[決闘〜覚醒〜]






それから放課後になる間に、とんでもない事が起こっていた。

それはと言うと。



ぶっちゃけ、今回の喧嘩(?)は、夏侯淵の『惇兄を取られた!』というヤキモチから始まった事。

それは瞬く間に学園中に広まり、「俺も私も!」との参戦の声が上がった。

些細な可愛いヤキモチから始まった、決闘。



それがとんでもなく発展し、生徒同士の小競り合いになってしまったのだが、としてみれば「何で学園をまっ二つに分けての戦争になんの!?」という思い爆発だった。

そして、こう言ったノリの行事が大好きな学園長を始め、教員一同も『良いねソレ』と、誰が許可を取ったか知らないが、ある意味『学校行事』として、放課後大々的に繰り広げられる事となった。



ちなみに、チームもすでに決まっている。

それは学園長の「では各自メンバーを決める為に、5時限目はナシにしよう!」という鶴の一声によるもの。

そしてT負けられない!″という思いが強いのか、はたまた元々負けず嫌いの者が多いのか。

より良いメンバーを集める為に、まだ戦争を始める前なのにも関わらず、あちこちで小競り合いが繰り広げられた。



結果。





[大将]




[近衛兵]

趙雲  → 「には指一本触れさせん!」(隊長)
馬超  → 「は俺が守る!」(副長)


[軍師]

陸遜  → 「クスッ!良い油が手に入りました」(正軍師)
ホウ統 → 面白そうだったから、参戦(副軍師)
姜維  → 陸遜と馬超に『重役だ』と騙される(パシリ)


[一般兵]

黄忠  → 夏侯淵と仲が宜しくない為
小喬  → と仲良しな為
呂蒙  → 陸遜による、巻き添え(命令により)
孫尚香 → 「兄様の恋を応援するわ!」と参戦
孫権  → 命!(も虚しく)
周泰  → 「権様の為ならば……」(孫権の近衛兵)


[特殊技能部隊]

甘寧  → がいるチームが良い、と駄々を捏ねた為(特攻隊長)
太史慈 → 仲良しの甘寧に誘われ、参戦(甘寧指命により、副特攻隊長)
黄蓋  → 可愛い娘っ子の為(爆弾兵長)
袁紹  → 「女子一人になんたる所業!」と、道徳観念から(補給拠点兵長)






夏侯淵軍

[大将]

夏侯淵


[近衛兵]

諸葛亮 →「ふふ、面白そうですね」と参戦(隊長)


[軍師]

司馬懿→諸葛亮よりも良い成績を出す為(正軍師)


[一般兵]
曹操  →「大喬はわしのものだー!」と面白がって参戦
関羽  →「曹操殿の恩義に報いる為!」(曹操近衛兵)
典韋  →殿命!(曹操近衛兵)
許チョ →殿に「勝ったらうまい棒沢山やる」と餌に釣られた(曹操近衛兵)

張遼  →何故か呂布に気に入られた為
徐晃  →仲の良い張遼と共に
孟獲  →「母ちゃんに頑張れって言われたからな!」
董卓  →「酒池肉林じゃー!」
貂蝉  →日々ウザい董卓の暗殺を企てている為


[特殊技能部隊]

孫策  →「チョビヒゲ見てろよ〜!」(特攻隊長)
呂布  →貂蝉の事で、大喬に恩義を感じ参戦(隠し玉)
張角  →この学園の乱世を静める為(特殊工作兵長)
大喬  →曹操に人質として取られた(監禁)






[解説者・他]

祝融先生 →「おらぁ!気合い入れな!!」(応援団長)

魏延先生 →「我……森ヘ…………帰ル………」(早退)

張コウ先生→「実況中継は私に任せなさい!いざ、美しく!!」(実況中継)

周瑜先生 →張コウ先生に任せておくと、凄い事になりそうな予感だった為(嫌々実況中継)

劉備先生 →「青春という感じだな」(解説者)

甄姫先生 →「ふぅ……気疲れしそうですわ」(劉備先生の頼みにより、解説者)

孫堅   →「若いとは良いものだな」(観戦者)

張飛   →兄者が出ないので、面白くない為(観戦者)

曹仁   →「戦など……」と切なそうに(観戦者)



