[決闘 〜in 売店〜]
「あー、あー。マイク、本当に入っているのだろうか?」
「ふぅ…………入っているのではなくて?」
「では周先生!!美しく廊下に出て、マイクが作動しているかどうか、確かめに参りましょう!!」
「ちょっ………スイッチが入っているのですから、生徒達には聞こえているはず……………」
『家庭科室』と『桃の間』で、生徒達が死闘を繰り広げている校内に、何とも賑やかな先生達の声がマイクを通して響く。
上から劉備先生、甄姫先生、張コウ先生、そして最後は言わずもがな、周瑜先生である。
何となく、最後に「ぐはっ!?」という不穏な、何かを吐く音が聞こえた気がするが、穏やかな陽気の見せた幻だという事にしておく。
どうやら劉備先生は、冒頭の台詞からでも分かるように、本当に自分達の声が全校に行き渡っているのか、不安になったようだ。
それを甄姫先生が『多分大丈夫』と適当に相槌を打ち、放送室のド真ん中を占領してクルクルと舞っていた張コウ先生が、『実況中継を美しく彩る者同士!』と、赤い塊を口から飛び出させる周瑜先生を無理矢理引きずって、廊下へと誘ったのだ。
すると、張コウ先生達とは入れ違いに、コンコンと放送室の扉が叩かれる。
立ち上がろうとする劉備先生を「学園長は座っていて下さい」と手で制し、甄姫先生が扉を開けた。
そこには。
「もう始まっているようだが………」
「兄者!!遅くなった!!」
「ふむ。放送室には監視キャメラも置いてあるのですな」
甄姫先生に促されて入って来たのは、孫一家のパパである孫堅と、劉備先生命の張飛。
そして、カメラをキャメラ、と古風つーかもう50年ぐらい前の呼び方で関心する、曹仁。
彼等を見て、劉備先生は「確かそなた達は観戦者キボンヌだったな」と、笑顔で迎え入れた。
だがすぐに、劉備先生に対して甄姫先生から容赦のない突っ込みが入る。
「劉先生………『キボンヌ』とはどういう意味なのでしょう?」
「あぁ失礼した。キボンヌというのは、『希望』という解釈が出来る」
「2チャンかよ兄者!」
希望→キボンヌという発展の仕方に、眉を寄せ首を傾げる甄姫先生。
というか、彼女は純粋に、『劉玄徳のキャラじゃない』と思った。
対する劉備先生は、ナイスに突っ込んだ張飛に「あそこは色々と意見が書かれていて、勉強になる」と癒しスマイル。
その笑顔に騙される甄姫先生ではないのだが、本音『もうなんかどうでもいいや』と思ってしまった。
観戦者達を監視キャメラ(←曹仁的に)の前に座らせ、劉備先生は「あーあー。本当に入っているのだろうか?」とか言いながらも、解説を再開した。
『あー。私は劉玄徳だ。実は、声が本当に皆に聞こえているか心配だったのだが……』
『劉先生、前置きが長いですわ……』
『おぉ!申し訳ない…………では、解説を再開したいと思う。皆の者、この不祥劉玄徳、解説者としては足りない所もあるかもしれないが、そこは………』
『……………………長いですわ』
「……………何なんだ?」
「放送室は賑やかですね」
「つーか、ある意味波乱の予感じゃね?」
劉備先生と甄姫先生のボケ突っ込みを聞きながら、そう会話していたのは、本陣を開けてどっかに行ってしまったはずの、馬超・趙雲・。
実は、の「ポテチ食べた〜い!」という我が侭が、姜維がアクエ○アスを買いに行った後に発動したのだ。
最初は「デブるぞ」「我慢しなさい」と却下されたが、は「なら一人で買いに行くからいいもんね」と、譲らなかったのである。
故に、元々に弱い男性陣二人は、『一人じゃ危ないだろう!』と、結局付いて来たのである。
ポテチを買うべく、3人は売店へと向かっていた。
と、更に放送室は賑やかになったのか、ギャーギャーと五月蝿い。
耳を傾けて聞いてみると。
『おぉ!!こ、これは!!!??』
『始まりましたわね。場所はどうやら………桃の間ですわ』
『あれは確か………最近1学年に転入して来たという………』
『あ?知ってんのか?あいつ、呂ってんだよ』
『ふむ、成る程。隣に居るのは………司馬殿ですな?』
どうやら、遼来々バトルを先駆けに、更にどこかで始まったらしい。
劉備先生が驚き、甄姫先生がクスリと笑い、何故か観戦者である孫堅・張飛・曹仁らの声までも、マイクを通して聞こえて来る。
