[入学式]






新入生の一列は、新しく友達になった者同士でグループに別れ、ゆったりと歩いていった。

入学式の会場となる体育館へは、校舎と連結していたので、雨の日でも濡れる事はなかった。

そして、全校冷暖房完備なので除湿も怠っているはずもなく、割と過ごしやすい環境だった。



新入生の列は、いったん体育館前で止まり、後は入場の合図を待つだけの状態だった。

館内からは2、3学年がもう集まっているのか、ザワザワと人の声がしていた。



「ねぇねぇ!」



ふと、の背中をつついて来た者がいる。



「えっ?」

「私、小喬!!よろしくネ!!」



といきなり満面の笑みを浮かべて、自己紹介をして来た小柄な女の子。

顔はとても整っていて女でも見愡れる程のものだが、その子供っぽい髪型や話し方で『可愛い』という表現が良く似合う。



「あぁ、あたしは。よろしくね」



もつられて笑顔を作る。

小喬という少女は笑顔を崩さず、嬉しそうに話し掛けてくる。



「良かったぁ〜!この学校って、女の子少ないよね〜。私、一人だけだったらどうしようかと思っちゃったよぉ!さっき教室入ってったら男の子ばっかりで、一人ぼっちだったらどうしようって!」

「そうかな?でも一応共学だから、たまたま近年少ないだけじゃないかな?」

「う〜ん…。ムツかしい話はよく分かんないよぉ!でも、仲良くしてネ!」



どこがどう難しい話なのかは判らなかっただったが、とりあえず初日だしツッこまない事にする。



「うん。こちらこそよろしくね、小喬ちゃん」



お互いにニッコリと微笑むと、館内からは元気な行進曲が流れて来た。入場の合図だ。

それとみて、祝融先生は「じゃあ行くよ!!」と気合いを入れて、扉を開け放った。










は先ほどから思っていたが、どうやら1学年は一クラスだけらしい。

というか、2、3学年も一クラスずつなんだな、というのが館内に入ってから分かった。

2学年も3学年も、各十数人ずつしか居なく、拍手の音もまばらだった。



席は学年ごとにちゃんとわけられており、一番ステージに近いのが1学年。入場口へ向かって2学年、3学年と続いた。

曲と合わせて着席すると、館内はシンと静まり返る。

辺りを見回すと先程仲良くなった小喬と目が合い、笑顔で手を小さく振ってきた。



も軽く笑って答えていると、「では、これから入学式を始めます」との声が館内に響いた。









最初は、国語と道徳、兼3学年の担任であり学園長も努めているという、超多忙そうな先生のお話だった。



「まずは新入生の諸君、御入学おめでとう!そして、初めまして。新入生の君達の為の入学式も、このような天候では少し鬱々としてしまうかもしれないが、天災はどうしようもないものだな。私は劉玄徳。色々と兼任している身なので、中々皆と話せる機会も少ないかもと思うが、ヒマそうにしていたらいつでも声をかけてくれ。ひとつよろしく」



と、新入生の顔を一人ひとり確かめていくように見回しながら、人好きする笑顔で言った。



「それでは、他の先生方にも自己紹介をしていっていただくから、少し楽にして聞きなさい」










それから各学年の担任、副担任とそれぞれ受け持っている教科などを含めた教員達の自己紹介も終わり、後の連絡事項を聞いて、1学年から退場していった。



「ねぇねぇちゃん!」



ゆっくりと歩くを小走りで追いかけて来て、彼女を呼び止めたのは小喬だ。



「あれ?小喬ちゃん。どした?」



自分より背の小さい小喬の歩幅に合わせ、は優しく聞く。



ちゃん、先生の中で誰がカッコ良いって思った?」

「へ?」



またしてもいきなりな小喬に、またしてもは唖然とする。



「だからぁ!誰がちゃんのタイプだった?」

「え…ん〜。外見ってだけなら…張コウ先生かなぁ?でもなんか立ち振るまいとかがナルシーっぽそうだったからねー」



女の子らしい質問をしてくる小喬になぁなぁで答えると、「私にも聞いて☆」とばかりにを見つめてきた。



『わかりやすい子だな…』



ウルウルと期待の眼差しで見つめてくる小喬の瞳に負けて、同じ質問を返してやる。



「小喬ちゃんは…」

「周瑜先生!!」



有無を言わさず答えた小喬に、は内心少し引きながらも「あぁ、綺麗な顔してたもんね〜」と苦笑した。

そんなを見た小喬が、笑っている意味がわからないのか不思議そうな顔をしている。



ちゃん、何で笑ってんの〜?」

「いや、小喬ちゃんがあんまりわかりやすくて…」

「酷〜い!私、子供じゃないもん!!」



ぷ〜っと頬を膨らませる小喬を見て、は更に笑った。



「ところでさ、小喬ちゃんていくつ?」



は、先程から気になっていた事を口にしてみる。

服装もそうだが、話し方や表情までが少し子供じみている為、少し気になっていたのだ。



「ん〜?16だよ☆」



じゅうろくぅ!?

