[決闘 in 桃の間2]
「でも本当、何所に行ったのかしらね?」
「ね〜?」
「…………………くすん」
美少女二人が顔を見合わせる中、美青年姜維は、変わらず『パシリ』という言葉に対して、落ち込みは増していた。
と、そこへ。
「そこを退けーーーーーーーー!!!!!!!」
「ど、退かぬか凡愚共ーーーー!!!!!!!」
「えっ?」
「なに〜?」
「な、何でしょう?」
何所からか声がして、思わず3人で顔を見合わせる。
一体何所から声が!?
すると、「退け!」とか「退かぬか!」という声は、どんどん近くなる。
ふと、姜維が空を見上げると。
天から舞い降りる、天女でも天使でもない、二つの影。
「あ、あれは!?」
「なにアレ〜!?」
「やだ、こっち来るわよ!?避けないと!!」
最後の尚香の言葉に、三者三様に飛び退る。
その直後。
チュドーーーーーーーーーーン!
空から舞い降りた二つの『何か』は、丁度三人が立って話をしていた場所に、見事に突っ込んで来た。
もくもくと煙りが上がる。
それを見て、各々一言。
「避けていなかったら、私達に命中していましたね………」
「わ〜☆凄い煙りだね〜!」
「あ、危なかったわ………」
三人で『ホッと一息』も束の間、見事な着陸劇を披露してくれた『二つの何か』は、同時にガバッと立ち上がった。
それは、人。
というか、何か喋っている時点で人間なのだが、姜維・小喬・尚香の三人は突然の異物落下に混乱していたのか、ようやっとそれが人である事に気付いた。
「人!?」
「うっそ〜!?」
「マジでー!?」
各々『何を今さら』な驚きを表していると。
「貴っ…………………様ぁ!!!貴様の所為で、こんな所まで飛ばされてしまったではないか!!!」
「何を言うか!!?その貴様の『単細胞の所為』と言う方が、全てに決着が付くであろう!!!」
落ちて来た呂布・司馬懿の二人は、起き上がると同時に互いを罵り合った。
それも低レベルな『お前の所為で、俺まで巻き添え食らった』というもの。
それに、若干司馬懿の言う事がおかしい気がする。
だが呂布自身が、本当に『単細胞』なのか、それに関しての突っ込みはスルーされた。
そしてそして。
それを一通り見て居た、キャハッ☆部隊+パシリ君は。
「あー!!この人達、夏侯淵軍の人達だよーーーー!!」
「えぇっ!?」
「マジーー!?」
話し方からして、若いと分かる。
そして、その三人の声にようやっと我に帰ったのか、呂布と司馬懿の二人が彼等の方を向いた。
「む?」
「もしやここは………そうかそうか」
誰だお前等、みたいな顔で三人を見つめる呂布に、ここが軍本陣である『桃の間』と分かったのか、ほくそ笑む司馬懿。
だが待てよ?と司馬懿が辺りを見回す。
確か、軍の本陣は『桃の間』で合っていたはずだ。
しかし、ここにはが居ない。
彼自身、体育の授業や新入生歓迎会で顔を合わせていた為、『』という女性の顔は覚えている。
だがしかし。
「……………何故、本陣に大将がおらぬ?」
「えーっと………」
司馬懿の問いに反応したのは、諸葛亮の愛弟子姜維。
彼は司馬懿の鋭い眼光に『なんて言おう』と困ったが、取りあえずあるがままを話す事にした。
「…………というワケなんです」
「ふむ、そうか」
かくかくしかじか、と話し終えると、司馬懿は口元に黒羽扇を当てて、思案顔になる。
ふと、姜維を見て問うた。
「では、貴様等もの居所は知らぬ、と言うのだな?」
「はい………申し訳ないのですが…………」
「そうか」
敵軍師に何謝ってんだよ!と、突っ込む人間が居ないのは、恐らく、この場にマトモと言える人間が居ないからに違いない。多分。
「大将が居ないとなれば…………」
「おい」
「…………また貴様か」
思案する司馬懿に、呂布が声をかけた。
それをウザったそうに一瞥くれながらも、司馬懿はため息つきつき、肩を落とす。
「呂布………とか言ったな。一体何なのだ」
「俺は、こいつらと戦うぞ」
「…………………」
その言葉に返答を返す事はないが、司馬懿は呂布から視線を外し、若人三人衆を見る。
そして思った。
確かに、今この三人をやっておくに越した事はないな、と。
幸い、あの憎っくき諸葛亮の弟子もいる。
あやつに一泡吹かせるには、絶好の機会。
そう考えた司馬懿さん24才は、ニヤリと無気味に笑った。
そして、それは次第に、大爆笑に変わる。
「ふふ………ふはははははははははは!!確かに!!ネズミ三匹とて、群がれば一大事!!今こやつらを叩いておけば、我が軍の勝利が近付くであろうな!!」
「え?ネズミ………ですか?」
「なにソレ〜!!!」
「失礼極まりないわ!!」
言われた方(女性陣)は、その台詞にかなり御立腹だ。
いつの間にか、懐からは愛用の武器が取り出されている。
唯一余り気にしなかった姜維だけが、丸腰だった。
しかし「あんたも武器出しなさいよ!」との尚香の一喝により、あわあわしながら槍を取り出す。
呂布は当然とばかりに戟を構え、司馬懿も自慢の黒羽扇を手に、不敵に笑う。
この大将の居ない『桃の間』で、今正に死闘が始まろうとしていた。