[決闘 〜in 理科室&屋上〜]






が泣く泣くポテチを諦めてすぐの事だった。

馬超と趙雲は、諦め切れないのか「せめてサンドイッチだけでも……」と渋る彼女の肩を叩き、これからの新しい本陣の場所をどうするか、と歩きながら考えていた。

そこへ、またもや劉備先生達の声が木霊する。



『な、なんと!?』

『まぁ!これはこれは………』

『なんと美しくない!!』

『解説をする気はないのですか、貴方方は!!!』



という「何が言いたいんだよ」と突っ込み所満載の解説。

唯一最後の周瑜先生の言葉だけが、その放送を聞く生徒達からは指示があった。



『今度は理科室ですな』

『おぉ!!こりゃ凄ぇバトルんなりそうだぜ!』

『ほぉ。興覇と子義に、典と許を当てるか。これは見物だな!』



曹仁・張飛・孫堅の観戦組の解説により、ようやく誰と誰が対戦するのかが分かった。

軍の甘寧・太史慈vs夏侯淵軍の典韋・許チョの『オラオラバトル』である。

それを聞いて、趙雲がふむと首を捻った。



「どうした子龍?」

「いや、少し気掛かりな事が……」

「何が気掛かりなの?」



馬超に便乗するように、も彼の袖を引っ張りながら見上げる。

それに内心『可愛いな』と思いつつも、今不安に思っている事を述べた。



「子義殿は特に心配はしていないのだが………」

「あぁ、興覇か」

「興覇がどうしたの?」



そう言って馬超までも思案顔になってしまい、何も知らないは「何であたしだけ……」と拗ね始めてしまう。


馬超と趙雲の心配事は、内装にあった。

この学園は外見からは分からないが、内装にはかなり金がかけられている。

それはも入学した時から『金掛け過ぎだろ』と感じていたが。



では何故、二人が内装を心配するのか。

それは想像するに容易いが、簡単に言うと『あの滾り男(甘寧)と重量武器系(典韋・許チョ)が戦えば、内装修理代で凄い事になるかもしれない』という事。



別に壊すのは馬超達ではないし、宣誓でも「なるべく壊さないように」と微妙なものだったから、「乱舞したら壊れちゃいましたー」とでも言えば、お人好しの劉備先生の事だから「あぁ気にするな、また修理すれば良い」とでも言って許してくれるはず。



しかし。



あいつらが戦えば、下手をすると内装所か窓ガラスや壁も、跡形もなく吹き飛ぶかもしれない。

そう思ったので、二人は『ちょっとヤベェんじゃねぇのー?』と考えたのだ。



だが、先生達の『おぉ!甘も太史も中々やるな!』『典や許も中々ですわ』『美しい〜☆』『張先生!いい加減に……グハッ!?』という「もうバトり始めましたよ」を匂わせる言葉により、「まぁいっか」と考え直した。