その数字に、の脳内には『じゅうろく』という文字がエンドレスに響き渡る。



「…ピッチピチだね」

「え?そうかなぁ?」



小喬自身は悪気なく教えた年齢も、今のの心を的確に突いていく。



『21と16って…うわー。5つも違うよ、おい』



予想はしていたのか、しかしあまりの相手の若さにやりきれなくなって、思わず自分に突っ込む。

小喬は「どうしたの?大丈夫?」と言って、心配そうにを見上げていた。

本当に心配そうにをみていたので「まぁ、いっか」と心の中で割きり、は小喬を見て微笑んだ。



「うん、大丈夫。ありがとう」

「本当に大丈夫?私、変な事言ったのかなって思っちゃったから…。ごめんね?」



尚心配してくれる小喬の頭を優しく撫でて、はくすりと笑った。



「本当、会ったばっかりなのに、小喬ちゃんは可愛いね」

「えっ!?本当?えへへ〜☆」



よく表情が変わる子だなと思いつつ、は列に遅れぬ様に教室へと向かった。










「おう!どうだった?」



教室に着くと、先程は御機嫌ナナメだった馬超も機嫌が直ったらしく、さっそくそう聞いてきた。孫策や典韋も興味ありげだ。



「期待に胸膨らませた入学式…ってワケでもなかっただろ?」

「ん。別に劉先生の話を聞いて、その後に先生達の自己ショだっただけだよ?」

「劉先生癒し系だぜ〜」



入学式つまんなかっただろ、と言いたげな馬超に自分の感想を述べる。そして聞いてもいないのに「優しいしな!」と楽しそうな孫策。



「でも、あの癒しトークで授業されると眠くなんだよなー」と笑っている典韋。

「ほー。で、好みのタイプはいたか?」



なにやら楽しそうに聞いてくる馬超に『またその質問かよ…』と先程小喬に聞かれた事を思いだしつつ、は答える。



「先生の中でってんなら、劉先生が感じ良かったよ。孫君が言うようにT癒し系″って感じだしね」



そう言うと、ふいに留年三人衆の顔が曇った。なにか変な事でも言ったかなとは気になる。



「え…何?あたし何か変なこと言った?」

「うむ…。劉先生はやめておいた方がいいな」

「なんで?」



別に、はだた感じが良かったと言っただけなのに、馬超は恋の対象として考えているようだ。



「熱烈なオッカケがいるからなぁ…」

「Tアイツ″にイジめられるぜ〜」



典韋と孫策が続く。

そんな三人の言葉も、からすればあまり気にならなかったようで、「ふーん」で済ませた。



「で、他には?」

「ん〜。張コウ先生も美形だとは思ったけど…」

「やめとけ。あれは変態だ」



すかさず馬超が止めに入った。



「えぇ!?そうなんだ」

「ナルシストとも言うぜ〜」

「オカマじゃねぇか?」



と典韋と孫策も、半ば教員扱いしていない物言いをし始めた。



「あっ…そういえば、周瑜先生は純粋に綺麗だなって思ったよ?」



あまりの張コウの言われように同情を抱いたは、他の先生の名前を上げて話題を変えようとする。



「あの先生は病弱だな。いつも吐血してるし」

「ウソォ!?」

「つーか、吐血しない日はないな」



病院に行って入院してた方が良いんじゃないの?とも思える台詞を、馬超はサラリと吐いた。



「ま、2学年も3学年も、教師生徒共に個性っつーかアクが強いのばっかだから、目ぇ付けらんねぇ様にしろよ?お前でかくてヤケに目立つんだからよ?」



失礼な言動をしつつを心配してくれている典韋に、は笑顔になる。



「うん。ありがと典君!」

「T君″なんて付けんなよ。痒くなるしな。普通に典って呼べ」

「あ、じゃあ典ちゃんって呼んで良い?」

「なんだTちゃん″ってよ。余計に恥ずかしいだろ!」

「だってTちゃん″が似合うんだもん」

「ははは〜!!典、ゆでダコだぜ〜!」

「うっうるせぇな!!」

「あはは!可愛い〜!」



190もの上背のある典韋を見上げながら楽しそうに笑うに、みるみる顔が赤くなる典韋。

早くもイジられキャラと化した典韋をよそに、が「じゃあ典ちゃんね!」というと、更に耳まで赤くしながらも「分かったよ…」と渋々承諾した。



「じゃあ、あたしの事はって呼んでね!」



典韋の筋肉質な腕をツンツンとつつきながら、が言う。



って呼んで良いのか?」

「うん。あたし名前で呼び捨てにされんのが好きなんだ。あっ、馬っチも孫君もそう呼んでネ!」

「おう。」

「分かったぜ〜」



ガラッと、一度職員室へプリントを取りに行った祝融先生が、教室内に入って来た。

それで達の会話は終了となり、各々の机へと腰掛けた。