[ちょっとだけ可哀想]
「……………何を見ておる?」
「えっと……曹さんに夏侯さん」
「……………何だ?」
夏侯惇ばかりでなく曹操の名を呼んだ事に馬超は顔を顰めたが、は彼を見ずに続けた。
「一緒にカラオケ行きませんか?」
「はぁ!?」
ちなみに「はぁ!?」は馬超。
曹操と夏侯惇は各々に間の抜けた顔をしている。
馬超が慌てたような、怒ったような声で言った。
「何を言ってる!?、お前………」
「大勢のが楽しいじゃん?」
「馬鹿を言うな!」
「だって………皆で行きたいし」
それを口を開けて聞いていた曹操が、ふいに笑った。
「ふ………はっはっはっは!気に入ったぞ!」
「え?」
「中々面白い女だ!」
「はぁ……どうも」
そう言われて、は彼に肩をガッチリ捕まれる。
馬超がそれを再度振り払おうとするが、その前に彼はの腰に手を回して彼女を引き寄せた。
馬超の激怒の声が上がる。
「曹操!!!!!!!」
「まぁそう怒るな馬よ」
「貴様っ…………!!」
途端武器をどっからか取り出して、馬超が構える。
は一瞬の出来事に目を丸くさせ、何がどうなったのか分からない顔。
曹操は馬超を軽く一瞥すると、顎髭を擦りながら不敵に笑った。
「馬よ。そんな物をこんな場所で振り回せば、も怪我をする事になるぞ?」
「くっ……………」
「はっはっは!武器を仕舞え馬超よ!」
誇らしげに声高らかに笑う曹操に、悔しげに武器を下ろす馬超。
ハタから見たら悪役とヒーローだ。
もちろん悪役は曹操→麻薬密売組織のボス
ヒーローは馬超 →麻薬密売組織を追って槍を武器に雑魚兵を倒して行くアクションなヒーロー
ヒロインは →ありがちにヒーローな恋人(もしくは妹)役でヒーローの役に立とうとするも捕まる
ちなみに夏侯惇はボスのお付きみたいな感じで。
そんな事はどうでもいいが、がやけになりきってしまい「助けて馬超!」と言いやがったものだから、曹操も更にノリノリになってしまった。
「はっはっはっはっは!さぁ仕舞え、そら仕舞え!!この女はわしのものだぁ!」
ゴッ!!
ドサッ!!
ここで説明しよう!
ゴッ!!は夏侯惇が曹操の頭を激しくド突いた音。
ドサッ!は曹操が激しく倒れた音。
以上。
というワケで曹操の腕の中から解放されたは、馬超よろしくヒーローの胸に飛び込んだ。
馬超は夏侯惇の行動に目で『いいのか?』と言ったが、彼は『構わん。少し遊び過ぎだ』と視線を返した。
それをたまたま、部活に行く為に靴箱に向かおうとしていた周泰が、遠目から「…………………やるな」と呟いていた事を知る者はいない。
倒れた曹操を担ぎ上げ夏侯惇が踵を返そうとすると、が声をかけた。
彼はそれに視線だけ振り返ると、「……何だ?」と渋く(本人自覚なし)言った。
はそれに腰砕けになりそうになるも、必死に堪えながら笑顔になる。
「さぁ!夏侯さん達も行きましょう!」
「……………」
「ほら馬ッチも!早く支度して!」
呆気に取られる男性二人。
『いや、いつの間に行くって決まったんだ?』な夏侯惇に、『何で嫌だっつってんのに誘うんだよ!』な馬超。
はそれにおどけたように「ほ〜ら〜!早く!!」と言うと、ちゃっちゃと靴箱から自身のものを取り出して履き替えた。
「………………」
「………………」
「ほら、早くー!!」
未だに白目を向いた曹操に視線をやり、夏侯惇と馬超は『どうする?』と目配せし合った。
馬超は曹操とは仲が悪いが、以外と夏侯惇とは息が合いそうな気がする。
二人は無言を保っていたが、が彼等の腕を取った。
「ほら、早く行きましょ!」
「だからって何でこいつらを………」
「あたしが仲良くしたいから」
「……………」
そのの言葉に、馬超はもう何も言えなかった。
ってゆーか言う気力がなくなった。
だから言った。
「ただし………曹は置いて行け」
「仕方ない、妥協しましょう!」
どこが善処しているのか分からないが、は夏侯惇を見上げた。
対する彼は困惑したような顔をしている。
「さぁ夏侯さん!」
「しかし……」
「曹ならそこらへんに置いておけば、典辺りが拾って帰るだろ?」
「……………」
に戸惑う夏侯惇に、馬超はそう言った。
ここで普通の人間なら「置いてくってそんな…」という。
しかしここは無双学園。
だから夏侯惇は何か考えた後、曹操の身体をそこら辺にポイッと投げ捨てた。
「うわー大胆………」
「ここの連中は皆こんな感じだ。お前も気をつけろよ?」
「気を付けても意味なさそー……」
投げられた曹操を見てコソッとと馬超が言う。
それを全く気にしていないのか、夏侯惇は鞄を持ち直した。
「行くぞ」
「え、あぁはい!」
ぶっきらぼうに放った夏侯惇の言葉に、が嬉しそうに笑う。
馬超はそれにムッとしつつ、が言うのだから取りあえず我慢してやる、と靴を履き替えた。
強引なに押され、男二人はカラオケに連れ込まれる事となった。
夏侯惇の行動の理由。
それは曹操と同じく『に興味があったから』。
彼は昔の馬超を曹操繋がりで知っていた。
だから不思議に思った。
『あの』馬超が笑ったり怒ったりしているという事を。
夏侯惇は白目を向いている曹操に一度だけ視線をやる。
そして「ほらー早くー!」とテンションの高いを見つめた。
「孟徳には悪いが、俺も一応興味があるのでな……」
そう言って不敵に笑み、馬超に何か言われて怒っているを追って、彼も歩き出した。