[歓迎パーティー・2]
「なんだコレ?こんなん一人で出来んのか?」
そういって顔をしかめているのは典韋。
最初は孫策と典韋の二人で音楽ゲームのセッションをしていたのだが、二人が終わると観戦していたもノって来たらしく「あたしも久々に音ゲーやろっかな〜」と言い出した。
もちろんの為の歓迎パーティなのだから、別にやるのは構わないのだが。
何故典韋が顔をしかめていたのかといえば、がプレイしようとしていたゲームはボタンがたくさんあり、それを一人でやろうとしていたからだった。
「久しぶりだから、上手く出来るかな?」
ボタン配置を確認しつつ、硬貨を入れてスタートする。
「、一人で出来んのか〜?」
孫策が笑いながらを冷やかすが、自身はふふん!と意味ありげに笑っているだけ。
「簡単なのなら一人で出来るもんねー」
パシッパシッとボタンを押し、曲を選択する。
少し切ない系の曲が流れ始め、はテンポ良くボタンを押し始めた。
「おぉ〜すげぇぜ〜!」
「こんなんよく出来んな?」
「甘い。あたしはまだまだヘタっぴな方でーす。上手いヤツだとこれの三倍の量こなすよん!」
「うぉ!?マジか?」
「マジマ〜ジ!」
画面から目を離さず、喋りながらパシッパシッと押し続けながらも、確実にスコアは上がっていく。
「男の人のが有利かもよ?」
「なんでだ?」
「手が大きいから!ボタン同時押しの時とか手が大きいと便利っしょ?」
なるほどと典韋が思うと、孫策が「じゃあ俺もやるぜ!」と言い出した。
「うん、じゃあこの次の曲一緒にやろう!」
「何やってんだ?」
と孫策がゲームをしているのを観戦していた典韋へと声をかけたのは、先程趙雲とクレーンゲームをしていた馬超。
続いて趙雲もやって来る。
「いや、何かがコレやってたら伯符も燃えたらしくてな」
たかがゲームに熱くなっている二人を見ながら、ゲーム台を指して典韋が説明する。
「ゲームで盛り上がるなんて二人ともガキだな…」
「ふふ…」
笑った馬超に対して『お前もだろう?』と趙雲が笑う。
「…んだよ?」
「別になんでも?」
そんな二人のやりとりを見た典韋は「何だ?」と聞いたが、「こっちの話しだよ」と笑う趙雲が言うので立ち入らない事にした。
一方、と孫策はボタンをバチッバチッと叩きながら燃え上がっていた。
ゲーセンを出た時には、もう日が暮れかかっていた。
「ね、次はどこ行くの?」
「そうだな…」
「行き当たりばったり?」
「…とも言うな」
次はどこかなと思っていただが、突撃タイプな馬超発案の歓迎パーティの為に次の目的地は決まっていなかった。
「とりあえずカラオケでも行って…メシでも食うか?」
「そうですね」
「賛成〜!!カラオケ〜!」
「久々にぶっ飛ばすぜ!」
「よっしゃ行くか!!」
本当にとりあえず的な馬超の提案だったが皆やけにやる気になったらしく、一同はカラオケ店目指して歩き出した。
五人それぞれがヤケにノリノリでカラオケへ直行しようかと思いきや、思わぬ所で声がかかった。
「ちゃ〜ん!」
「ん?」
「?」
「何だ〜?」
「誰だ?」
「あ、小喬ちゃん!」
上から小喬、馬超、趙雲、孫策、典韋、そしてである。
小喬はこちらへ嬉しそうに駆け寄って来て、の袖をツンツン引いた。
「ちゃんどこ行くの〜?」
「あたし達?これからカラオケだよ」
「へ〜、良いな〜!」
「小喬ちゃんは?」
「私はお姉ちゃんとショッピング!」
ふと小喬の後ろを見やると、彼女と同じぐらいの背丈の少女が立っている。
小喬はその少女を達の前にずずい、と引っ張り出した。
「私のお姉ちゃんで〜す!!」
「きゃっ!?ちょっと…小喬…」
小喬に強制的に達の前に出された少女は、自分に注目が集まったので戸惑っている。
『凄い美人さんだなぁ…』
の第一印象は、それだった。小喬に対しても思ったがその少女も負けていない程美しい。
姉妹でこれでもかと思う程整った顔だちをしているというのは、世の中広しといえど中々ないだろう。
「お?大喬じゃんかよ〜!」
嬉しそうに少女に話し掛けたのは、孫策だ。