ふと、が言った。



「ねぇねぇ二人とも」

「どうした?」

、どうかしましたか?」

「興覇達の戦い、見てみたい」

「却下」

「無理です」



彼女の提案を、二人はにべもなく切り捨てる。

それにムクれたは、下唇を突き出しながら「ケチ男!」と拗ねてしまった。



「お前最近、我侭だな」

「それがの可愛らしい所ですが」

「馬鹿、もういい……」

「いい加減口癖だな」

「ふふ、それもの長所です」

「何なの!?子龍兄あたしの味方って言ってたじゃんよー!」

「馬鹿、子龍は俺の味方に決まってるだろ?」

「ふふ……私はいつでもの味方ですよ?」

「じゃあ一緒に馬ッチ負かしてよね!」

「何で俺が矛先になるんだ!?」

「分かりました…………では孟起、覚悟は宜しいですね?」

「やったれ子龍兄ー!」



いちいちを構わずにはいられないのか、『兄』と自称する男二人は彼女の頭を撫でながらも、そんなやり取りを楽しんでいた。










そんな頃。



甘寧・太史慈vs典韋・許チョが理科室でバトっている間に、今回の目玉商品とも言える奴等が顔を合わせようとしていた。

言わずもがな、陸遜部隊である。



正軍師である陸遜は、のキレっぷりにホレボレして自身もちょっとキレかけていたが、途中、呂蒙の愛のある説得でなんとか正常値まで戻る事が出来た。

なので今の彼は、通常の状態。



二人は、屋上付近に居た。

しかも陸遜の「敵に見つからないように」という言葉により、校舎の外壁を伝って。

だが、小柄で身軽な彼ならば容易いだろうが、呂蒙にとってはそうはいかない。

しかしここでこの少年に逆らうは、身の破滅を招くだろうと考えて、呂蒙は従う事にした。



「というかなぁ陸遜………」

「何でしょうか、呂蒙殿?」

「いや、なんでもない……」



先頭を行く少年に声をかけるが、振り返ったその顔を見て先を言うのを止めた。

天使のような微笑みの中、目が笑っていなかったから。

なので賢い彼は、目を逸らしてそう答えた。



が。



「ん?」

「?どうしました?」

「あれは………」

「!?………………………あの野郎!!」



逸らした視界に新たに入って来た人物を見て、呂蒙は背筋が凍った。

そして、思わず「ん?」と声にしてしまった事を後悔する事になる。

当たり前の事で、陸遜が彼の視線を追い、屋上渡り廊下を優々と歩く人陰に釘付けになった。

そして思わず、『陸遜』というキャラではない言葉遣いになってしまう。



視線の先には、今陸遜にとって「会いたくて会いたくて」な男。

食前酒やら前菜をスッ飛ばして、いきなりメインディッシュな予感、曹操。



彼を見たと同時に、陸遜は一人ほくそ笑む。

その極上の微笑みを真隣で見ていた呂蒙は、涙目で膝をガクガクと震わせた。

陸遜は言った。



「これはこれは…………飛んで火に入るなんとやら……………ですね」

「り、陸遜、落ち着け!!」

「何を言うのですか呂蒙殿。私はいつでも落ち着いていますよ?」

「ここはどうか穏便に!頼む!」

「ふっ」



壁伝いで、少しでも足を踏み外せば三途の川が見えるであろう事になるこの場所で、呂蒙は器用にも両手を合わせながら自分よりもいくつも年下の少年に頼み込む。

しかし何よりも炎を好むはずの彼が、それを「はいそうですね」とは言うはずもなく。

陸遜はそんな呂蒙の必死の説得を、情けないですねと言わんばかりに鼻で笑った。



ちなみに、曹操率いる関羽と大喬は、普通に屋上渡り廊下を歩いている。

要するに、どこかの忍者のように外壁を伝っている陸遜達は、彼等の視界に全く入らないのだ。

気配も消しているし、準備万端だった。



これは好機!と早速、いそいそと先程たっぷりと油を注ぎ込まれた矢筒に手をかける炎の妖精、サラマンダー伯言。

それを見た呂蒙さんは、涙目で哀願しながら頼み込む。



「た、頼む陸遜!ここはどうかホント穏便に………………グァ!?」

「さっきからいちいち五月蝿いんですよ、あなたは」



何とか校内放火を止めようとするも、呂蒙は陸遜の肘鉄をモロに鼻に食らった。

自然の摂理という言葉が似合うのか、彼の鼻からはコントみたいに鼻血がブーした。

陸遜はそれをウザったそうに一瞥し、楽しそうに矢を弓につがえる。



「そ、それにな陸遜。大喬殿もいるワケだしな……………ヘブッ!?」

「いい加減に黙って頂けないのなら、私にも考えがありますよ、呂蒙殿?クスッ!」



大喬の事など目に入っていないのか、今度は取り出した双剣の片方の柄で、呂蒙の眉間に一発入れる。

不吉な事を言いながら警告をし、何か悪戯を楽しむ子供のような無邪気な顔で。

そして、「あぁそうでした」と言ったかと思うとおもむろに愛用のジッポを取り出し、油の塗りたくられた先端部分に火を付けたかと思うと、燃やしつくせとばかりにとうとう矢を放った。



ヒュンッ!と風を切る音がし、矢は真直ぐに敵に向かって行く。

狙いは「殺す気か!?」と思わせる程正確で、曹操の背中に突き刺さ…………。



「殺気!?チェストォーーーー!!!」

「うぬぅ!?何奴!?」

「えっ?どうしたんですか?」



るはずがなくて、途端に危険を察知した関羽の薙刀により、払い落とされた。

その声に曹操が振り返り、人質大喬(手を縛られている)がキョトンとした顔で辺りを見回している。

それにチッと舌打ちをして、陸遜は「見つかってしまいましたね!」と天使の微笑みを呂蒙に向けた。

しかし呂蒙は絶対に、彼の笑顔に騙される事はなかった。



「お主は…………!!」

「貴様は確か、軍の…………」

「陸さん!」



関羽・曹操・大喬の順で声が上がる。

それに「こうなったら正攻法で戦うしかないですね、面倒臭いです」とブチブチ言いながら、陸遜はトウッ!と高らかにジャンプして渡り廊下に飛び下りた。

それを真似て呂蒙が「もう嫌だ……」とか言いながら飛んだ事は、穏やかな風にかき消される事になる。



「背後を狙うとは、何と卑劣な………!!」

「関殿…………でしたね。私の標的はあなたではありません」

「なんと!?拙者をないがしろに致すか!!」

「言っておきますが、私のターゲットは………」



顔を合わせた途端に激怒を露にした関羽に、陸遜は淡々と返す。

そして、小さく微笑したかと思うと、すぅっと指を曹操に突き付けた。



「……………わしか?」

「クスッ、当たり前じゃないですか?」

「貴様には恨みを抱かれる覚えは………」

「覚悟!!!」

「ウソォ!?」



自慢のチョビ髭を擦りながら曹操が問うと、陸遜はクスクスと笑いながら返す。

曹操がそれに納得行かない、という顔も虚しく、問答無用とばかりに陸遜が矢を(至近距離)放った。

その余りの素早さに、彼らしくもない台詞を吐いて、曹操は目を見開く。

しかしその素早さ自慢の攻撃も、関羽の薙刀によって払われてしまう。



「関殿…………?」

「曹殿を打たせるワケには参らん!」

「この私の邪魔をするとどうなるか……………お分かりですね?」

「関殿!やめておいた方が……………ンボッ!?」

「だから逐一しゃしゃり出ないで頂けますか、呂蒙殿?私は関殿と話をしているのです」



クスリと笑って警告する陸遜の横から、呂蒙の『やめた方が身の為ですから!』という忠告が入るも、またも眉間に一発もらって撃沈する。

それにやはり一瞥くれながらも、陸遜の笑顔は爽やかだ。



関羽はそれに内心『10代は恐いもの知らずなり』と思いつつ冷や汗をかいたが、それをおくびにも出す事はなく、愛用の武器を構えた。

曹操は「やってしまえぃ!」と声援を送る体勢で、大喬は手を縛られている(曹操趣味)為にオロオロしている。

呂蒙は先程の通り仲間によるKOの為、始まる前から戦線離脱。



よって、陸遜・呂蒙(気絶)vs曹操・関羽・大喬の一戦が、ここに始まろうとしていた。

ヒュルリ、と吹き抜ける風が、呂蒙の血濡れの額を乾かし始めていた。