[契り/1]






新入生歓迎会も終わり、約一週間が経った。

学園の生活にも少し慣れ始め、色んな人間と打ち解け始めた頃。



今日は金曜日だが、学園はある意味休日に近い物だった。

無双学園は週休2日制でそこら辺は他の学校とは同じ制度だが、違う所の方が多々ある。

そして、何故金曜が休日と同じなのかというと………。



「オリエンテーション?」

「そうだ」

「何ソレ?」

「先週はお前達が入学して来たばかりだったから、やらなかったがな……」



は眉を上げて顔を顰めたが、馬超は事もなげに答えた。



要するに、金曜日はここの学園長が大好きそうなT皆で仲良くしよう!″というのを大袈裟にして『1・2・3学年合同で親睦を深める』という意味合いで開かれる事となったモノ。

普通の学校ならばそんな事は絶対にありえないのだが、この学園は運良く、そんなお気楽園長が言った事が多数決で決定してしまう学校。

言わば何でもアリな学校だった。



「へ〜。で、何やるの?」

「週ごとに劉先生の思い付きでやるからな。俺には全く分からん」

「劉先生が何も思い付かない時は、休みになるんですよ」



と、馬超との間に入って来たのは趙雲。

爽やか笑顔で割って入った趙雲に馬超は顔を顰めるが、彼はそんな事を気にせずにと会話を続ける。



「へ〜。じゃあどっちにしても、休みに近いんじゃん?」

「そうなりますね」

「え〜!何か凄い得した気分なんだけど〜!」

「ふふ……は可愛いですね」

「やだ、やめてよ可愛いなんて!あたしに似合わねー!」

「そうですか?私としてははとても可愛いんですけどね?」

「キャッ☆照れるぅ〜!」

「……………おい」



趙雲にとって、が可愛い妹分なのは分かっている。

にとっても、趙雲は大好きな兄貴分だろう。

だが、そんな微笑ましい光景を黙って見ていられる程、馬超は大人でもない。



「ん?どしたの馬ッチ?」

、ちょっと来い」



首を傾げるを手招きして、自分の方へと来させる。



「何ナニ?」

「どぉりゃあ!」

「ひゃっ!」



何の疑いもなくニコニコと笑って寄って来た彼女を、馬超は羽交い締めにして、座っている自分の膝に乗っけた。



「孟起………」

「煩い!こいつは俺のだ!!」



それを見て趙雲は思わず溜め息をつくが、馬超は全く聞く耳なし!とばかりにを抱く腕に、力を込める。



「ビックリしたー……」



と言えば、いきなりガバッと羽交い締めにされたものだからかなり驚いた様で、目を白黒させている。



「孟起…が困っているだろう……」

「知るか!」

「いいよ、子龍兄」



趙雲が馬超を諭すが、彼はプイッとそっぽを向いてしまう。

それに、も馬超の膝が気に入ったのか、楽しそうだった。



『やはり免疫があるんだな………』



先日、趙雲はに対してそんな事を思っていたが、馬超の膝に楽しそうに乗せられている彼女に、今回も同じ事を思った。



ふと馬超に目をやると、彼は不敵に笑っている。

それに少しムカついた趙雲は、こめかみに青筋を浮き上がらせて馬超に笑顔を返した。



「ふふ…孟起。良い度胸ですね」

「っ!?」



相方のドス黒いオーラが出ているのを本能的に察知した馬超は、を腕に抱きながら冷や汗をかいた。



「し、子龍……?」

「ふっ……ふふふふ………」

「こ、この状況で手を出せばが傷付くぞ……?」

「ふっ…分かっていますよ。だから今は手を出しません」

「どしたの二人とも?」



T今は″を強調されて、後に繰り広げられるであろう一方的なリンチに恐れおののいた馬超に、更に冷たい笑みを向ける彼の異変に気付いたのか、が不安そうな声を上げる。

瞬間、趙雲は黒さを引っ込めて、いつもの白い爽やか笑顔を彼女に向けた。



「なんでもないですよ?ねぇ孟起?」

「そ、そうだ……なんでも………」



どうしてここまで黒い奴になってしまったのか。

彼は馬超とに目をやる時にまで、黒と白を使い分けている。

