残念そうだ。



「権よ、父は応援するぞ!」

「ち…父上っ!!変な事を言わないで下さい!!」

「そう照れるな権よ。お前もそろそろ良い歳だろう?俺はもう歳だが、お前ならやれる!」



まるでが孫権の嫁に来る様な会話だが、唯一馬超の耳に届いてない事だけが幸いだろう。



「え〜!じゃあ孫さんがあたしの義理のお父さんになるって事ですよね?なんか良いかも〜!」

「はっはっは!権よ、は来ても良いそうだぞ?」

「なっ!?殿!!若い娘が軽々しくその様な事を発言しては………」

「だって孫さんが義父さんだったら、毎日嬉しいだろうな〜って……。あぁそれと、あたしの事はって呼んで下さい!」

「さて、邪魔者は消えるとしようかな」

「ちょっ……父上!!」



孫権が言い終わる前に孫堅は去ってしまった。



「全く…すまぬ殿」

です」

「ん…しかし」



名前呼びに抵抗があるのか、孫権は呼ぼうとしない。



「そこらへんはお父さんとソックリなんですね?」

「………そうか?」

「孫さんもさっき戸惑ってました」



ふふっとが笑う。体育座りをしながら笑いかけられて、孫権は先程の会話の所為か下を向いた。



「そういえば孫君も似てる所あるっちゃあるかな?」

「兄上か?」

「えぇ」



は軽く頷くと、首をコキコキ鳴らした。



「大らかそうな所とか、何でも楽しめそうな所とか」

「……分かるのか?」



会って一時間も経っていないのに、理解出来るのかと孫権は聞いた。



「どうだろう?ただ何となくパッと見そんな感じがしただけなんですけどね」

「……良く見ているな」

「ふふ…あくまでイメージですけどね」

「いや、大体合っている」



二人でクスリと笑い合う。



「権さんって呼んでも良いですか?」



何を思ったかいきなりが話題を変えた。



「?構わないが……」

「あ、嫌でした?」

「いや………」

「何か?」

「ん…………」



急に孫権が俯いたので何かまずい事を言ったかと焦っただが、その原因を彼がポツリポツリと話し始めた。



「私は…父と兄とも似ていないだろう?」

「へ?………えぇまぁ」

「父も兄も人徳があってな」

「そうなんですか?」

「いつも父や兄に比べられて……わたしはいつもT孫堅の息子″T孫策の弟″としか呼ばれた記憶がない」

「えっ!?」



なるほど彼は父や兄に少なからず劣等感を持っている様だった。



「だから…その。今のお前の言葉は感じ入ってしまった」



少し照れくさそうに言った孫権に、は親しみを覚えた。

は特に親からも期待される事なく、かつ長女だったのでそういう扱いを受けた事はなかったが、孫権のT人間らしさ″に引かれた。



「権さんって…。あたしはそういう所好きですけどね」

「なにっ?今何と?」



聞き間違いかと考えたのか再度確認する孫権に、はニッコリと笑顔を作った。



「あたしは…そういう権さんの人間臭さって言うか、素直な所好きですよ」

「んなっ!?」



やっと冷静さを取り戻したにも関わらず、孫権は再度赤くなる。



「じょ…冗談を……」

「いや、マジですって。何か親しみ湧きますよ」

「そうか……?」

「そうそう!そんないちいち比べる奴なんか蹴り殺しちゃえば良いんですよ!」

「蹴りころ……!?」

「冗談ですって〜!」

「………そうか」



話して少し気が楽になったのだろう。孫権は力を抜いてふっと笑った。



「あ、似てる」

「?」

「今の笑顔。お父さんにソックリ!!」

「そうか?」

「孫君もそうだけど、権さんだってお父さんの良い所、いっぱいもらってるじゃないですか」

「っふ………」



真剣に話しているの言葉が可笑しかったのか孫権は笑い出した。



「何笑ってるんですか、人が良い事言ってるのに…」

「いや、すまん」



孫権は片手を上げて謝罪すると、優しい瞳でを見つめた。



「お前は変わっていると思ってな……」

