[新入生歓迎会/4]
「、この場は友人をたくさん作る機会だ。
私や孟起に遠慮しないで、友人と飲むも良し。作るも良しだ」
その空気を消す様に、趙雲はの耳元へ唇を近付け呟いた。
「うん……行って来るね」
趙雲の優しい気遣いが分かったは、変わらず儚い笑みを向けて彼の傍から離れて行った。
飲んでいた日本酒もカラになり、は再びカウンターへと足を向ける。
そこで二杯目のおかわりをもらい、彼女はカウンター内の適当な席に腰をかけた。
「こんばんわ」
ふと声がかけられ、振り返るとそこには。
『うっそ………また美形…………』
これで、ここに入学して何度目の美形遭遇だろうか?
彼女はまだ入学してから、二日しか経っていないはずだ。
「どうしました?私の顔に何か………」
「え、あぁ……いや何も…………」
自分の横に立ってニコニコと笑っている少年に、思わず目を奪われる。
少年は何だろう?と言う顔をしているが、はキョドっているのか返事がおかしかった。
「新入生の方ですよね?」
「え、はい」
少年は相変わらず笑顔を崩さず、の隣に腰をかけ、続けた。
「私もなんです」
「え、そうなの?」
でもには分かった気がした。
何故かと言われれば、目の前の少年は絶対10代だ!と女のカンが告げたからである。
だって肌とかピチピチプリプリだし、何と言っても笑顔がジャニ○ズ系。
「えぇ。あ、自己紹介まだでしたね。私は陸伯言、これから宜しくお願いします」
ピチプリのジャニ君もとい陸遜は、立ち上がりながら白い派をキラッと煌めかせ、手を差し出した。
「あたしは、こちらこそ〜」
ギュッと握った手を見て、は驚いた。
立った時に陸遜と自分の目線が一緒だったので「同じくらいの身長なのかな?」と思っていたが、流石は男の子。
自分より少し大きめで、しかも何か凄い女爪。
「うっわ………手ぇキレーだねぇ」
「え?」
思わず呟いてしまった一言に、陸遜が困り顔をする。
「あたし何か変な事言った?」
「あ、いえ…………」
「何?言ってよ〜」
困った顔をされてしまっては、きっと自分が失礼な事を言ったに違いないと思った。
しかし聞いても彼は困り顔をもっと困らせて、苦笑いをする。
「いえ……さんこそ、綺麗な手だと思ったので………」
「どこがぁ?あはは!面白い事言う子だね、陸君は」
「?本当の事ですけど……」
彼の言葉に思わず笑ってしまったに『?』という顔をした。
「なんだか暖かくて……優しい感じがします」
「ふふっ……君、将来良いプレイボーイになるよ………」
「なっ!?わ、私は別にそういうつもりで言ったのでは………」
純情なのか、からかわれただけで顔を真っ赤にした陸遜。
それがなんだか可愛くて、は「ごめんごめん、冗談だよ」と言って腰をかけた。
陸遜もそれに習い、席につく。
「あ。あとあたしの事はで良いから」
「え?ですが………」
「呼び捨てが嫌なら、別にさんでもちゃんでも良いよ」
「そうですか?では私の事は伯言とお呼び下さい」
「うん、分かった!」
陸遜は少しホッとした様に笑い、可愛らしいと言っては失礼だが、実際にその通りの笑みをに向けた。
「何か新しい弟出来たみたい」
「えぇ!?」
「伯言絶対に10代でしょ?」
「?そうですけど……」
「じゃあ弟みたいなモンだね!」
はぁ、と意味が分からなさそうに生返事をする陸遜を横目に、はクスリと笑った。
「もう一人弟みたいのが出来たんだ〜」
「へぇ、どなたですか?」
「ん〜とね〜………」
「あ!さん!!」
「へ?あ、伯約じゃん!」
陸遜との会話に花を咲かせていると、を見つけたのが嬉しかったのか、姜維が笑顔で現れた。
「この子だよ、弟みたいって言ってたのは」
「あぁ、伯約殿だったのですね!」
「え?もうオトモダチ?」
「はい!」
駆け寄って来る姜維を見ながら、陸遜が嬉しそうに返事をした。
「伯約どう?一緒に」
「良いのですか?では、一緒させて頂きます!」
犬が尾を振るように、とても嬉しそうに姜維はの隣に付いた。
『美少年二人に囲まれてる……。でも何か、やっぱり弟が二人出来たみたい』
そう思いながら笑ったは、少しだけ心が晴れた気がした。
「うい〜!もう一杯よろしくぅ〜」
「さん……」
「大丈夫ですか〜さん?飲み過ぎは良くないれすよ〜?」
「伯言うっさ〜い!伯約、早くぅ〜」
いつの間にか一合二合と飲んでる内に、やけにテンションが上がったのか、は御機嫌になり始めていた。
「伯約ぅ、お酌してくれないのかな〜?」
「は、はい!すぐに!!」
「私はぁ〜……まだまだですぅ〜……」
姜維はにお酌を強請られ世話焼き係になっているし、そんなテンションのに飲まされ過ぎた為か、陸遜までおかしくなっていた。
「ギャッハッハッハ!伯約〜こぼれそうなんだけど〜」
「あぁ!?も、申し訳ありません!!」
「うぅ……私、気持ち悪くなって来ましたぁ〜」
「あぁ!!伯言殿、ここで吐かないで下され!!」
フラァ〜っと陸遜が揺れ動いたかと思ったら、すぐにドサッと倒れる音がする。
どうやら飲み過ぎて潰れてしまった様だ。