それもひとえに可愛い妹分を溺愛しているからこそ。

は趙雲が黒っぽいのが気のせいだと勘違いして、ニコッと笑い返した。



「あ、子龍兄もあたしの上に座る?サンドイッチみたいじゃな〜い?」

「ばっ!?馬鹿を言うな!」

「そうですね。それも良いかもしれませんが……。私が孟起の上に乗って、その上にが乗ると言うのは?」

「良いね〜ソレ!」



とんでもない事を言い出す

それを馬超が制止するが、黒に心を染められつつある趙雲は、その提案にノリノリだ。



「馬鹿を言うな!俺が潰れるだろうが!!」

「大丈夫だよ、あたし抱っこ出来るぐらいだし?」

「そうですね。じゃあ孟起………」



途端に再度真っ黒な気をスーパーサ○ヤ人の様に出し始める趙雲。

やばい、絶対殺られる!

本能が『ヤバイ』と鐘を鳴らす。

ならば殺られる前に……と考えたが、自分の膝にはがいる為、下手をすると彼女を巻き込んでしまう可能性がある。



…そろそろ膝が痺れる。悪いな?」

「え?うん、分かった」



膝が痺れると言う理由をつけて、馬超は彼女を隣に座らせた。

その更に隣では、趙雲が『賢明な判断だ』と言わんばかりの顔をして、満足気だ。

馬孟起、己の身の危険の為ならば我が侭を押さえられる様になる。



少し大人になった瞬間だった。










「で、今日はどんな事すんのかね?」



HRの時間になっても担任が来ない事を不思議に思ったが、馬超の潔い判断にオーラを引っ込めた趙雲に聞く。



「今日は特に劉先生が思い付かなかったのでしょう。だから多分解散になりますよ?」

「えーマジ?じゃあ休み決定じゃ〜ん!」

「ふふ、どこか遊びに行きますか?」

「え、ホント?行きたい〜!」

「…………………」



盛り上がり始めると趙雲をよそに、馬超はとても面白くなさそうにしている。

それが気になったが、ふと馬超に話を振った。



「馬ッチは?」

「………俺はいい」

「えっ?」



めずらしく馬超が拒否をする。

いつもなら「俺も一緒に行くのが当たり前だろう!」と兄貴気取り全開で行く気満々なのに、今日は何故か酷く怯えた表情をしている。



「どしたの馬ッチ?なんか顔青い………」

「…………………」

「たまには私と二人も良いでしょう?それともは嫌ですか?」



顔色を真っ青にしてこちらに視線を向けない馬超を心配してが首を傾げるが、そんな彼には目もくれずに趙雲は話を進めようとする。



もちろん馬超だって本当は凄い行きたい。

だが、今日は何故か趙雲の目が恐い。

暗に『付いて来たら殺られる覚悟はおありですね?』と、に向ける爽やか笑顔のままで見つめてくる趙雲に、彼は恐れをなしていた。



「俺はいいから、たまには二人で遊んで来い……」

「そう?嫌なら別に……」



嫌なワケないだろ!!と言おうとした所で、趙雲の目が怪しく光る。

恐い。それもすっごく。

付いて来るな+を悲しませる言い方をするな、という視線をザクザク感じる。



「嫌なワケではない。今日は少し用事があるだけだ………」

「あ、そうなんだ?だったらしゃーないよね」



残念、と言いながら笑ったを見つめながら、趙雲は馬超に『ナイスフォローだ』と、先程より幾分か柔らかくなった笑みを向けた。



「では一度部屋に戻って、それからロビーに集合で宜しいですね?」

「うん!」



趙雲とが二人で出かけるという話がついた後、祝融先生が教室に来て「今日はそのまま解散」との事を告げられて、寮へと戻って来た三人。

馬超は相変わらず顔が青いままだったが、が「具合悪いなら薬飲んで寝てるんだよ?」と見当違いな事を言っているのに生返事をして、そのまま別れた。



馬超の部屋は4階で、趙雲の部屋は3階。

先に上がって行った馬超を横目に、趙雲が確認を取る。

が元気良く頷くと、彼は満足そうに頷いて、そのまま自身も階段を登って行った。



「馬ッチ………大丈夫かな?」



全くもって、馬超が何故顔色が悪いのか分からなかったは、気にかけつつも支度をする為に部屋に入って行った。