[決闘〜各個撃破で宜しく!2〜]
「呂布めぇ〜〜!!寝返りおったのか!!!」
この放送に怒気を表したのは、他でもない董卓その人だった。
彼は呂布が転校して来た次の日、ガキ大将宜しく子分にするべく、試行錯誤の末ようやっと最近それを果たしたばかりだったのだ。
それを、尚香の『貂蝉の恩人になって、株を上げたら?』作戦に乗せられて、簡単に裏切られた。
董卓本人は、呂布→愛→貂蝉という事実を知らなかった。
では何故、尚香が知っていたのかと言うと…………。
簡単な話。
呂布は大喬とコイバナした日以来、よく彼女の元を訪れるようになっていた。
『もっと貂蝉先輩の事が知りたい』『どうしたら振り向いてもらえるのか?』『好みのタイプは?』と言った具合に。
ぶっちゃけ、大喬は貂蝉と仲が良く、女同士でコイバナしたりもしていたが、如何せん貂蝉の理想はとんでもなく高かった。
ちなみに、大喬の中の『貂蝉の理想』と『呂布像』の比較は………。
・背が高い →○
・男らしい →○
・武芸が得意→○
・紳士 →×
・言葉遣い →×
・美形 →×
・笑顔が素敵→×
・経済力有り→×
・大人な人 →×
貂蝉の理想は他にも沢山あるのだが、どう見ても考えても×の比率が多い。
だから心優しい大喬は「頑張れば、大丈夫な…………はずです」としか言えなかった。
というか、今はそんな話ではなくて。
何故、尚香が『呂布の好きな人を知っているのか?』だ。
毎日2学年の教室に押し掛けられ、『貂蝉先輩inコイバナ』をされていた大喬。
流石にそれも続き過ぎると、気の長い彼女でも参って来る。
それに授業の合間ならまだしも、放課後まで捕縛されては、彼氏である孫策とデートも出来やしない。
だからある日、『どうすれば良いのだろう?』と尚香に相談したのだ。
尚香はそれを、ふんふんと聞いていただけで、最後に「ウザいって言ってやんなさいよー」と言っただけだったが……。
なので尚香は、呂布の好きな人が貂蝉だという事を知っていた。
……………………と、そういう事である。
しかし、董卓がそのような背景を知るはずもなく、ただただ怒り狂っていた。
「うぉのるぇえ〜〜〜呂布めぇ〜〜〜!!」
「隙だらけだよぉ〜!」
「ぐぉはっ!?」
と、怒り狂う董卓に、軍の副軍師であるホウ統の乱舞が決まる。
哀れ、董卓は怒りの真只中で、竜巻きに飲まれクルクルと踊った。
「目が!!目が回るーーーーーー!!」
「まだまだこれからだよぉ〜?」
まだまだ序の口らしく、ホウ統の無双ゲージには余裕があるようだ。
そして、やっと彼の乱舞が終了し、着地しようと思いきや…………。
「お受けなさい!!」
「なっ!?貂蝉!!!!」
何所からか乱入してきた貂蝉が、着地しようとしていた董卓を襲った。
その舞を思わせるケリ・ケリ!・ケリ!!な乱舞は、彼の顔や腹で容赦なくコンボを刻む。
良い感じでウォーミングアップした貂蝉乱舞は、董卓が鼻血を吹いたところで終わった。
「ちょ、貂蝉…………何故じゃ!?」
「董様、あなたがキモいからです」
「んな!?」
ガーン!と効果音が付くぐらい、董卓はショックを受けてしまう。
人は、肉体的ダメージよりも、精神的ダメージの方が来る。
『病は気から』という辺り、昔の人は中々鋭い。
だが貂蝉はそれに同情する事もなく、冷たく言い放った。
「前々から私に付きまとって…………董様、本当にウザいのです!キモいのです!!」
「ぐぁっ!?」
『キモイのです!』の辺りで、それまでのストレスを発散させるように、貂蝉は董卓の顎を思いきり蹴り上げた。
董卓は華奢な女性に蹴り上げられたのにも関わらず、派手に浮き上がる。
それは、董卓がヘチョイからではない。
この無双学園の女性陣は、ある意味凶器とも言える。
先程の尚香・小喬も、またしかり。
一般的に美女・美少女と呼ばれる、彼女達。
美しい者は笑っても絵になるが、怒っても絵になる。
そして乱舞をするのも。
そんな感じで華麗に決まった蹴りに、更に予想もしなかった者の追撃が起こった。
「カスが!!!!!!!」
「なにぃグォアッ!?」
その者の名は、呂奉先。
