[微妙な気まずさ]






夏侯惇が帰ってから10分後。

は夏侯惇とファミレスを出た後に、店前でケータイをいじっていた。

送り先は、もちろん趙雲。



『馬ッチに女の影あり!修羅場ってて焦った……(;^_^A』



一見ジョークめかした文ではあるが、実際の所、彼女の心中はそうでもない。

それもそのはずで、これから修羅場ってた男性と会わなくてはならなかったから。



チョー会いたくねー。

彼女の心境は、正にそれだった。



すると、すぐにブーッブーッと携帯がバイブする。

どうやらそっこーで返事が来たようだ。

振動に慌ててメールを開く。



すると一言。



『?私は「先日別れた」と聞きましたけど……』



……………………………………知ってたのかよ、チッ。

自分だけ知らなかったのかと思うと、それはそれで寂しい。

何となく面白くなかったので、心の中で舌打ちしてみるが虚しい。




暫く返事を返さないでいると、更にマシンガンのようにメールが入って来た。



『?センターで止まっているのかな?』

?』

『どうしたんだ?』

『………大丈夫か?

『何故返信してくれないんだ?』



あまりの勢いで入って来るそれに、苦笑した。

自分を気遣ってくれる子龍兄らしい、と。

それを見ている内に、緊張が解けていく。



だからは、宛先を趙雲にして、『大丈夫だよ?いきなり彼女が現れたから、ビックリしただけだよ〜ん☆』と返しておいた。

すると珍しく『………そうか』という、何とも微妙な返事。

変な返事だな、と思いながら首を傾げていると。



彼女にとって、今一番会いたくないランキングぶち抜け一位の馬超がやって来た。



「?中に居ると思ったぞ」

「え、あっ………と。まぁねぇ………」



彼は開口一番にそう言うと、の鞄をさり気なく取り上げ、自身の肩にかけた。

俺が持ってやる、という感じに。



馬超はこういう所で、なにげに気が効く。

普段は余り意識していなかったが、放課後の帰り道。

皆でゲーセンに行こう!と歩道を歩いている時。



さり気ない所で、こうして彼女を気遣い荷物を持ってくれたりする。



そう言えば、と色々思い出す。

入学式の時に、部屋に荷物を運んでくれたのも彼だった。

なんだかんだ言いながらも、自分が困れば一番に口添えをしてくれたり味方になってくれていた。



さり気ないというか、気付かない程度に。



「何だ?」

「ん……………別に」



チラリと彼を見ると、バッチシ目が合う。

そしてすぐに突っ込まれる形となったので、慌てて逸らした。

馬超はそれにニッと笑って言った。



「何だ?俺に惚れたか?」

「自惚れ男はタイプじゃありませんので、ホホホ」

「………つまらん」

「………つまるな」

「意味が分からん」

「ほっとけー」



一通りやり取りが済むと、馬超がふんと鼻を鳴らして歩き始めた。

はそれに苦笑しながら、付いて行く。



先程までの緊張感はなかった。

だが軽口を叩いていても、どこかぎこちなさが出てしまう。

それから暫くは、どちらとも口を開かず黙って歩いた。










向かった先は、何故か学園の屋上だった。

今日は風が穏やかだったので、頬を撫でるそれはとても気持ち良い。

手摺にもたれて目を閉じ、口元に笑みを浮かべていると、馬超がいきなり柵を乗り越えた。

しかし柵から先は、1メートル程足場があるので落ちる事はない。



「馬ッチ!?危ないよ!!」

「俺が落ちると思うか?」

「ムカつくー」



遠回しに「お前でもあるまいに」と言われたのが分かったのか、が頬をプゥと膨らませる。

馬超はそれにフッと笑った。

笑われたのが悔しいが、彼女に危険地帯に行く勇気はない。



「来ないのか?」

「無理」

「……恐いのか?」

「何言ってんの!恐いに決まってんじゃん!」

「馬鹿、そこで認めるな」

「うっさい黙れ!」



柵越しに手招きする彼の手を、ペンッと振り払う。

その行動にまた膨れたのか、馬超は顔を顰め、プイとそっぽを向いてしまった。

しかしチラとこちらに視線をやる辺り、拗ねてはいないようだ。





「なに?」

「来い」

「いやでございます」

「力づくで来させるぞ?」

「そしたら泣いて『痴漢ー!!』って叫んでやる……」

「………」



馬超は諦めたのか、ひょいと柵を乗り越えこちらに戻って来る。

そしてと自身の鞄を、そこら辺に投げ置いた。





「だから何?」

「俺は痴漢か?」

「事と次第によっては、そうでございます」

「さっきから思っていたが、その喋り方はお前には似合わんぞ」

「悪かったぁね」



は腕を組んで馬超を睨む。

そして今度は彼女が拗ねたらしく、ふいと彼に背を向けてしまった。

それを狙っていたのか、馬超がニヤッと笑った。



彼は後ろから、右腕を彼女の背に、左腕を膝裏に回した。

途端、の身体がフワと浮く。



「なっ!?ちょっと馬ッ…………!!」

「力づくと言っただろう?」

「ふざけんな、誘拐犯!!」

「少しは静かにしろ」



ギャンギャンと互いに騒ぎながらも、馬超は彼女を横抱きにして、その見事な跳躍力を持って手摺を簡単に飛び越えた。

それにが「ギャッ!」と悲鳴を上げれば、「色気も糞もないな」と笑い声が返って来る。



「いやーーーー!!!高い!!!いやっ…………死ぬ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「落ちてもいないのに、死んで堪るか」

「やだやだーー!!本当マジ駄目だってお願いだから………イヤーーーッ!!!」

「耳元で騒ぐな」



高所恐怖症なのかと思う程、の叫びは恐怖に支配されている。

馬超はそれを面白がりながらも、彼女を離そうとしない。



「ほれほれ、これで俺の偉大さが分かっただろう?」

「マジ勘弁してホントお願いだからーーーー!!!イヤッ落ちるぅーーー!!!」

「お前、本当に面白いな」



すると。



「う……う〜…………」

「!?」



が泣き出した。

柵を乗り越え、横抱きにされたまま階下を見せられた恐怖に、限界点を突破したっぽい。

両手をやって、グシグシと目元を擦っている。

それに馬超が慌て出す。



「ちょ、ちょっと待て………泣くな」

「うぅ〜っ………」

「わ、分かった!降ろすから泣くな!!」



「馬ッチのバガァーーーー!!!」

「ぐっ!?」



降ろされた途端、の渾身の一撃(グーパンチ)が馬超の鳩尾にヒットする。

彼は短くくぐもった声を出すと、腹を抑えてその場にうずくまった。