[制服で行こう!/3]
「本当に申し訳ありませんでした……………」
が趙雲に『丈の短さは自分の意志で行った』と伝えると、彼はまず孫権に謝った。
「いや、誤解が解けたので、気にしな………」
「気にしろ」
趙雲の心からの謝罪に苦笑しながら孫権が返そうとすると、すかさず馬超が横槍を入れる。
「馬殿。こうして怪我もなく済んだのだから………」
「殺される所だったんだぞ?」
その馬超の言葉に、孫権はうっと詰まった。
確かに先程の趙雲の目は、「マジで殺る」とギラギラ光っていたし、もしかしたら本当に殺られていたかもしれない。
だがその事はが止めてくれたし、大事には至らなかったので、と心の広い孫権は許した。
「と、とにかく。私は何事もなかっただけで……」
「器がでかい事だな」
そっぽを向いて、フンっと鼻を鳴らす馬超に苦笑を返しながら、「では」と孫権は教室へ帰って行った。
「孟起………」
「俺は許さんぞ」
次に謝るべき対象に突き放される形になった趙雲は、困った顔をして横にいるを見つめた。
「馬ッチ、許してあげなよ?」
「嫌だ」
「何で?」
「おまっ………………下手をしたら死んでいたんだぞ?」
「でも死んでないじゃん?」
「可能性の問題だ」
と、ここまで言って、馬超は一息ついた。
そして、ちらりと趙雲に視線を移す。
「子龍」
「………何だ?」
「最近のお前の問題点を上げるぞ?」
「…………………………………」
ここで、趙雲が気まずそうに閉口したので、馬超は機転を利かせてやった。
「」
「ん?」
「お前、ちょっと典達の所へ行ってろ」
「え!何で?」
「命令だ」
「なっ……………」
が一瞬不服そうな顔をするが、馬超がマジで言っているのが分かったので、渋々孫策と典韋の居る席へ歩いて行った。
「これで良いな?」
「…………済まない」
「構わん」
馬超が腕を組んで趙雲を見ると、彼は腰に手をやりながらも、何かを考えているのか俯いたままだ。
それが少し気になった馬超だが、やがて親友の為だ、と溜め息を一つついて口を開いた。
「お前、最近マジ妄想が酷いぞ」
「……………あぁ」
「それに、先走り過ぎだ」
「…………………」
「それと……」
『過保護にし過ぎる』と言おうとして、馬超は止めた。
それは自分にも言える事だったし、そこまで言ってもどうしようもない事は分かっていたから。
「………もういい。戻ろう」
「?孟起?」
「説教なんて俺らしくないからな。それはお前の分野だろう?」
「……………本当に済まなかった」
「もう気にしていない」
話を区切った馬超を不思議に思いつつも、趙雲は一言だけ謝る。
それにそっぽを向いて答えると、馬超は趙雲の背を叩いてのいる席へと向かった。
「ちゃんカワイ〜!!」
「小喬ちゃんだって可愛いよ〜!」
席へ戻ると、は小喬に捕まっていた。
「あ、仲直り成功?」
が戻って来た馬超達の姿を見つけ、笑顔で振り返る。
「良かったね〜!」
一緒に並んで来た所で仲直りが成功したのだと分かったは、二人に座るように促す。
馬超はフッと笑いながら、趙雲は笑顔のに吊られたのか、笑いながら席に着く。
「当たり前だろう?俺達は仲良しだからな」
をからかう様に言った馬超。
それをやはり、からかわれた!と取ったは、口を尖らせながら「あたしだって子龍兄と仲良しだし!」と反論した。
だが、と小喬を除く他の面子(趙雲・孫策・典韋)は、目を見開いたままで固まっていた。
「え?どしたの三人共…………」
唖然と固まってしまった男達にが問いかけると、三人はハッとしたと思ったら、同時に首をブンブンと振って口々に「何でもない」と言った。
そして、お互いに目配せをすると、三人揃ってガタッと立ち上がる。
「………まだ時間がある様なので、飲み物でも買って来ますね」
「お、俺も行くぜ〜」
「わ、わしも………」
やけに視線の泳いでいる三人の行動に、は「変なの……」と呟いて、小喬と馬超とお喋りを始めた。
互いに何も喋らずに、無言のまま教室を出た趙雲・孫策・典韋は、一階の自販機の前に着くと同時に、一斉に目配せし合った。
「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」
誰が最初に口を開くか互いにさぐり合う。
だがやはり、というか一番に口を開いたのは、沈黙に慣れていない孫策だった。
「……ビックリしたぜ〜」
頭をポリポリと掻きながら心底驚いた様に言う。
「……わしもあんな孟起は始めてだ」
「だろ〜?」
「あんな事言う奴だったか?」
「俺は初めてだぜ〜」
と、それから二人の視線は趙雲に行く。
「………………………私も………正直驚いた」
「やっぱおめぇもか………」
観念したのか、率直な感想を述べる趙雲の肩を、典韋はポンッと叩く。
趙雲達の驚いている理由。
それは、馬超が『仲良し』という単語を使った事にある。
いつもは仏頂面で、話をしていても「あぁ」「おう」と、一言で終わらせてしまう馬超。
一緒にツルんで居ても、趙雲以外とは余り長々と話をしないし、ましてや自分から話を振るなんてめったになかった。
そして、自分の事に関しては、一切誰にも話したがらない。
例え相手に聞かれたとしても、「さぁな」と一蹴するか、馬超の事を一番理解している趙雲に『別の話題に変えろ』と視線を送るだけ。
孫策や典韋は、元々そういう事にはあっさりしていたので何とも思っていないが。
更に言えば、趙雲は旧知の仲なので、彼は馬超の好む事も嫌がる事も心得ている。
そして、馬超がある事件を切っ掛けに、他人と距離を置く様になってしまった理由も。
故に馬超が淡白な関係を好む男だと分かっている、一番の理解者の趙雲も、今回の彼の台詞はかなり驚いたのだ。
その他人と距離を起きたがる男が『仲良しだからな』と言ったのだ。
それは、馬超の事を知っている現在の二学年(と留年組)にとっては衝撃的な発言だった。
確かに、がこの学園に入って来てから、馬超は少しずつだが確実に変わり始めている。
決して他人に興味を持たなかった彼が、出会って間もない彼女の世話を焼いたり、気にかけたり。
最近は口元だけでも笑う様になったし、彼女となら軽い口喧嘩もしている。
それは、長年の付き合いの趙雲にとって、喜ばしい事であったし、嬉しい変化であった。
そして、これからまた、徐々にあの頃失った感情を取り戻せれば……と。
「まぁ、何にしても良い事ですよ」
「そうか〜?何かスゲー違和感あるぜ〜?」
「子龍がそう言ってんだから、良いんじゃねぇか?」
フッと笑った趙雲に、何か納得いかない顔の孫策。
そんな孫策を横目に苦笑しながら典韋が言うと、「まぁ、そ〜なのかもな〜」と彼も苦笑して趙雲に視線をやった。
「取りあえずジュース買って戻ろうぜ〜?」
「そーだな!」
余り考えるのが性分に合っていない孫策と典韋は、各々自販機で飲み物を買うと、「じゃあ休み時間にな!」と言って教室へと戻って行った。
「………………まぁ、良い方に回っている、という事か」
暫く何かを考え込んでいた趙雲は、そう一人ごちると、ミネラルウォーターを買って二学年の教室へと戻って行った。