[おねだり]






「………何だアレは?」

「まぁまぁ落ちついて」



一通りその光景を、趙雲に宥められながら見つめていた馬超は、ピクピクと額に血管を浮かばせながら呟いた。

趙雲はそれに苦笑しながら、談話しながらも時々もらったカフを確かめている青年と、彼女の様子を見つめる。



「あいつ……俺にはないのか」

「話の成り行き上、差し上げたと思えば良いでしょう?」

「……ふん」



趙雲の言葉に何も言えなくなったのか、馬超はそっぽを向く。



「そんなに欲しいなら、ねだってみては?」

「別に欲しいとも思わん」

「では私はねだってみましょうかね」

「っ!?子龍貴様っ………!!」

「孟起はいらないんですよね?」

「……………いる」



意外に素直になった馬超に笑いながら、再び達へと目をやると、「ちゃ〜ん!!」と彼女に近付く小喬が。



「やばいな………」

「?何がだ?」



急に顔を曇らせた趙雲に、馬超が訪ねる。



「小喬さんにT彼″の事を聞かれたら………」

「いくぞ!」



有無を言わさず立ち上がり、一目散にへと歩いて行った馬超の背を見ながら「そこまで固執しなくても…」と呟くが、自分もさして変わりはないなと趙雲は思った。










「あれ〜?小喬ちゃん、どした?」

「ん〜。ちゃん楽しそうだったからさ〜」

「あ、小喬ちゃんもイヤーカフいる?」

「本当〜?ちょうだい!」



が再びカフを外して小喬に手渡す。



「あ〜!これ可愛ー!」

「でしょ?好きなの選んでねん!」

「じゃーこれ。いい?」

「うん。つけられる?」

「私子供じゃないも〜ん!」



あははと笑い合うと小喬、そして自分ももらったカフを触りながら姜維が笑っていた。

そこへ馬超が向こうからやって来た。



、俺にもソレくれ」

「はぁ?」



馬超が来た途端に、の表情は曇った。

姜維・小喬が居る為にある程度感情は抑えたが、それでもイヤソ〜な顔をしてしまう。



「あ、馬君だ〜」

「おう」

「?」



昨日の件で小喬は馬超を知っているが、姜維は誰?と言う風にに目線を送る。



「伯約、こっちは馬ッチ。馬ッチ、こちらは姜君」



とそれぞれをそれぞれに、紹介した。

馬超としては、自分に対するものと姜維に対する態度が違うのが気にいらなかったが、礼儀を持って挨拶はする。



「初めまして馬殿、姜維・字を伯約と申す」

「俺は馬超・字は孟起だ」



名乗りを終えると、馬超はすぐにに目をやった。

といえば変わらずブスッとしていて、彼には目を合わそうともしない。



「あまりブスッとしていると、その内本当にブスになるぞ?」

「うっさい黙れ」



からかわれているのが分かっていたので、は顔も上げずに一蹴する。



、俺にもソレくれ」



先程と全く同じ台詞を言うが、は相変わらずな態度で「えーハブったくせに」と言っている。



、よこせ」

「可愛くないからヤダ」

「どうすればよこす?」

「その態度と権ちゃんの学年」

「………………」



正直馬超は悩んでしまう。

彼女からカフは欲しいが、孫権の学年だけは教えたくない。

しかし、言わなければは絶対にくれないだろう。



「分かった………2学年だ」

「よっしゃ!じゃあはい、好きなの選んでね」



途端には機嫌を直し、馬超に余ったカフを渡した。



「これにする」

「うん、つけれるよね?」

「当たり前だ」



選んだもの意外を彼女へ返し、馬超は早速耳に付けた。



「似合うだろう?」

「自分で言うな」

「そういえば子龍も欲しいと言ってたぞ?」

「あたし子龍兄にはまだ怒ってるんだけど?裏切られたし」



は片眉を釣り上げる。



「子龍が泣くぞ?」

「謝るまで許さないし」



今度は唇を突き出してプイと横を向いた。

その仕草に馬超はフッと笑いながら、趙雲の元へと帰っていった。










「もらったんですか?」

「羨ましいだろう?」



馬超がからもらったカフを見せびらかしながら、趙雲の隣の席へと座り足を組んだ。



「かわりに何をT教えた″んですか?」



その答えを分かっていながらも、趙雲は笑顔の裏に冷たさを含んで、あえて馬超に聞いた。

馬超は少し気まずそうな顔をしながらも、ぶっきらぼうに言い放った。



「権殿の学年」

「はぁ…………」



からの贈り物に目が眩むのは分かっていたが、趙雲は本当に孫権の情報を伝えるとは思っていなかった。

溜め息しか出ない。



「では私はどうやってに許してもらえばよろしいと?」



少し恨みの篭った目で馬超を睨む。

普段見せない親友の様子に少したじろぎながらも、馬超は目を合わさないで言った。



は謝るまで許さない、と言っていた」

「あぁ、それぐらいなら……」



と趙雲は臨戦体勢を解き、「行って来る」とだけ言って彼女の席へと歩いていった。

それを見送りながら、馬超は「お前も依存症だな…」と笑いながら、耳に手をやり銀の感触を楽しんだ。