[決闘〜作戦会議〜]






ちゃ〜ん!一騎討ちするってホント〜?」

「えっ!もうそこまで広がってんの!?」

さんの実力、はっきりと胸に刻み付けておきたいです!!」

「クスッ、そうですね!ところで、一体誰と決闘するのですか?」



昼休みも終わり教室に戻って来ると、どこから聞き付けたのか早速小喬が駆け寄って来た。

驚いて目を丸くすると、姜維が目を輝かせて拳を握り締め、陸遜が苦笑しながら問う。

それに答えたのは、唖然としているではなく、決闘を受けさせた馬超だった。



「夏侯淵だ」

「カコーエン?」



上がる名前に小喬は「誰ソレ〜?」と首を傾げ、姜維も「誰ですか?」と首を捻る。

陸遜だけが思案顔で、視線を床に落とし口元に手を当てて、何事か考え込んでいる。

ふと、陸遜は顔を上げて言った。



「確か………夏侯惇殿の従兄弟とか………」

「そうだ」

「やはり……」



うむ、と言って黙り込んでしまった陸遜に、が「どしたの?」と訪ねた。

彼は一人「……火矢が必要ですね」と、危険な臭いのする事をブツブツ言っている。

陸遜の考えている事が分かったのか、馬超はその肩に腕を回して達に背を向けた。

そして、彼に小さく話し掛ける。



「おい、陸」

「え、あぁはい?どうしました?」

「お前の考えている事は、分かっている」

「あぁ………ふふ、バレてしまいました?」

「つーか、声に出てるぞ」



達には聞こえない程の声で、二人でやり取りする。

彼女は、いきなり内緒話を始めた二人に不満がある顔をしたが、すぐに「!!大事ないか!?」と何を勘違いしたのか、顔面蒼白で1学年の教室に現れた孫権に「え、何が?」と気を取られている。