「あぁ、大喬か」
「大喬さんだったんですね」
「久しぶりじゃねぇか!」
口々に知り合いだと分かる台詞を吐く男達に、は『おいてけぼりだ、あたし…』と思った。
「、こっちは伯符の彼女の大喬だ。で、小喬の姉でもある。ちなみに二学年だ」
一人状況が読めなかったの心中を察したのか、馬超が教えてくれた。
「あぁ、じゃあ無双学園の人なんだ?」
も理解出来たらしく、大喬と呼ばれる少女へと視線を向けた。
「は…初めまして。大喬と言います」
そう言って差し出された大喬の手を、は俯き少し恥ずかしそうに握った。
「あたしは、よろしく…」
自分達と挨拶した時とは全然違った反応を見せたに、馬超が目敏く反応する。
「どうした、顔赤いぞ?」
「え!?ウソ?」
それに反応してぱっと顔を上げるは、本当にほんのりと赤かった。
「本当に顔が赤いですよ、さん」
「お〜、赤いぜ〜!」
「何赤くなってんだぁ?」
「ちゃん赤い〜!」
口々に真っ赤発言をされて、ますますは赤くなった。
「どうしたんだ?」
見兼ねた馬超が訪ねると、はまた俯いて頬に手を当てた。
「なんか恥ずかしくて…」
「「えっ?」」
その言葉に一斉に皆が反応する。
「…さん…まさか」
「マジか〜?」
「お前…そっちの気があったのか!?」
「うそ〜!?ちゃん、キャー!!」
「え、え?ち、違うよ!話し聞いてよちょっと!」
話がどんどん飛躍し勝手に盛り上がり始める仲間に慌てたに、馬超が問う。
「…お前もしかして…女友達あんまいないのか?」
「え、うん…。よくわかったね馬っチ?」
助け舟を出してくれた馬超に、はホッとした様に顔を上げた。
「なんだよ〜違ったのかよ〜」
「な〜んだ〜」
つまらなさそうな孫策・小喬を無視して、馬超はの頭を撫でる。
「…なんとなくな」
ポツリと呟いた彼の言葉はにしか聞こえなかった。
「馬君とちゃんって仲良いよね〜!」
その二人の様子を見ていた小喬が、手をぶんぶん振って楽しそうに跳ねた。
小喬の一言で話はと馬超の事になったらしく、外野がまた騒ぎ始める。
「もしかして入学初日なのに、出来ちゃったの〜?」
「「はぁ!?」」
と馬超の声が重なり、ふいに辺りはしんと静まり返った。
「本当に…良いコンビですね」
「息もピッタリだぜ!」
「夫婦漫才組めるんじゃねぇか?」
「ちゃんお似合いだよ〜!」
「小喬ったら!あまり騒ぎ立てちゃ失礼よ」
唯一まともに小喬をしかりつけた大喬だったが、その行為も空しくどんどんと皆の勢いは加速していった。
「だー!!!うるさい!!」
その空気を打ち消すように、馬超が怒鳴った。
「いいからカラオケ行くぞ!!」
「え、ちょ…馬っチ!?」
戸惑うの手をぐいぐい引っ張り、馬超はずかずか歩き始めた。
「あいつがムキになるなんてめずらしいな〜?」
馬超の背を見ながら、孫策が呟いた。
「…いや、孟起は違う所で意地を張っているよ」
趙雲の意味深な発言に一同は首をひねったが、今この場にその理由が分かる者などいなかった。
「さぁ、孟起達を追おう。では大喬さん小喬さん、また明日」
そう言うと趙雲はにこりと笑って馬超の後を追いかけた。
「ん。じゃあわしらも行くか!」
「そ〜だな。じゃあ大喬小喬、また学校でな〜!」
「はい、策さまも典さんも。また明日」
「バイバ〜イ!!」
残っていた孫策と典韋も趙雲の後を追いかけ走って行った。
大喬、小喬はその背を見送った。
「それじゃショッピング再開だね〜!お姉ちゃん」
「えぇ…そうね。……」
しかし大喬はいつまでたっても小さくなっていく孫策の背から視線を外さない。
「どうしたのお姉ちゃん?」
そんな姉の様子に少し心配そうに小喬が聞くが、大喬は無理に笑顔を作り首を振った。
「ううん、なんでもないわ。行きましょう、小喬」
「わ〜い!ショッピング〜!!」
「小喬ったら、はしゃぎ過ぎよ」
嬉しそうな小喬から再び孫策達が歩いて行った方へと目をやるが、もう姿は見えなかった。
大喬は少し名残り惜しそうに、達とは反対方向へと歩いて行った。