[権ちゃんの秘密]






孫権と話し込んでいる内に自軍の試合は終ったらしく、結果をホワイトボードへ書き込むべく馬超・趙雲に連れられて、は勝利の○を書いた。



「よく勝てたね」



そう言った意外そうなの言葉で得意げになったのか、馬超がふふんと鼻を鳴らした。



「当たり前だろう」

「まぁ…若さの勝利、というやつですね」



趙雲も少し得意そうに胸を張る。



「ってゆーかあんなサーブ取れる事がありえないって感じ」



が顔を顰めながら、両手でTお手上げ″状態のポーズを取る。



「そうか?」

「さっきも言った様に、私達が普通ではないんですよ」



さもそれが当たり前だ、とでも言いたそうな馬超に趙雲が苦笑する。



「まぁ無事で良かったよ」



も趙雲につられて笑う。

そして思い出した様に馬超の袖を引いた。



「そういえば馬ッチ、さっきはありがとうね?」

「何の事だ?」

「アタックから助けてくれたじゃん?」

「…あぁあれか」

「本当あん時は感謝したよ。死ぬかと思ったもん」

「…気にするな」



素直に先程の礼を言ってくるに気分を良くしたのか、馬超は少し照れくさそうに言葉を返した。

それを見ていた趙雲が、ふっと笑う。



「孟起、照れているんですか?」

「っ子龍!!お前はどうしていつもそう…」

「えっ!?馬ッチ照れ屋さん?」

「違う!何故俺がお前に…」

、孟起は素直じゃないので気にしないように」

「OK子龍兄!分かってるって〜」

「お前ら何だその顔は!?くそっ…………知るか!!」



趙雲のからかいにが乗り二人でニヤニヤしていると、馬超は頬を少し赤くしながらプイと横を向いてしまった。



「さて…試合も終わりましたし、アレの時間ですね」

「アレ?」



趙雲の意味深な言葉に、が訝しげに聞く。



「アレって何?」

「見ていれば分かりますよ」

「俺達に感謝する事だな」

「?」



最後の馬超の一言が気になったが、それを問いただす前に祝融の声が館内に響いた。



「さぁ!アレ始めるから、とっとと集まんな!」










「何?何なの?」

「まぁ見ておけ」



館内のステージに立った楽しそうな祝融に違和感を感じたのか馬超に聞くのだが、彼はニヤついているばかりで教えてくれない。



「ねぇ子龍兄…」

「ほら、ステージに目を向けて。始まりますよ」



と趙雲にも取り合ってもらえず渋々目をやると、最初の被害者がステージに上がっていた。



「くっ…諸葛亮………」



とステージ上を強制で独占させられて、悔しげにその名の人物を睨んでいるのは司馬懿。



「ふふ…さぁ司馬殿、思う存分あなたの恥ずかしい事をお話下さい」



一方睨まれている諸葛亮は羽扇で口元を隠してはいるが、ニヤついているのが一目で分かる。



「相変わらず仲が悪いな」

「そうですね」

「え、なになに?」



その両者を面白そうに見ながら馬超と趙雲が視線はステージのまま笑いあうが、だけが意味が分からないと言いたげに二人を見上げる。



「あぁ、は彼等を知りませんからね」

「なら説明してやれ」



と馬超が促す。



、彼…ステージに立っている方が司馬懿殿で、その彼が睨んでいる相手が諸葛亮殿です。彼等は俗に言う…そうですね、T犬猿の仲″というやつです。司馬殿がステージにという事は、どうやら彼のチームは諸葛殿のチームに負けた様ですね」

