[新入生歓迎会/3]






ずっと何かが引っ掛かっていた。

何がって?



馬ッチや子龍兄の態度。

あたしが武将のコスプレを見せた時、何か様子がおかしかった。

二人とも目を見開いて、まるで『言葉も出ない』って言ってる様に……。



最初は似合わないのかな?って思った。でも違った。

馬ッチだけならまだしも、子龍兄まで同じ反応をした。

あたしのイメージでは、子龍兄は馬ッチと違って似合わなくても「素敵ですね」ぐらいの事は言いそう。



会ってたったの二日目だけど、その人の持ってる雰囲気で、それぐらいはなんとなく分かる。

その後、子龍兄が誤魔化す様にあたしに「ビールをもらって来てくれ」って話を逸らせた。

だから余計におかしいって思った。



馬ッチと子龍兄が同じ反応をしたのは………。

どうして?









馬超はバイキング制の円卓で軽く食事を取ると、残っていたビールを飲み干してカウンターへと足を運んだ。

バーテンにウイスキーを頼み、それを持って会場の外へと出て行く。

中の人間からは見られない死角へと歩き、一つ溜め息を付いた。



ふと空を見上げると、今夜はとても良く晴れていて、星々が競って目立とうと自己主張をする。

そのままそばの手摺に寄り掛かり、彼は心持ち俯きながら、ウィスキーに口をつける。

じんわりと、飲み慣れた液体が喉に心地良かった。



「何の因果か………」

「何が?」

「っ!?」



誰も居ないと思って自嘲気味に呟いた一言に言葉を返され、馬超は驚きながらもそれを悟られない様に、ゆっくりと相手を見遣った。



か………」

「あたしじゃ悪い?」



いつの間にこんなに間近まで寄って来ていたのか。

どうでも良さそうに名を呼ばれたのが面白くなかったのか、はムスッとしながら彼の真横に立っていた。



「コンバンワ〜」

「……何か用か?」

「その言い方、かなり酷くない?」

「…………ほっとけ」



手を振ってあどけなく挨拶をするも、嫌に素っ気無い彼の態度に、はハアッと溜め息を吐いた。



「何?機嫌悪いの?」

「悪くはないが……良くもないな」

「ふーん」



はそれ以上は何も言わず、俯きながらトンットンッと足で床を蹴っていた。

しばしの沈黙。



「………何なんだ?」

「ん〜、ちょっとね〜」

「どうした?」

「聞きたい事あったんだけど………」



と言いながら、自分より幾分も背の高い馬超を見上げる。



「早く言え」

「怒ってるみたいだから、やっぱいーや」



ふとが悲しそうに自分を見つめ、「んじゃ戻るね」とだけ告げて、来た道を戻ろうとした。

その表情に何かが、誰かが重なる。



!!」

「……え?」



思わず叫んでしまった。

その名前の意味を知らないは、彼が何を言っているのか分からず只々困惑した顔で彼を見つめる。



「え……何??」

「っ……いや……何でもない………」

「馬ッチ?」



彼女に重ねて大事な人間を見てしまった事を、馬超は酷く後悔した。



「ちょっと……馬ッチ大丈夫?馬ッチ……」

「すまない…………一人にして…くれないか?」



ふいに崩れ落ちた彼を心配したが、その背に手を当てて声をかけるが、返って来たのはこの言葉だけだった。



「うん……分かった。………ごめんね?」



それだけ言うと、は彼の頭を一撫でして、会場内へと帰って行く。



「違う…。謝るのは………俺の方なのに…………」



去り行く彼女の気配をその背に感じながら、馬超は何かを堪える様に、震える声で呟いた。










「子龍兄………教えて」

「ん?どうした?」



馬超が円卓へと歩み去った後しばらくは周りの雰囲気を楽しんでいたが、それにも飽きたのか、用意されていた椅子へと座って暫く。

が急に背後から声をかけて来て、先程の事を忘れたかの様に笑顔で振り返った彼が見たものは、今にも泣き出しそうな顔だった。



…?どうしたんだ?何が……」

「どうして子龍兄は………あたしを悲しそうに見るの?」



心臓が跳ね上がる。

それと同時に、どうしようもない不安が彼の胸を締め付けた。



これはきっと馬超に対しても思っていたのだろう。

先程、彼女は外へ出て行った馬超を追って行った。

そこから戻って来てこの表情なら、と彼も黙って後を追わせた自分を後悔した。



「すまない…。これは……私の口からは…………言えないんだ」

「………そっか。分かった」



が寂しそうに、辛そうに目を伏せてる。

それを見て趙雲は抱きしめてしまいたいと思ったが、は彼女ではない。

彼女を抱き締めようと本能で出た手は、彼女を誰とも重ねてはいけないという理性で抑えつけられた。



「でも、いつかは………ううん、やっぱいいや」

「いや………いい。いつか必ず…孟起の口から言わせる」



言ってはいけない事を口にしてしまったと思い留まった彼女に、趙雲は悲しげに笑って、そう答えた。



「お前は……私の大事な妹だからな」

「子龍兄………」



それに同調するかの様に、目の前のT妹″は静かに笑った。