[イヤーカフ]
波乱で出合いに満ちた一時間目が終わり、馬超・趙雲に連行されてながら、は教室に戻った。
何故連行?というのも、フィーバーした孫権がこれ以上おかしな事をする前に、彼女を保護する必要があった為である。
それとは知らないは、孫権に「おめでとう、良かったね」の一言を言わせてもらえずに強制送還されたものだから、少し機嫌が悪かった。
馬超と趙雲に挟まれる形で座らされ、机に頬杖を付きながら、貧乏揺すりをしている。
「誘拐犯…………」
「何か聞こえたか、子龍?」
「いや。何も聞こえなかったぞ、孟起」
ムスッと音がつきそうな顔全開で馬趙コンビを睨むが、二人は何も聞こえないとばかりに目をそらした。
「権ちゃん何学年?」
「知ってるか、子龍?」
「いや。私は友人が少ないので………」
学年なら教えてくれるだろうとの質問も、何故かかわされる。
馬超からすればが孫権に会いに行くのは目に見えていたし、兄貴分代表の趙雲としても何かが面白くなかった為である。
「さっきT権殿″って知った風な言い方してたくせに……」
「腹が減ったな、子龍」
「今日の昼食はどうしましょうか?」
更に聞くが、彼等は絶対に口を開くまいとから目を逸らし続けた。
それにいつもなら自分の味方をしてくれる趙雲の様子に、も少し不信感を抱いていた。
「子龍兄、あたしの味方だっつってたのにさ〜」
「子龍、のど乾かないか?」
「そうだな……孟起は何が飲みたい?」
「………………もういい馬鹿」
が、いい加減ムカつくのも無理はなかった。
ふぅと怒りの溜め息を吐き、椅子から立ち上がる。
そしておもむろに自分の席へと戻っていった。
「怒ってしまったみたいですね」
「馬鹿って言われたぞ…?」
取り残された趙雲と馬超は、互いに互いの顔を見合う。
「しばらくは口を聞いてくれなさそうな雰囲気でしたね」
「すぐケロッと直るだろ?」
そう言っての方へと目線を向けながら少し困った顔の趙雲に、同じく視線を向けた馬超があっけらかんと答えた。
としてみれば、自分がハブられてる感覚がした。
せっかく良い友達になれそうな人を新たにゲッツと思っていると、ダメと言われる。
お前等はあたしの保護者か!とブツクサ言いながら席に座る。
イライラが納まらず耳をいじっていると、着けていたイヤーカフがひとつ外れて、床に落ちた。
カチンと金属製の音がして、落としてしまった事に気付く。
「あっ……やべっ」
拾おうと手を伸ばすと、誰かが先にそれを拾い上げた。
「あ……………」
「落としましたよ?」
屈んでいたままの姿勢で顔を上げると、そこにはキラキラという表現がぴったりな、背が180ぐらいの爽やかな青年。
「あ、ありがとう」
「いえ、気にしないで下さい」
そう言うと、青年はイヤーカフをに返そうとするが、それをまじまじと掌で転がし見入った。
「?」
は何だ?と思いながらカフを見ていると、少年はその視線に気付いたのか少し照れくさそうに顔を赤くした。
「あ、申し訳ない………」
「ううん、いいよ。それより君……」
とここで始めて青年を正面から見据えた。
『び……美形……………』
またしても美形。どこでも美形。そこでもここでもほらあそこでも。
『ここは美形の宝庫か?』
自分を余りに食い入るように見つめているのが恥ずかしいのか、青年はから目を逸らして呟いた。
「私は姜維。字を伯約と申す!」
「あたしは。よろしくね!」
気を取り直して自己ショをして、握手をする。
「あ、ちなみにって呼び捨てでヨロシク!」
「えっ!?そ、そんな事……出来ません……」
「なんで?」
「いや、その………」
どうやら姜維としては、その呼び方は失礼なのでは?と気が引けてしまうらしい。
「姜君いくつ?」
「わ、私ですか?19ですけど…」
「あたしより2つ下かぁ……」
う〜んとが何事か唸っていると、今度は姜維が少し困り顔で言った。
「自分より年上の方に対して、呼び捨てなんて出来ません」
「でもあたしが良いって言ってるから平気だよ?」
「しかし……」
まだ姜維は粘る。一体何が問題なのやら。
「うん、じゃあ苗字じゃなければ、姜君の好きな様に呼んでくれれば良いよ?」
「え、本当ですか?良かった」
が微笑むと、姜維もホッとした様に笑った。
「あっ……でも私の事は、伯約とお呼び下さい。そちらの方が年上ですし」
「うんオッケー、分かった!」
ニコリと笑う姜維を見ては青年と言うよりは少年と言う感じかな、と思った。
「伯約はシルバー興味あるの?」
姜維はの後ろの席だったらしく、彼女が後ろを向く形で着席する。
「はい。細工等の細かい部分を見ていて、素晴らしいなと……」
「一個あげよっか?」
「え?」
「いいよ、あたしまだ持ってるし。好きなの選んで?」
と言いながらはつけていたイヤーカフを全て外す。
「し、しかし……」
「あぁ、気にしないで。925だけど単価が安いから」
どうしたものかと困っている姜維に、高いのでは?と勘違いしていると思ったが笑いながらそれらを手渡した。
「高いとかではなくて……」
「あ、実はあんま興味なかった?」
「いえ、そうではなくて……」
「男の子も、シルバーアクセならアクセント程度でつければ良いと思うよ?」
「そうでしょうか?」
「とりあえず付けてみなよ?」
に押されて姜維は手渡されたものの中から、自分の好みのモノを選ぶ。
彼が選んだのは、楓の模様になっていて仕上げに銀を燻してあるデザインのもの。
「ではこれを…」
「うん!お?趣味良いねぇ。これ気に入ってんだ〜」
「え?でしたら他の……」
「あぁいいよ。気にしないでもらってね!」
大事にしてやってね!と言いながら、姜維にそれを渡す。
「ありがとうございます!」
「うん。さっそく装着希望なんだけど…」
「はい!すぐに………………ってアレ?」
イヤーカフをつけようとした姜維だが、耳に何もつけた事が無い彼にとってみれば、鏡もないのに簡単につけられるはずがなかった。
「あぁ、つけたげるよ」
「す……すみません」
あたふたし始める彼を見て、はクスリと笑いながらカフをつけてやった。
「ど、どうでしょうか?」
「うん!似合ってるよ、イケてるじゃ〜ん!」
「そうですか?」
と言いながらも、姜維はまんざらでもなさそうだ。
恥ずかし気に耳元に手をやり、感触を確かめる。
「なるべく外れない様に、少しキツ目に詰めた方が良いよ?」
「はい!…………っと、これぐらいですかね?」
「バッチシオッケーだよ!!」
グッと親指を突き立てたに、姜維は照れ臭そうに笑った。