[入学式が終わったら…]





持って来たプリントを配り終えると、祝融先生の大きな声が響いた。



「さぁてと。じゃあ今日の日程はこれだけだから、後は各自帰り支度をして、寮に行きな。今配ったプリントにも書いてあるけど、校舎のすぐ隣だよ!わからない奴は職員室に来な!それと、夜更かしするんじゃないよ?じゃあ解散!!」



祝融先生の声と共に、生徒達は荷物をまとめて下校し始めた。



「おい!、一緒に寮まで案内してやるよ」

「え、大丈夫だよ。一応プリントもらったし…」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか!」

「よっしゃ〜、決まりだな〜」



と、は半ば強制的に馬超達に寮まで案内してもらう事になった。



「なんか、朝から面倒ばっかり見てもらってる気がする…」

は気にするタイプなんだな〜」

「気にすんじゃねぇ!俺らが面倒見たくて見てるだけなんだからよ!」

「うん。でもありがとね、すごい嬉しい!…実は友達とか出来なかったらどうしようかって、初日そうそう思ってたんだ」

「見かけによらず謙虚な女だな」



なんだかんだ言いながらも気にかけてくれる留年三人衆に、は心から嬉しく思った。



「で、部屋は何号室もらったんだ?」

「あ、えっと、211号室…」

「お?角部屋だな確か」

「階段に近い方かな?」

「んにゃ、遠い方」

「えぇ〜!めんどくさ〜」



真ん中ぐらいが良かったーと、がプリプリ愚痴っている内に、校舎の中庭を抜けていつの間にか別の建物の前へと着いていた。

学生寮は、外見は至って普通。しかし学園と一緒で、中はまたきらびやかな内装になっていた。

各自個室でオートロック、冷暖房完備でセキュリティばっちしな、『寮』というより『一人暮らし専用』と言った方が正しい、まさに理想の学生寮だった。



「うわー、一階はロビーなんだ」

「学生寮とは思えんだろう?」

「うん。ちょっとしたプチ高級ホテルっつっても、誰も疑わないよこれ」



そのの解答に三人衆は笑いながら、部屋のキーをもらう為に受け付けへと足を向けた。



「お〜い、丕居るか?丕〜!」



人を呼ぶ為の鐘をチリンチリンと振りながら孫策が呼ぶと、奥から若い男が出て来た。



「やぁ策!」

「よっ!」



丕と呼ばれた男は馬超達を見ると、笑顔を作った。



「あぁ、キーだね?少し待っててくれ。…ほら」

男が三人衆の各部屋のキーを渡す。ふと大柄な男達の中にいる背の高い女に目をやって、「こちらは?」と馬超に聞いた。



「あぁ、こいつは。新入生だ」

「へぇ。私は曹丕子桓。よろしくね、ちゃん」

「あ、よろしくお願いします!」



優しい顔で笑いかけられ、は思わず恥ずかしくなる。

二人が握手をし終わったところで、馬超が曹丕に声をかけた。



「子桓、の荷物は届いてないのか?」

「あ、そういや宅急便で生活用品先に送っといたんだった」



馬超の言葉にが思い出したように反応した。



「そうだった。ちゃんの荷物も届いてるよ」



曹丕がそう言って、受付の奥へ消えて行く。



「あたし、ああいうタイプの人好みかも」



その言葉に三人衆が一斉にをみるやいなや、典韋がの肩に置いて「やめとけ…」と呟いた。

他二人も同意するように、うんうんと頷いている。



「え、何で?」

「あいつは既に妻帯者だ」

「マジ?」

「奥さんも、そりゃまた絶世の美女だぞ」

「へぇ…。見てみたーい!」



の興味は曹丕からその妻『絶世の美女』に変わったらしく、キャッキャ言い出した。



「はい、おまたせー。これで全部だよね?」

「はい。ありがとうございまーす!」



届いた荷物の確認を済ませていると、男三人にも聞こえる声でに言った。



「この荷物、ちょっとどころかかなり重たいよ。大丈夫?」

「え?何とかしますけど…」

「俺が持ってやる」



曹丕の意図を読み取ったのは馬超で、重い荷物をどうにかして持とうとしていたからスッと奪い上げた。