「何ですかソレ」

「心が軽くなった気がする」



少しスッとしたのか爽やかな表情の孫権に、今度はが笑った。



「こんなんでお役に立てて光栄でっす!」

「あぁ、ありがとう」

「いえいえ、いつでもどうぞ?」



にこりと笑う

それが更に孫権に勇気を出させた。



「あぁそれと……」

「はい?」

「どうせなら…その…私も呼び捨てにしてもらいたいのだが……」

「えっ?良いんですか?」

「あぁ。そういうのも良いかと思ってな…」

「おい、!!」



和みムードの二人の雰囲気を、試合が終わったのだろう、忘れさられていた馬超がコートからこれでもかとぶっ壊した。



「あぁ……来たよ」



はぁと溜め息。これしか出ない。

そんなにはお構いなしで、馬超がズカズカと歩いて来た。



!聞こえているなら……」

「はいはい!聞こえてますよ」

「お前っ…何だその口の悪…」

「まぁまぁ孟起、試合には勝ったんだ。いちいち怒るな」



はたまた喧嘩になる一歩手前で、追い付いた趙雲が二人を止めた。



「?権殿か」

「権殿、お久しぶりですね」

「あぁ、久しぶりだな馬殿、趙殿」



馬超が気付き挨拶をすると、趙雲もそれに続いた。孫権はそれを返す。



が世話になったな」

「いや、世話という世話はしていない。むしろこちらが世話になった」

「……どういう事だ、?」



孫権の言葉に不機嫌を出し、を見つめる。



「ん〜秘密」

「何っ!?」

「秘密だよね〜権!」

「あ…あぁ、そうだな

……お前っ!!!」



いつの間に仲良くなったのか。

明らかに自分達が試合をしている間しか考えられないが、呼び捨てにまでする仲になっているとは、と馬超は彼女を行かせた事を後悔した。



「誰に呼び捨てられようが誰を呼び捨てようが、あたしの勝手でしょ?」

「くっ………」



先程の趙雲のT彼女ではないだろう?″とT嫌われるぞ″が効いているのか、馬超は反論出来なかった。

そんな彼に、意外にも助け舟が出た。



「まぁそれは置いておいて…」



スッと馬超の後ろから趙雲が進みでて、の肩に手をやった。



「試合は終わりましたから、結果をホワイトボードに書きに行きましょう」

「え、でもあたし……」



が何かを言い終わる前に、趙雲は有無を言わさず彼女の肩を抱いて歩き出す。



「え、ちょっ…ちょっと子龍兄!?」

「さぁさぁ、行きますよ。ボードは待ってはくれませんからね。下手をすると逃げてしまいます。さぁ逃げられる前に行きましょう」



ボードが勝手に歩いて堪るか!と突っ込みたいだったが、何故か趙雲の目が笑っていない気がする。

いやに論点がずれている饒舌な口ぶりも、それを際立たせていた。



「え〜!?ごめんね権ちゃ〜ん!!」



は振り返りながらも孫権に謝り、孫権は気にするなと手を振った。



「権殿、に手を出すなよ?」

「………何の事か分からないな」

「…では失礼する」



馬超はこれでもかと孫権を睨み、達を追ってその場を後にした。










「おぉ!権よ、どうだった?」

「父上!」

「む?はどうした?」

「あちらに……」



孫権が指を差すと、趙雲・馬超に拉致されたの姿が。

孫堅は達へ目をやりながら、ふむと唸っている。



「やはり本当だったのか……」

「?何の事ですか父上?」



父が言っている意味を理解出来ず、孫権は頭を捻った。



「いや……馬が笑ったり拗ねたりすると聞いたからな」

「?あぁ…そういう事ですか。確かに言われてみれば…怒っていましたね」



と孫権もそちらへ目を遣る。



「妹は…確か、と言ったか?」

「えぇ、記憶には」

「馬に色々な感情が戻るように、が良い方向へ持って行ってくれれば良いのだが……」

「………………そうですね」



同意しながらも自嘲気味に笑った息子の心境を、父である孫堅が見抜けぬはずがなかった。