「陸」

「はい?」

「何か策があるか?」

「えぇ……簡単な事です」

「簡単な事とは?」

「ふふ………馬殿が私を頼るなんて、珍しいですね」

「…………………に怪我をさせたくないからな」



別段馬超は策がなかったワケではないが、どうせなら頭を使う事が得意な人間に任せた方が良い、と考えた。

だからさり気なく、陸遜に聞いたのである。

対する彼は、相手が「夏侯淵」と聞いた瞬間、対策をすぐに閃かせたようで、何やら必要な物を指折り数えている。



「必要な物を言え」

「そうですね………では…………」


背を向けて相談し合う男二人。

陸遜の言った物を、馬超が何所から出したのか分からない小さなメモに、書き綴って行く。

そして書き終えた後、彼は姜維を呼んだ。



「おい、姜!ちょっと来い!」

「え?は、はい!何でしょうか?」



呼ばれた姜維は、馬超の剣幕と何処か笑ってても黒いオーラを放つ陸遜に、ビビる。

馬超は先程陸遜にしたように、彼の肩に腕を回してコソリと言った。



「いいか姜、このメモに書いてある物を、放課後までに用意しろ」

「えぇ!?こ、こんなに……しかもこれは!!」

「馬鹿!静かにしろ」

「し、失礼致した……しかしこれは、余りにも………」



メモの中に、何かとんでもない物が交じっているのか、姜維はつい声を上げてしまう。

それを馬超が静かに嗜め、彼は『こんな物、手に入るはずがない』と眉を下げた。

しかし馬超は、ニヤリと笑って言った。



「これなら諸葛が持っているはずだ」

「なっ!?じょ、丞相が!?」

「馬鹿!同じ事を何回も言わせるな」

「も、申し訳ない……………しかし…………」

「嫌だと言うなら容赦せんぞ。それに、が棍棒を持った大の男に、適うと思うのか?」



姜維は、夏侯淵と面識がなかったので顔は知らなかったが、馬超の言葉だけでその戸惑いを消し去った。

それは『棍棒』という単語。



獲物に棍棒を使うなら、素早さではなくパワー系だ、と瞬時に判断したのだ。

そして武器の扱いも知らないでは、120%勝ち目がないと言う事も。

故に彼は、『戦に必要な物を準備するパシリ』という大役を、自ら買って出た。



「姜伯約、すぐに準備に取りかからせて頂く!!!」

「おう、頼むぞ」

「はい!!お任せ下され!!!」



そう言うや否や、猛ダッシュで教室を出て行った。

ぶっちゃけ5限目があったのだが、彼の頭にはもう『を助ける』という事しか入っていないらしい。

多分一番最初に、諸葛亮に合いに行ったのだろう。

その後ろ姿を見て、馬超と陸遜は互いに顔を合わせて、ニヤリと笑った。










その頃、彼等の背後ではが孫権に果てしなく心配されていた。

いつの間に来たのか、孫権の後ろには周泰が、そして「押し倒されたって聞いたぞ!!俺の女に、許さねぇ!!」と、『押し倒したのはお前だろ』と突っ込まれそうな甘寧が。


それで更に、ピンと閃いたらしい陸遜。

彼は一人ほくそ笑むと、皆の注目を集める為に、手をパンッ!と叩いた。

一同が一斉に彼を見る。



さん、私考えたのですが」

「伯言どしたの?何考えたの?」



彼はに少年らしい笑顔で提案し、彼女はそれに首を傾げる。

彼は一瞬、裏のある顔をチラリと見せたが、生憎それは彼女にだけは気付かれなかったらしい。

他(馬超以外)の者達は、その顔を見て、背筋に悪寒が走った。

陸遜は言った。



さん一人では、この一騎討ちに絶対勝てません」

「だよね!?あたしもそう言ったんだけど、馬ッチが……」

「ですので、どうせなら戦形式にしてしまいましょう!」

「……はぁ!?」



爽やかに裏のある笑顔で、とんでもない事を平然と言い退けた陸遜。

は、何言ってんの!と言わんばかりに口を開ける。

陸遜は、彼女に小さく笑って見せ続ける。



さんを助けたいと思う勇姿の方は、いないですかね」



「私が守る!!」

「ズル〜イ!あたしもやる〜!!」

に指一本触れさせて溜まるかよ!!」

「私もその話、乗ろう!!」

「…………………………権様がそちらに付くというなら、俺も……」

「俺もやるぜ〜!!」



いつの間にいたのか、趙雲を筆頭に、小喬・甘寧・孫権・周泰・孫策の順で声が上がる。

しかし。



「た、大変です!!」

「どうした姜!?」

「そ、それが…………曹殿から孫殿に、これを……と」



先程出て行ったばかりの姜維が、大慌てで戻って来た。

そして、封のされた手紙を、孫策に渡す。

バリッと破いて、ピラッと見た彼。



だが次の瞬間、手紙は勢い良くまっ二つになっていた。

孫策が、「シャレんなんねぇぜ〜!!」と言って、怒りに任せて破いたのだ。



「どしたの孫君!?」

「ちくしょう!あのチョビ髭、大喬を人質に取りやがった!!『返して欲しければ、こっちに下れ』って書いてあるぜ〜!!」

「えぇ!?」



どうやら敵側も『どうせなら戦にするか?』と思案していたようだ。

そして余り側に人が集まるのも何なので、曹操の大好きな大喬を人質に取る事で、それを遮ったのだ。



「こんな策を思い付くのは…………司馬殿でしょうね」

「あ!あの15点の人でしょ!!」



人質などと言う大胆な作戦を取るのは、奴ぐらいしかいない。

てゆーか、曹操が駄々を捏ねて、司馬懿が仕方なしに簡単な策を出したのだろう。

それが、大喬誘拐。



孫策の顔が、悔しさに染まる。



「くっそ〜!俺はどうしたら………」

「孫殿、私に考えがあります」



と、ここで陸遜が、何やら孫策の耳元でゴニョゴニョと策を授けた。

それを聞いた彼は「おぉ!そりゃ面白ぇな〜、分かったずぇ!」と笑った。

そして「んじゃ俺は、夏侯淵のチームに行って来るな〜!」と手を振り、教室を出て行った。



「伯言、何言ったの?」

「クスッ!それは………………内緒です」

「相当な策なんだろうな?」

「はい。曹という方に、目に物を見せて差し上げましょう!クスッ」



陸遜の標的は、曹操にあった。

それは隣で聞いていた馬超も、すぐに分かった。

では何故陸遜が、それ程までに曹操撲滅を狙うのか?



答えは簡単だった。

彼は曹操とは面識はなくとも、馬超達の『奴はも狙ってるっぽい』という話を耳にしていたので、瞬時に暗殺を企てたのだ。

なんて恐ろしい17歳。



姜維と彼の違いは何だ?

てゆーか、どうしてこの二人が息が合うんだ?

結果、『育った環境なのかもしれん』という言葉で、馬超は心中一人片付けた。



姜維は暫くゼイゼイと呼吸を整えていたが、やがて言った。



「それと………あちらも夏侯淵殿を大将とした、かなりの大人数で始めるつもりらしいです」

「ではまず、仲間集めからですね……」

「途中、何人かに声はかけておき申した!」

「おぉ、伯約殿!!何と素晴らしいのでしょう!」



とても20前とは思えぬ美少年組みに、は『なんでそんな大規模になってくの!?』と突っ込み所満載だったが、もう止められない。

「じゃーあたしも声かけて来るね〜!」と出て行った小喬。

「武器の手入れをしなくては!行くぞ泰!!」「………分かりました」と、周泰を連れて2学年に戻った孫権。



「戦の前に、軽く手合わせでもするか?」「良いですね、お相手しましょう」「俺も混ぜろ!滾るぜ!!」と馬趙コンビ+甘寧も、仲良く教室を出て行く。

姜維と陸遜も「では打ち合わせがありますので……」と、ニコリと(一方は黒く)笑って、作戦会議を始めてしまった。










「一体…………何がどうなってんの…………?」



は、四方八方に散らばった仲間達に言うが、その場にはもう誰も居なかった。

こうして夏侯淵vsという一騎討ちは、夏侯淵軍団vs軍団、という形で開戦する事になる。