[拉致られる]
「オラァ!」
「うぉっ!?」
馬超とくっちゃべっているのがバレたのか、掛け声と同時に、祝融先生のチョーク攻撃が、に襲い掛かった。
爆笑していた矢先、自分に来ると思っていなかったので、避ける事もままならない。
ヤベェ当たる。
そう思って目を閉じたが、痛みはどこにもなかった。
目を恐る恐る開け、まず視界に入って来たのは、手。
ゴツゴツした男の手。
まじまじとその手を辿って行くと、手の主は馬超。
手の中を見てみると、そこには魔のチョーク。
「…………馬ッチ?」
「あんだけ笑いを堪えていたのなら、少しぐらい自分の危険ぐらい考えろ」
「ごめん……………それと、ありがと」
祝融先生のチョークの魔の手から救ってくれたのは、馬超だったのだ。
彼はそう言うとそっぽを向いて、チョークを先生に投げ返した。
それを受け取った先生は「やるねぇ!色男」と笑っていた。
「まぁ、俺が庇うのを分かっててやったんだろうがな………」
「?」
馬超の言った言葉の意味が理解出来ずに、は首を傾げる。
対する彼は、「気にするな」とだけ言うと、前を向いてしまった。
それから転入生の呂布君の為に、クラス全員が簡単な自己紹介を終え、いつも通り1時間目が始まった。
「おい、貴様」
「っ!?」
休み時間、馬超達と話しながら爆笑していたに、声がかかった。
そちらに振り向くと、先程の転校生、呂布。
「えっ……………な、何?」
彼の余りの目付きの悪さに、ビビる。
しかし、呂布はさして気にせずに、彼女の腕を取った。
「へっ!?な、な、な…………」
「付き合え」
呂布はそれだけ言うと、の腕をグイと引っ張った。
しかしそれは、我らが馬ッチの手によって阻まれる。
馬超は、の腕を掴んでいる呂布の手をたたき落とし、ギロリとメンチを切った。
「貴様………………邪魔する気か?」
「………………………」
馬超の行動に、呂布がメンチを切り返す。
バチバチッ!
両者の間には、これでもかと火花が散った。
「えっ?何、ちょっと………」
そんな二人の間に挟まれて、困ったのは。
睨み合う二人の間でオロオロと両者を見つめている。
そこへ、天の助けとばかりに、何事にも臆する事のない小喬が現れた。
「ちゃ〜ん!」
「あ、小喬ちゃん………」
現れた救世主に、が『何とかしてくれ』と視線で訴える。
対する小喬。
彼女は馬超と呂布の睨み合いなど物ともせずに、二人を交互に見遣りながらに笑いかけた。
「わぁ〜!ちゃんモテモテ〜?」
「いや、違うから」
取りあえず突っ込むが、小喬はお構いなしでキャッキャ笑う。
『余計こんがらがりそう』と思ったの心境は、ただその光景を「修羅場だぜ〜!」と爆笑して見ている孫策
ではなく、その隣で溜め息を付いている典韋に理解してもらえたらしい。
典韋は立ち上がると、馬超と呂布の間に入り、「まぁ落ち着けや」と言った。
二人は典韋を睨んだが、取りあえず互いに「ふん」と鼻を鳴らして視線を外す。
『救世主は典韋だった!』と、は心で大号泣した。
「で、呂だっけか?」
「何だ?」
「に用事あんだろ?」
「………………そうだ」
典韋の質問にやや間を開けて、呂布が答える。
「馬超」
「駄目だ」
典韋が振り返り『ただの用事だろ?』と視線をやるが、馬超はそれをスパッと切り捨てた。
「おめぇがそう言ったってよぉ……決定権はにあんだろーが?」
「…………………………」
黙ってしまった彼から視線を外し、典韋は今度はを見た。
「」
「ん?なに典ちゃん?」
「おめぇはどうしたい?」
「は?」
「呂の話に付き合ってやるのかって聞いてんだ!」
「あ、あぁそれか…………」
はどうしようかなぁ、と悩んだ。
しかし、別に断わる理由もないし、と返答する。
「あたしは……………別に良いよ?話すぐらいならさ」
「よっし!行って来いや!」
「なっ!?典………お前!!」
典韋は、意義ありまくりな馬超を無視して、を送り出す。
それと同時に、呂布が彼女の腕を取った。
「悪いな、借りるぞ」
そう言い残して、呂布はを連れて教室を出て行った。
「典……………お前、どういう事だ!?」
「まぁまぁ、落ち着けや」
彼等が教室を出た後、馬超が食ってかかった。
それを軽くいなしながら、典韋は言う。
「おめぇも子龍も、を過保護にし過ぎだろーが?」
「っ……………それとこれと……」
「それに、お前が考えるようなこたぁ、呂は思ってねぇよ」
「……………どういう事だ?」
典韋の含みのある言い回しに、馬超が眉を寄せる。
典韋はそれに苦笑を返し、言った。
「だから。おめぇや子龍が思うような『を狙ってる』っつー感じじゃねぇって言ってんだよ、わしは」
「…………………………」
次にスパリと言い切られて、馬超はそっぽを向いた。
「どうしてそう言い切れる?」
「そりゃあおめぇ…………あの呂って奴。なんかに相談事でもありそうな顔してたからよ」
「………………相談事?」
「内容は、わしには分からん。けどよぉ。おめぇが思ってる事ぁないって言ってんだよ!」
それだけ言うと馬超も納得せざるを得ないらしく、フンと鼻を鳴らして顔を背けた。
「ったく………お前も『兄貴』二人持つと、大変だなぁ?」
ポツリと、ここに居ないに呟いた典韋の言葉を、馬超は外を眺めながら、顰め面で聞いていた。