という、正に学園まっ二つに別れて(+開催委員)の、戦争になった。

とんでもない時代だ。

てゆーか、「ここは日本だ!」とが泣きたくなるのも分かる気がする。










そういうワケで、放課後。

軍と夏侯淵軍は、だだっ広い校庭に居た。



始めるにあたって、いくつかの諸注意を受けた後、学園長の劉備先生の元、何故か宣誓が行われた。

宣誓するのは、それぞれの軍の代表。

つまりは夏侯淵とによるもの。



「これを見て下さいね!」と、陸遜に笑顔で渡された、掌に収まる程小さなカンニングペーパーを見る。

ふと、横に立っていた夏侯淵が、それを見て笑った。



「………何?」

「お前、んなの見なけりゃ宣誓も出来ないのかよ?」

「放っとけヒゲ」

「んなっ?!ヒゲって言うんじゃねぇよ!」

「黙れヒゲ」



の機嫌はすこぶる悪かった。

それもそのはずで、彼女はただでさえ嫌なのに、どこで道を外してしまったのか『決闘』から『戦争』になっていく様を、ただ見ているしか出来なかったから。



「何でこんな事になったの!?」と後で考えても、もう遅い。

戦争ならぬ『戦』は、もう各軍の代表が宣誓するだけで、始まる。

だから、夏侯淵に対するの返答も、口悪くなってしまうのも仕方なかった。



「お前っ……口悪ぃぞ!」

「黙れ凡人が」

「ぼ、凡人だと!?」

「馬鹿目が、凡愚めが、つーかお前マジ爆ぜろ」



怒鳴り出す夏侯淵に、目も合わせずに冷たく返す

彼女に一瞥される事もなくそう返された彼は、ぐっと言葉に詰まった。



そして、それを自軍で見ていた趙雲&馬超の近衛兵コンビ。

彼等は静かに怒りを現す彼女に、正直ヤベーなぁと思った。

彼等はの怒った所を、真面目に見た事がない。



今回、彼女は拗ねたりギャーギャー騒ぐ事もなく、静かに怒っている。

それは彼女がいかにブチキレ寸前かという事を、これでもかと現していた。

そういえば、彼女は喧嘩が嫌いと言っていたなぁ、と馬超は渋顔を作る。

そしていくらあの場を納めるとはいえ、決闘を受けさせた事を少しだけ後悔した。



「おい、子龍」

「どうした?」

の奴、かなりキレてないか?」

「それはそうだろう」



趙雲も後から後悔したのか、まだ何か騒ぎ立てる夏侯淵に、目もくれずに冷たく返す彼女を見つめながら、「まずい事をしたかもしれない」と思っていた。



「あいつ、キレるとああなるのか」

「………そうみたいだな」

「ま、良い教訓になる」

「………ふぅ」



何となく『彼女が怒っている』という事を忘れたくて、馬超が完結するのを、趙雲はため息で了承した。










「では確認するが、夏侯淵軍が勝てば『夏侯惇とカラオケ』という褒美で良いのだな?」


劉備先生がそう言うと、夏侯淵は「はい!」と、まだ勝ったワケでもないのに、喜びの色を露にした。

劉備先生は優しく笑うと、次はに聞いた。



「では。そなたは?」

「え?あたしですか?」



そう聞かれて、正直戸惑う

そこへ、横から馬超が近付いて、言った。



「俺達が勝ったら、夏侯淵をの子分にする」

「はぁ!?」

「んだとぉっ!?」



その台詞にが素頓狂な声を上げ、夏侯淵は『聞いてねーぞ!』とばかりに声を荒げた。

しかし馬超はフンと鼻を鳴らすと、挑発するように言う。



「俺達に勝つ自信があるから、戦形式にしたのだろう?」

「お、俺様が考えたワケじゃねぇ!」

「ふん、どうせ司馬や曹だろう」



明らかに嘲るよう笑う馬超に、夏侯淵が「うっ」と言って、口を噤む。

そして彼はに「宣誓始めろ」と一言言うと、元いた位置に戻って行った。










「宣誓!!」

「……宣誓」



「我々夏侯淵軍と」

「我々軍は」



「この学園内を二つに分け、各領地と決め」

「…………出来るだけ物を壊さないように、清々堂々と勝負する事を」



「誓います!」

「誓います!」



宣誓は終了した。

それと同時に、各軍の軍師達が、伏兵やら特殊隊員を所々配置する為、真っ先に散らばって行く。



『始まっちゃった……』



そう思ったが、もう止められない。

てゆーか、「こうなったらどうにでもなれ!」と腹を括るしかなかった。



なので、は「っしゃ!」と一発自分に喝を入れると、『護身用に」とファン代表孫権に渡された、刃の付いていないギザギザ剣を一振りする。

そして一つ深呼吸をして、自軍のメンバーに向かって、声を上げた。



「受けて立ったからには、ぜってー勝てよ!!!!!!!」



開き直った人間は、強い。

特には、開き直ると『人の上に立つ器』までに覚醒するようだ。

それはまるで、王者の風格。



そして何故か何処か恐い。

一言で言えば、『威厳がある』。



正直、馬超と趙雲はそれにホッとすると同時に、冷や汗をかいた。

彼女を覚醒させる事だけは、今後なるべくしないようにしよう、と。

しかし、彼等はまだ知らなかった。



が覚醒すると、どうなるかと言う事を。