[歓迎パーティー・1]
は軽くシャワーを浴びた後、馬超に運んでもらった荷物の中から新しい服を取り出すと、すぐに着替えを済ませた。
先程着ていた服は、雨の為裾が濡れてしまっていたので、設備されていた洗濯機に放り込む。
「荷物は…帰って来たらやればいいよね」
雨のせいでボンバった髪をとかし、化粧直しをする。
『これからここで生活していくんだよな〜』
そう思うと思わず嬉しさに顔がニヤけてしまう。
ニヤけ顔を引っ張りながら準備を終えると、バッグの中身を確認しブーツの汚れを取りながらドアを開けた。
「うわっ!!」
「遅いぞ!皆待ちくたびれてらぁ!!」
目の前に典韋が立っていたのに驚き、は肩を引き攣らせた。
「お?ビビらせちまったか?すまねぇな」
「え、うん。大丈夫だよ。いきなり強面が立ってたから、ちょっとビビったけど…」
「お前、けっこう口悪ぃな」
強面と言われ慣れているのか、怒るよりむしろ笑っている典韋。
『顔は恐いけど、以外とラブリー』とか思っていたは、「へぇへぇ、しっつれーしましたよん」と言いながら典韋の腕をプニプニしていた。
「まぁとりあえずロビー行くか!」
「お〜!」
腕をぶんと振り上げるに苦笑しながら、典韋はずんずん歩き出す。だが図体の割に歩幅が小さかった。
『あたしに合わせてくれてんのかな?』
ふと典韋の優しさに笑顔がこぼれる。
が笑ったのがわかったのか、典韋は「俺の歩幅に合わせてたらお前が疲れちまうだろ」と少し顔を赤くしていた。
「よ〜、待ったぜ〜!!」
「本当に女は支度が遅いな」
「ごーめーんーねー」
手をひらつかせてを呼ぶ孫策と、腕を組んでソファに腰掛けている馬超に、が軽く謝っていると。
「おまたせしました」
達の後ろから声がかかったので、一斉に皆そちらへ振り向いた。
「おそいぞ子龍。お前は女か」
「時間を指定しない孟起も孟起だろう?」
悪態を付く馬超を、ふっと笑いながら趙雲は軽くあしらった。
「あ〜!趙さん。さっきぶりで〜す!」
「やぁ。私も一緒させてもらっていいかな?さん」
「え、マジ?もちオッケーですよ〜!」
趙雲の思いがけぬ出現に、は大喜びした。
キャッと嬉しそうに両手を頬に当てて「し・あ・わ・せ〜」と言っている。
趙雲はとても礼儀正しく誠実で、優しくて更に色男という完璧っぷりだが、物腰に嫌みがないので男にも女にも人気があった。もちろん馬超もそれは理解していたが、のこの異様な変わりっぷりが面白くない。
といえば、話をしてみて女の第六感で感じ取ったのか、趙雲には早くも懐き気味だった。
「で、集まったはいいけどどこ行くの?」
「秘密に決まってるだろ」
「え〜!?いいじゃんよ。減るもんじゃないし」
「楽しみが減るだろ」
「ちぇー、いいもんね」
は唇をとがらせ「あたしにゃ趙さんがいるもんねー!」とか言っている。
「私はさんの味方ですよ」
趙雲も笑っての頭を撫でていた。
「ふん、とりあえずここでダベってても始まらんから行くぞ」
と趙雲のやりとりを面白くなさそうに見ていた馬超が、ソファから立ち上がり外へと歩きだす。
その後をが続こうとすると、受付から曹丕が声をかけた。
「ちゃんお出かけ?楽しんでおいで」
「あ、丕さん。楽しんで来ますね〜!」
曹丕に手を振りながら、馬超の後をおいかけた。
「趙さん、歓迎パーティの場所って近いんですかね?」
「少し遠いですよ」
「じゃあバス?」
「いえ、車ですよ」
「誰の車?」
「俺のだ」
趙雲との会話に割って入るように、馬超が言った。
「…ハデなの乗ってそう」
「お前…そういうのを思い込みが激しいって言うの知ってるか?」
「孟起の車はそう派手でもないですよ」
「あれ?意外…」
「また頬を引っ張られたい様だな…」
「う、うそです、ごめんなさい」
ダベりながら校舎とは反対方向へと歩いて行く。