「あ、ありがとう」

「気にするな。…確かに女には少し重いかもしれないな。何が入っているんだ?」

「ん。日用品とかだよ」

「そうか。それじゃあ行くぞ」

「あっ、ちゃん。部屋のキー渡しとく、はい」

「やだ、忘れてた。ありがと曹さん。」

「丕で良いよ」

「はい、ありがと丕さん!」



軽くお辞儀をして部屋へ向かおうとするに「良かったね、お姫さま!」と、曹丕が笑いかけた。










「ごめんね、荷物まで持ってもらっちゃって…」



少し申し訳なさそうに、だが嬉しそうにが言った。



「気にすんなよ〜」

「伯符、持ってないお前が言うな」

「どっちかっつったら、ってでかいからパワー系の女に見えるんだけどな」

「典ちゃん、何気にそれあたしに失礼だから」



こう見えても以外とか弱いんだかんねあたし、とか言いつつ、は内装の華やかさに眉間をしかめた。



「しっかし…すごい内装だよね」

「あ〜。だが俺等が入学して来た時は、もっとキラキラしてたぜ〜」

「まじー!?」

「目に悪いって事でクレームが何度かきたらしくて、これでも随分控えめになった方だぞ?」

「ふ〜ん。でもあんまこれ以上のキラキラっぷりは想像したくないよね」

「その内慣れらぁ!」

「いや、慣れんのもどうかと思うけど…」



三者三様の野郎共の意見に言葉を返しつつ、は自分の部屋となる扉の前に到着した。



「ひゅ〜、どうなってんのか楽しみ〜☆」

「結構単純な奴だな」

「うっさいよ、そこ」



馬超にからかわれながら、先程曹丕にもらったキーで扉を開く。



「うわ!!以外と広いじゃん!」



中へ入ると想像していたものより広く、おまけにベランダまで付いていた。



「トイレとユニットバスもあるぜ〜」



我先にと部屋の中へ侵入した孫策が、さっそく各部屋を紹介しだした。



「わ〜、風呂も結構広いね!」

「だろ?」



自分の部屋の作りと同じなのに何故か得意満面な顔で、典韋もその輪に加わる。



「一人暮らしみてー!!あたし憧れてたんだよねー」

「はは!一応学校だけどな〜」

「でもなんか嬉しー!」

「ところでだ、

「ん、馬っチどうした?」



先程から会話に入っていなかった馬超が、さらりと話題を変えた。

は興奮覚めやらぬ様子で、キョロキョロと部屋を眺め回している。



「入学式も終わったよな?」

「へ?うん」

「お前、今日これから予定は?」

「別にないよ?」

「よし!決まりだな!!」



そう言うと、馬超は孫策、典韋と顔を見合わせてうんうんと頷き合った。



「なに三人で納得してんの?意味分かんないんだけど」



彼等の意図する事を理解出来ず、は少し訝し気な顔をし「早く言ってよ」と視線で促した。



「俺達でお前の歓迎パーティ開くぞ !」

「へぇっ?」



あまりにいきなりな言葉に、は素頓狂な声を上げた。



「何だ嫌か?」

「えっ、ううん嫌じゃないよ!むしろ嬉しい!…っていうか、いつそんな事…」

「お前達新入生が入学式に出てる時に、三人で話して決めた」



と馬超はニッと笑った。

いきなりの歓迎会決定に、は内心驚きを隠せなかったものの、会って間もない自分の為に三人でパーティを開いてくれるとは。

『すっごい良い友人に入学初日から巡り会えたのかな?』と、この男達に出会えて感謝した。



「とりあえずひとっ風呂浴びてから、ロビーに集合だな」

「楽しみだぜ〜!」

「んじゃ、とっとと解散してとっとと集まろうや!」

「うん、じゃあまた後でね!」



そういって、孫策と典韋は手を振って自室へと戻っていったが、馬超は何故かその場に残っていた。



「?馬っチどうしたの?」

「ん…いや、じゃあ俺も行く」

「あっ、馬っチ!」

「どうした?」

「ん…ありがとね」


が俯きながら嬉しそうに言った後、馬超はの頭をひと撫でしながら「俺が気に入っただけだ…」と呟いて自分の部屋へと帰って行った。