上手い具合に尚香に洗脳された彼は、真っ先に売店に飛んで来たのだ。
憧れの貂蝉先輩を助ける為。
己の株を上げる為。
最強ヤロ〜の一撃を食らった董卓は、そのままKOした。
余りにも登場が早過ぎると思うが、それは貂蝉先輩の愛と、彼の足がもたらした奇跡だろう。
そしていきなりの参戦に、ホウ統と黄忠が歓声を上げる。
「ほぉ〜!!これは中々………」
「やるねぇ〜!」
「ふん、これぐらいは朝飯前だ」
ホウ統と黄忠に褒められてちょっと嬉しそうになりつつも、顔はいつもの仏頂面で答える呂布。
それに「この調子で頼むよぉ〜?」「わしもまだまだ負けられんわい!」と持ち上げる二人を割って、呂布の前に憧れのあの人が。
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょ…………!!」
「?どうしましたか?」
「ちょちょちょちょちょ…………貂蝉先輩!!」
「はい?」
貂蝉自身は董卓の息の根を止めたのか確認する為、更に呂布を通り越して彼の元を目指していた。
しかし、ファン兼『彼氏の座を狙いたい!』と考える呂布は、どうやらそんな事は思い付かないらしい。
すると、董卓の息を確認した貂蝉は、呂布の元へ戻り言った。
「あなた…………お名前は?」
「りょ、りょりょりょりょりょりょりょ」
「大丈夫ですか?」
「だだだだっだだだだ大丈夫です!!」
ドモり過ぎな彼を上目遣いに見る貂蝉は、素でやっている事とは言え、かなり魅力的だ。
そんな至近距離の誘惑に、純情呂布が耐えられるはずもなく…………。
「ちょ、貂蝉先輩!!!」
「何でしょうか?」
「お、俺と……………」
「?」
「俺と付き合って下さい!!!!!!!」
「分かりました」
……………………………。
……………………………。
……………………………。
……………………………。
……………………………。
ナにぃーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!???!!!!?????
「わしぁとうとう、耳までおかしくなってしまったかのぉ?」
「あっしはちょこちょこ、耳掃除してるんだけどねぇ〜?」
「良いの!?これってアリなの!!!??」
黄忠から始まって、ホウ統も首を傾げる。
ちなみに、最後は今まで忘れ去られていた孟獲だ。
全くキャラが違う。
対して知りもしない男と付き合う!?
…………………………………………………ありえねぇ。
余りにもありえなさ過ぎて、三人は呂布と貂蝉を黙って見つめる。
呂布はあっさりとし過ぎる彼女を、目をまん丸くして見つめていた。
すると、貂蝉は言った。
「あなたと私は共に戦い、見事董卓を討ち果たしました………」
「は、はい…………」
「あなたは、こんな私の為に………………」
ポッと効果音がつきそうな感じで、貂蝉は頬に手を当てる。
どうやら、自分の為に戦ってくれた呂布に、好感触。
それと先程の『男らしさ』に、釘付けになってしまったようだ。
「ちょ、貂蝉先輩……………」
「どうか貂蝉とお呼び下さい…………………奉先様…………」
「ちょ………ちょちょちょちょちょちょっつぉ……………貂蝉…………」
「奉先様……………」
やってられない。
本当に。
抱き合う二人に、ホウ統は「良かったねぇ〜!」と手をパチパチ叩いているし、黄忠は「若いのぅ!」と嬉しそうだ。
多分、二人が結婚の暁には、この二人のどちらかが仲人をするのだろう。
そして取り残されたのは、孟獲。
彼は一つため息を付くと「やってられっか!」とヤサぐれて、頭をボリボリかきながら、放送室へと足を向けた。
リタイアをする為に。
そしてこの日、決闘編と称される真只中、一組のカポーが誕生した。
馴れ初めは「学校で戦争してる合間に、ホレちゃった!」だろう。
こうして無双学園には、また新たな伝説が残る事になった。
放送室からは『軍の呂布・夏侯淵軍貂蝉が出来ちゃったりぃ〜!』との、劉備先生の嬉しそうな声。
そして各戦闘ステージからは、「頑張れよ!」「おめでと〜!」「お幸せに!」という声が響いたそうな。