どうやらそこに駐車場があるらしく、馬超がポケットから車のキーを出していた。
「あれが俺の愛車だ」
「え?…あれって…」
馬超が指さしたのは日○のスカイ○イン、セ○ン300GTプレ○アムであった。
「あれって結構高級車じゃないの?」
車の事など全く知らないも、これは何気なく知っていた。
「かなりなお値段じゃない?あの車…」
「そうか?確か350くらいで買ったのだが…」
「十分高いよ。馬っチ金銭感覚狂ってるって」
「ベ○ツとかは俺には似合わんからな」
「人の話は聞こうね?馬っチ…」
馬超の脇腹をツンツンつつきながら、は呟いた。
「馬っチってボンボンなんだねぇ…」
「親はいない」
え?とが馬超を見ると「兄弟もな…」と言いながら一瞬目を伏せたが、すぐに口をニッと上げてみせた。
「さぁ、行くぞ」
少し早足になり、馬超はドアを開けて乗り込んだ。
「…趙さん」
「…さん。人には色々と過去があるものです。分かりますね?」
趙雲の言いたい事を悟って、は「うん…」とだけ頷くと我先にと車に乗り込んでいく孫策達の方へと駆けて行った。
「めずらしいな。お前が家族の事を話すなんて」
達がやって来たのは学園から5〜6km行ったゲーセンで、元々ゲーセン通いをしていた事のあるは、さっそく孫策・典韋と共に大ハシャギで中へ入って行った。
馬超もクレーンゲームをしようと金を取り出していた所へ、趙雲が先の言葉を口にしたのだった。
「…話の成り行き上の事だ」
馬超は少しムッとしながら、ゲーム台に硬貨を入れる。
「そうだったか?いつもならまぁな、とだけで済ませる様に見ていたが?」
趙雲も馬超の隣にある台に硬貨を入れた。
「…何が言いたい?」
「いや、何も…」
馬超は趙雲の言いたい事は分かっていたが、それ以上突っ込んでこない相手にイラついているのか、指で拍子をとっている。
「…あぁ!?くそ、外した!!
「心が乱れている証拠ですよ」
「黙ってろ…」
遠回しに突っ込みを入れる趙雲に、馬超はふてくされた。
自分より後に硬貨を入れた趙雲は、まだゲームを楽しんでいたが、やけに沈黙が痛い。
結局無言で訴えに負けて、馬超はぽつりと呟いた。
「あいつ…」
「はい?」
「なんか…似てんだよ。死んだ妹に」
「さんが?」
馬超が真面目に話しだしたので、趙雲もゲームを中断した。
「あぁ、容姿や性格なんかは似ても似つかないけどな…」
馬超は台に背を預けて、少し自重気味に笑った。
「それとこれと、何の関係が?」
「ほっとけないんだ」
馬超の視線の先には、孫策と典韋がゲームをしているのを楽しそうに見ている。
趙雲もそれにならって、へと目をやる。
「入学式前もそうだった。」
「…というと?」
「教室に行こうと思って階段を見たら、あいつがいるのを見かけた。んで何か一人でブツくさ言ってた」
「…それで?」
「その後ろ姿が…妹に重なった」
馬超がから視線を放して、趙雲を見やる。趙雲はを見たままだったが、あぁと一人納得するように言うと、馬超をみて笑った。
「孟起はわざとぶつかったのか?」
車の中で、先程馬超との出合いをから聞いていた趙雲は、そうだったのかと苦笑した。
しかし運動神経が抜群の馬超が人にぶつかるなど、趙雲には到底考えられない事だったし、ぶつかりそうなら避けるであろうとどこか引っかかりがあったのだ。
に故意でぶつかったというのがその一言でバレたが、馬超はさほど気にならない様子で続ける。
「あぁ。ガキくさいと思うかもしれんが、思わずちょっかい出したくなった」
「ふふっ。中々子供っぽい事をするんだな、孟起は」
「には言うなよ」
照れ隠しなのか馬超は拗ねた顔をしたが、視線はへと戻っていた。
「お前らしいな」
「…もういい、行くぞ」
そういうと馬超は達のいる方へと歩きだした。