「あぁ……私はどうしたら………」
「馬鹿めが!!少しは静かに飲めぬのか!!」
自分一人で酔っぱらい二人の相手をさせられてどうしようかとオロオロしていた姜維に、思わぬ人物から救いの手が差し伸べられる。
「え?ど、どちらさまでしょうか?」
「名など名乗らぬで良い、馬鹿めが!!」
司馬懿殿、登場である。
姜維は面識がないので知らなかったが、は彼に気付いて驚愕した。
「きゃー!テストで15点取った人だぁ!キャハハ☆」
「貴様っ…この……凡愚めがぁ!!!!!!!」
酔っぱらいの暴言により怒り狂ってしまった司馬懿。
持っていた黒い羽扇で、の頭をドベチッ!と叩いた。
「い……痛いぃ〜!!伯約、痛いッスぅ〜!!」
「さん……だ、大丈夫ですか?」
「この青白い人がぶつ〜!助けて伯約〜!」
「ッ誰が青白いだ!馬鹿めがあぁ〜〜ぁ!!」
対して痛くもないのに『痛い』を連呼するを黙らせるべく、司馬懿が再度黒羽扇を振り上げようとする。
「お待ちなさい、司馬懿殿」
「む?諸葛亮か……」
追っかけて現れたのは、この学園きっての天才と呼ばれる諸葛亮。ちなみに字は孔明。
司馬懿が怒っている所をこっそりと見て笑っていたのだが、羽扇で叩かれるがいたたまれなくなったのか、影から出て来たのだ。
「あまりお怒りになってはいけませんよ、司馬懿殿。本当の事を言われたからと言って激怒するのは、T勉強が足りない″証拠です」
あえてT勉強″を強調する。
暗に司馬懿に対してT15点″を連想させる様に揶揄しているのだ。
すぐにそれと分かった司馬懿は、顔を真っ赤にさせて怒り狂った。
「諸葛亮!!貴様ぁ〜!!」
「さてと……私は彼を保健室へ運びます。そちらの少年、彼女はあなたに任せましたよ?」
怒る司馬懿を無視して、姜維へと目をやっての面倒を頼む。
そしておもむろに、持っていた司馬懿とは対照的な白の羽扇を一振りする。
すると潰れていた陸遜の身体はフワリと宙を浮いた。
「えっ!?」
「な、なんだと!?」
それを目にしてしまった姜維と司馬懿、驚愕過ぎて口を開け放しにしている。
「さて……では失礼」
羽扇に口元を隠しながらフッと笑うと、諸葛亮はそのまま自身も宙を浮いて、会場から消えていった。
「…………………」
「…………………」
残された二人は言葉もでない。
暫くすると、姜維が身体をフルフルと震わせ、感動いっぱいに叫んだ。
「す、素晴らしい!!もしやあのお方が『鬼道使いの孔明』殿でしょうか!?」
「むっ……」
何故か感動に打ちひしがれる姜維に、司馬懿は言葉をつぐむ。
「姜伯約、感動致した!!是非あの方の弟子に!!!!!」
そう言うや否や、いままで黙っていて何をしていたのかと言われれば、潰れかけていたとしか答えようがないをほったらかして、彼は諸葛亮の後を追って行った。
「なっ……私がこの娘を見ろと言うのか!?」
叫んでみた所で、姜維の姿はもう見えなかった。
「………………どうしろと言うのだ………」
どうしたら良いのか分からず「膝!」と言って勝手に借りて寝てしまったに怒りを覚えたが、とりあえずそのままにして惚けていると、馬超が傍に近寄って来た。
「済まなかったな」
「いや……構わぬ」
馬超は自分がぶっきらぼうな言い方をしたので怒るだろうと思っていたのだが、当の司馬懿は小声で「馬鹿めが」とに対して呟いただけ。
しかし、言葉とは裏腹に彼女の髪を梳いていた。
「世話をかけた」
「別に世話など焼いておらぬ」
司馬懿はそう言うと、顎で『この女を持って行け』と促した。
「よっ……と」
「あまり振り回すでないぞ」
ふと言った司馬懿の言葉に、を横抱きにした馬超は目をやった。
「………どういう意味だ?」
「……そのままの意味だ」
「見ていたのか?」
「この女がお前を追って、戻って来た所は見た」
要するに、司馬懿は彼女が先程馬超の後を追って、戻って来た時には暗い顔をしていたのを見ていたと言う事。
そして、それをT振り回している″と言いたかったのだ。
「……そんな事は分かっている」
「そうか、ならば良い」
馬超は彼女を抱いたまま踵を返し、司馬懿は誰に聞かせるわけもなく一人、呟いた。
「う〜ん……」
「気付いたか?」
「ん〜馬ッチ………アレ?あたしの部屋?」
「俺が運んだ」
「そっかぁ……ありがとう」
「気にするな」
は気付くと、自分の部屋にいた。
その相手が馬超だと分かると、先程の空気が二人のつつむ。
しかし、馬超が運んでくれた事には礼を言った。
暫しの沈黙。
その度、彼は何かを言いかけては口を噤んでいたが、意を決したかの様に口を開いた。
「……」
「ん〜?」
「いつか………」
「?何?」
「いつか必ず言う。だから待っててくれないか?」
「え………」
思いつめた表情の馬超が言ったのは、この一言だけだった。
「馬ッチ………」
「じゃあ俺は部屋に戻る。何かあったら呼べよ?」
すぐにいつもの顔に戻り部屋を出て行く彼に、は何故かは分からなかったが涙が浮かぶ。
「うん、待ってるね……」
パタンと閉じたドアに、彼女はそう言いながら涙を零した。