「呂と………」
「司馬殿……………ですか」
「え、何ナニ?」
『呂布と司馬懿』と聞いて、馬趙コンビがピクリと眉を引き攣らせる。
それにが「どしたのー?」と呑気に聞いているが。
今、馬趙コンビが気になるのは、呂布と司馬懿という組み合わせではない。
『あいつらと戦闘始めるのは、誰だ?』
この疑問に尽きた。
そして、その二人の心の声を『お見通しですよー』とでも言うように、劉備先生達が、チームの対戦者名を上げる。
『ふむ………呂と司馬に対するは……………』
『姜君と………小喬さんに………』
『なにっ!?尚香だとぉ!?!?』
『おめぇ、いきなりテンション上がり過ぎだろ!!』
『これは中々見られない、好カァド対戦ですな』
上から劉備先生・甄姫先生・娘の参戦にハイテンションになった孫堅・突っ込む事を忘れない張飛・そして何もかもが古風な、曹仁。
だが、今は『カァド』という言い方など、どうでもいい。
そんな事よりも、呂布と司馬懿と対戦する仲間の名を聞いて、ならず馬趙コンビまでもが目を見開いた。
「伯約と………」
「小喬と………」
「尚香さん……」
「「「ヤバイって!!」」」
どうしようもなくハモった。
三人同時に。
は『図体デカいのと馬鹿笑い大好きな奴等とやるの?大変そー』的な意味合いだが、生憎近衛兵である男二人は全然違う。
どちらかと言えば、『あ、無理だわ。つーか勝てねぇだろ』的な意味合い。
そんな事を知る由もない人間は沢山いるワケで、その中の一人に分類されるであろう孫堅の「はっはっは!尚香頑張れよ!」という、何とも楽天的な言葉が校内に響く。
それに内心『いやあんた、娘の命欲しくないのか?』と思いつつ、馬超と趙雲の二人は「助けに行くぞ」とも言う事なく(下手に関われば、に怪我をさせてしまう可能性がある為)、「とっとと売店行くぞ」と、何事もなかったように歩き出した。
も「まぁなるようになるっしょ」と、危機感ならぬ楽観的思考で、彼等の後を追った。
暫く。
呑気にも程がある程、達はペラペラと喋りながら楽しそうに売店へと向かう。
だが、すぐそこの角を曲がれば目的地………という時に、それは起こった。
ドスッドスッドスッドス!
………………………。
「?」
「??」
「???」
奇怪な………何か重い物…………言うなれば、『重い人間』が複数で走るような鈍いような音が、角の先から響いた。
あまりに突然だった為、達は互いに顔を見合わせて、首を傾げる。
しかし、その疑問はすぐに解決される事になる。
「年寄りと舐めるでないわーーー!!」
「まぁまぁ、そう熱くなっちゃ〜いけないねぇ」
「わしは大王だ!!大王なんだぞ!!」
「死刑じゃーーー!!」
と、耳を疑いたくなるような、会話の不成立さが角の先から聞こえる。
何事か!?と、・馬超・趙雲の3人は、身長順に壁からチラリと除き見た。
そして、その先に広がる光景に唖然とする。
どうやら、自軍のホウ統と黄忠が、敵軍である孟獲と董卓とハチ合ったようだ。
両者出会い頭だったようで、各々名乗りっぽい事をしていたらしい。
余りの会話のキャッチボールだが、どうやら両者共通じたらしい。
気付かれぬように見守ろうとしているに、馬超が「これはポテチは無理だな、諦めろ」と言った。
「えー!?まだ始まってないから、大丈夫でしょー?」
「馬鹿は休み休み言え。大将であるお前が出て行ったら、まず狙われるぞ」
「私も孟起の意見に賛成です。さぁ、戻りましょう」
「でも、桃の間で戦闘開始しちゃったんでしょー!だったら……」
「なら場所を移動すれば良いだけだろう」
「何処か穴場はないですかね………?」
「あたしのポテチーーー!!」
「ばっ!?デカい声出すな!気付かれる」
「そこがの素晴らしい所でもあるのですがね」
二人に説得されて、泣く泣く売店を後にする。
趙雲の言葉が、若干おかしかった気がするが、そこは今は無視しても問題ない、多分。
最後にチラッと見た先では、売店のおばちゃんが「頑張りなよ!」と黄忠達に声援を送っている。
というか、売店のおばちゃんも目の前で戦闘される事に、違和感を感じて欲しい。
は切実に、そう思わざるを得なかった。