[転入生がやって来た!]
とあるいつもの日常。
その日は、一学年の教室は朝からとってもザワついていた。
ある者は緊張し、ある者は嬉しそうに笑顔を絶やさない。
それもそのはずで。
我らが一学年に、転入生がやって来たという話が上がったのだ。
教室に入ると、まずは爽やか陸遜のお出迎えが待っていた。
彼は小走りにに駆け寄ると、ニッコリと少年らしい笑顔で言った。
「おはようございます、さん!」
「あ、伯言おはよ〜ん!」
手をひらりと振ってみせ、挨拶を返す。
陸遜はそれを嬉しそうに見て、白い歯を見せた。
そして、思い出したように「あぁ、そう言えば……」と言った。
「ん?どしたん?」
「そういえば、この学年に転入生が来るという話を聞いたのですが………」
「えっ?うっそ!?マジで〜!」
昨日、下校前のHRで祝融先生は何も言ってなかったはずだと思い返す。
「祝融先生、なんも言ってなかった気がすんだけど………」
「それが、急に決まった事らしいんですよ」
「へぇ〜」
相変わらず突拍子もない学園だ、と思いながら陸遜と話していると、後ろから頭をポンと叩かれた。
驚いて振り返ると、そこにはジュースでも買いに行っていたのか、右手にスポーツドリンクを持った馬超。
彼は何故かムスッとしているが、は気にせず言った。
「あ、馬ッチおはよ〜ん!」
「………………おう」
「何?御機嫌ナナメですか〜?」
茶化すをシカトして、馬超は陸遜を睨み付けた。
しかしそれで臆する彼ではない。
陸遜は陸遜でニコニコと笑みを浮かべたまま、平然と馬超のガン付けを受け流している。
『………に手を出すな』
『クスッ!馬殿って、凄い妄想癖ですね!』
今の二人は、そんな感じで火花が散っていた。
しかしはそんな事は露知らず、馬超の手にあるスポーツドリンクを見てポツリと言う。
「あっ!あたしもジュース買って来よっと!」
くるりと踵を返したの腕を、馬超が掴んだ。
「待て、」
「ん、何?」
「もうすぐHRだぞ」
「あ、そっか〜……」
と、馬超の持っていた飲み物を見つめる。
その視線を感じた彼は、それを持ち上げながらニッと笑った。
「後で買いに行け。それまで俺のを飲んでいて構わん」
「わっ!ありがと〜う馬ッチ!」
「…………………………」
仲良しこよしな二人を見て、納得行かない故、無言の嫌がらせをしたのは陸遜。
無言でいればが「どしたの伯約?」と来てくれると思ったが、それは馬超の「ほら、早くこっち来い」との
妨害で撃沈した。
現には「ジュースゥ〜!」と言って、彼の後を付いて行ってしまった。
「……………………くっ!燃やして殺りましょうか………」
そう呟いた一言は馬超達に聞こえる事はなく、たまたま彼に声を掛けようと近付いた姜維に聞かれる事とな
る。
姜維は本能で危険を察知し、その日は『伯言殿には近付くまい』と心に決めた。
祝融先生が教室に入って来て、早速HRが開始。
は先程馬超からかっぱらったドリンクで喉を潤しながら、先生の話を聞いていた。
ふと、隣の席の馬超に小声で話し掛ける。
「そういえば馬ッチさぁ」
「ん?」
「なんか転入生来るんだって?」
「あぁ…………らしいな。俺もさっき伯符に聞いた」
その会話を聞き付けたのか、祝融先生のチョークが馬超の額にヒットした。
いきなりの出来事だったので、馬超が額に手を当てて呻く。
「そこ!話すなら大声で話しな!コソコソすんじゃないよ!!」
相変わらず、指摘する所を間違っている祝融先生に内心ビビる。
しかし、『チョーク飛んだ!今どきチョーク飛ばした!』と、馬超を見て笑わずにはいられない。
プッと小声で笑ったにもかかわらず、彼は聞こえたようで「…………、お前………っ!」と言っていたが、
目を逸らして聞こえないフリをした。
一通り連絡事項を終えた後、祝融先生が切り出した。
「ところで………朝から噂になってるみたいだけど、この学年に転入生が来たよ!」
辺りがザワついた。
隣同士で顔を見合わせ「どんな人だろう?」と、皆首を傾げている。
不安と期待、と言った所だろうか。
も先程陸遜にその話を聞いた為、『どんな奴だろーなー?』と思っていた。
すると、扉がガラッと勢い良く開く。
現れたのは………。
『デカッ!!』
の転入生に対する第一印象は、これだった。
女なら良いな〜との期待も虚しく、男。
そして、とにかくデカいのだ。
祝融先生も女性にしては大きい方なのだが、それを頭一つ以上抜けて高い。
下手をすると、頭二つ分程。
2メートルはあるのではないか?
いや、それよりも高いだろう。
多分周泰よりも高い。
『っつーか顔恐っ!!目付き悪っ!!』
による、心の中の二度目の突っ込み。
心で突っ込んだので、誰も反応は返しては来ない。
隣の馬超を見ると、まだチョーク攻撃がヒットした額が痛むのか、そこを擦りながら悶絶している。
は内心それに大爆笑していたが、笑うと後で意地悪されそうなので、堪えた。
すると、祝融先生が大きな声で言った。
「この子は『呂布 奉先』君だよ!皆、仲良くしてやんな!!」
は、何か先生の言い方が、某映画の『やっちまいな!』に似ているなぁ、と思った。
それと同時に笑いを堪える。
にとって、転入生はさほど『わ〜い!』な感じではないらしい。
どちらかと言うと『転入生なんだ〜』『へ〜』という感じ。
再度隣を見ると、馬超は復活したらしく、その『呂布』君を見ていた。
コッソリと声をかける。
「ねぇ馬ッチ」
「あ?」
「…………笑ったの怒ってんの?」
「当たり前だ」
馬超は先程のチョーク事件を笑った事を、まだ根に持っているらしい。
ムスッとして、の方を見ようともしない。
は「はぁ……」と溜め息をつき、小さく言った。
「………ごめんってば」
「………………………」
「馬ッチ大好きー」
「………………で、何だ?」
その一言で機嫌を直したのか、チラリとを見る。
単純だなぁ、と彼に心で苦笑しながら、言葉を繋いだ。
「呂君って、不良系かな?」
「………………さぁな?」
「友達になれると思う?」
「…………………………あいつの行動しだいだ」
馬超は暗に『に近付く奴なら、容赦しない』という思いを込めていたのだが、そんなことが知ったこっ
ちゃない。
というか、自身が全然そんな事にまで考えが辿り着かないので、「ふーん」とだけ返した。