「へぇ〜」



簡単に説明する趙雲にふんふんと頷いていると、聞こえているぞとばかりに司馬懿がこちらを睨んだ。



「うわ、睨まれたよ子龍兄…」

「彼はいつもあの調子なので、お気になさらず…」

「そうなんだ?それにしてもあの人、凄い顔色悪いね〜」

「聞こえているぞ馬鹿めがっ!!!!!!!」



コソコソと聞こえない様に話していた二人だが、司馬懿には聞こえていたらしい。

ピクピクと青筋を立てながら、こちらに向かって思いっきり罵倒してきた。



「うわ〜…性格キツそ〜。コエー」

「こんなの軽い方だろう?」

「うわ、ありえな〜い」

「聞こえていると言っているだろう!!この凡愚めがっ!!!」



今度は馬超とコソコソやるがやはり地獄耳の彼には聞こえてしまったらしく、更に罵倒される。

しかしその言葉の意味がには分からなかったのか「Tぼんぐ″って何?」とか言っている。



「凡愚は…T愚か者″などの系列ですね」

「うわ何ソレ?失礼じゃない?絶対友達居ないタイプだよね、あの人」

「その通りだ。良く分かったな、



とまた三人で更に耳打ちをし始めた。



「っ!!貴様等……さっきから………!!!」

「それより司馬殿、早く始めて下さいよ」



さらに罵声を浴びせるべくワナワナとする司馬懿を、諸葛亮が遮った。



「くっ…諸葛亮め、覚えていろ!!」

「ふふふ…あなたのT恥ずかしい″話、楽しみですね」



「要するに二人が言ってたTアレ″って……」

「自分の恥ずかしい過去を皆に教える、という事だな」



コソッとが耳打ちすると、馬超はやっと気付いたかと言いたげにニヤッと笑った。



「私の…恥ずかしい話は………っ!!」



そんな中、ようやくしどろもどろで司馬懿が話し始める。

それを全生徒達が嬉しそうに楽しそうに耳を傾けて、沈黙を守る。

彼は一瞬ためらった後、腹を決めて大声を出した。



「幼い頃に…テストで……じゅっ、15点取った事だぁあーーーーー!!」



…………………………。



途端に館内は静まり返った。

全員が全員、なんだそんな事かよみたいな感じで。



「ってゆーかあれ恥ずかしい事なの?」

「確かに…少し恥ずかしいですね」

「0点よりはマシだと思うけどな」



三人で話すが、当の司馬懿本人はとんでもない事をバラしてしまったとばかりに、顔を赤くしている。

そしてその目の前では、諸葛亮がニヤニヤと彼を蔑むように笑っていた。



「もっ…もう良いだろう!!私は下りるぞ!!」



その沈黙が耐えられなかったのか、司馬懿は黒い羽扇で顔全体を隠しながらステージから下りる。

よっぽど本人にとって、その内容は軽視し難かったのだろう。



「素晴らしいです司馬殿。15点ねぇ、15点。ふふふ…」

「くっ………!!」



諸葛亮の楽しそうな言葉に、司馬懿は悔しげに咽を鳴らした。

それから祝融主催のT罰ゲーム″は続き、館内は異様な盛り上がりを見せる。

そんな中、次にステージに上がったのは孫権だった。



「あれ?権ちゃんだ」

「………………」

「ふっ………」



がポソリと呟いた一言に馬超は凄く面白くなさそうに顔を顰め、それを横で見ていた趙雲が思わず失笑した。



「権ちゃん負けちゃったんだー」

「その様ですね。確か彼は…司馬殿と同じチームでしたね」

「あーそっかぁ。権ちゃんどんな恥ずかしい話持ってんだろ?」



顰め面の馬超を無視して二人で話を進めていると、孫権がコホンと咳払いをした。

ふと孫権がの方に一瞬だけ目をやり、二人の視線が合う。

はニコリと笑って口パクで『頑張って!』と応援し、それが嬉しかったのか孫権は少し頬を染めながら微笑した。

それで彼の腹は決まった様で、すぅっと思いきり息を吸った。



「私は………!!」



全生徒その続きを早く言えよという空気。

普段真面目で誠実と名高い孫権からどんな恥ずかしい話が聞けるのかと、皆期待の眼差しでいっぱいの様だ。

孫権はカッと目を開き、次の言葉を大声でシャウトした。



「気になる女性が出来たーーーーーっ!!!!!」



……………………………。



ザワザワザワザワ。



館内は急にザワめき出す。中には「あいつが?マジでー!?」とか「春だな……」とか言っている声が聞こえる。



「くそっ!そう来たか……」

「彼も中々やりますね……」



と馬趙コンビも悔しげに、ほぞを噛んだ。



「え?何が?どしたの二人共」



その二人の呟きの意味が全く分からないにしてみれば、孫権の『恋の到来』を喜ぶべきでは?と思うものの何故館内がこんなにザワつくのか理解に苦しんだ。



「……子龍、渡さんぞ」

「……孟起、当たり前だ」



やけに息がぴったりと合った男前二人に『何なんだ?』と思うのも虚しく、いくら聞いても「お前は気にする必要はない、安心しろ」という意味不明な一言だった。



「どういう事だ、権!!」

「権〜いきなりカミングアウトはキツいぜ〜!」

「兄様!!何ソレどういう事!?」



とステージに駆け上がったのはパパ孫堅・兄孫策。そしてショートカットの活発そうな美少女。

美少女は孫権を『兄様』と言っている辺り、彼の妹なのだろう。



「権ちゃんの妹?」

「………えぇ」

「孫尚香だ」



の質問に趙雲・馬超と続いた。



「似てないね」



顎に手をやり孫一家を見ていたは、妹孫尚香を父兄二人と見比べて正直に感想を口にする。



「そうか?あの妹は親兄弟ソックリだぞ?性格がな」



T性格が″で孫策を連想してしまったらしく、妹の容姿に彼の性格を足したモノを想像してしまう。



「あんな可愛いのに………」

「尚香はお転婆だな」

「性格は親子だなと思いますね」



ステージで孫権に詰め寄る父兄妹を目にが溜め息を漏らすと、馬超は彼女に対する自分の感想を呟き、趙雲は客観的な視点を口にする。



「父さんは嬉しいぞ、権!」

「やっとお前にも春が来たんだな〜!」

「誰なの兄様!教えて!!」

「いや…その……」



と家族に挟まれて問いただされるものの、当の孫権は口を開こうとしない。



「権ちゃんって、家族ん中じゃ真面目君なんだね」



先程孫権と話した時と、彼の父兄妹のノリを見て、は正直そう思った。

そののT感想″を聞いて、馬超と趙雲はふっと笑う。



「確かに、権殿はあの家族の中では常識人ですね」

「影が薄いとも言うな」

「馬ッチあんた失礼だから」



馬超の感想に少し呆れつつも、そう返す。



「はっはっはっは!権もそんな季節なのか」

「どんな女だ?お前が惚れるなんてよ〜!」

「誰なのよ!兄様教えなさいよ!!」

「それは…い、いくら家族といえど、言えません!!」



孫権もいい加減ウザくなってきたのか、いちいちうるさく問いただす家族を突っぱねた。

これで父・兄はまぁいっかと引き下がるが、末っ子尚香はそうもいかないらしい。

諦めまいと更に孫権に詰め寄った。

しかしそれが孫権をキレさせた。



「これは私の問題だ!くどいぞ尚香!!」

「な…何よそれ!?私に教えてくれたって良いじゃない!兄様のケチ!!」

「ケチで結構!お前に言うと、どこまで話が広がるか分かったものではない」



それっきり口を閉じると、彼はステージから下りた。



「さぁ!アレも終わったし、今日はこれで終わりさね。解散!!」



祝融の声と共に、一時間目終了のチャイムが鳴った。