[歓迎パーティー・3]
「あ、ここにしようよ!あたしここの会員だから安くなるよ!」
馬超に引きずられながらが指差したのは、雰囲気も良く歌って飲めるカラオケ店、シダ○クス。
はつい最近会員になったばかりだったが、安めで手頃なお値段が気に入っていた。
「おう、入るぞ」
「ちょっと馬っチ…」
「何だ?」
「手首…痛いんだけど…」
見るとまだ馬超はの手をつかんだままだった。先程引きずり歩いていた為に、少し赤くなってしまっている。
「!?あぁ、すまん!」
慌てた馬超が手を離すと、は掴まれていた手首をパタパタ振りながら唇を尖らせた。
「バカ力〜!」
「すまん!そんな強く掴んだつもりはなかったのだが…」
「さん、大丈夫ですか?」
「あ、趙さん。平気ですよ〜!」
趙雲に心配された途端に嬉しそうに笑うに、馬超は少しムカついた。
先程の『、レズ疑惑』からも救いの手を差し伸べてやったのは自分なのに。
「おい」
「え?な、何?」
少し怒りの篭った声で自分を呼ぶ馬超の声には、さすがに少しビビった。
振り返ると、馬超が冷たい目で自分を見ていた。
「な…なんなの?」
おそるおそるだが、意味が分からず自分を睨みつける馬超に問う。
「その俺と子龍の態度の違いは何だ?」
その質問の意味が、馬超のどの心境を表しているのかが分かってしまった趙雲がプッと吹き出した。
だが何で馬超が怒っているのか分からないは、馬超から視線を外して俯いた。
「趙さんは三つお兄ちゃんだから…」
「年は関係ないだろう」
「゛気など使うなよ?″って言ったの馬っチじゃん…」
「俺はお前のその表情の変わり様を言っているんだ」
馬超をあまり刺激しない方が良いと判断したも、あまりにワケの分からない事を言われ続けると、さすがにムカっと来た。
「…どっちにしたって、あたし肩に力入れないようにしてんじゃんよ?」
キッと馬超を睨み付ける様に顔を上げたの顔は、あきらかに『意味分からない上に不快』と書いてあった。
「………」
確かに『気をつかうな』と言ったのは自分だが、ここまで表情に差がつくと何か面白くない馬超は、言葉に詰まる。
そしてそれまで笑っていた趙雲も、さすがにがイラつき始めたのが分かったらしく、とっさに機転を利かせて話を逸らした。
「さん、私にも気を使わなくて良いんですよ?」
「え?…でも…」
趙雲に話しを振られた途端にパッと怒りモードを崩したに、馬超は更に苛つく。
「ほらな、全然ちが…」
悪態をつこうとした馬超を趙雲が『これ以上話をややこしくするな』と視線で制止し、更にに話し掛ける。
「敬語は使わないで下さい、ね?」
「ん〜でも…」
「では年上としての命令です。どうですか?」
笑顔で言われた趙雲の言葉には、も抵抗出来なかった。
「じゃあ趙さんも敬語やめましょ!んであたしの事はって呼び捨てて下さい!」
ぴっと人さし指を上げて、も提案した。
『話に乗ってくれたな』との怒りを打ち消した趙雲もホッとする。
「あたし、ずっとお兄ちゃん欲しかったんで…兄妹感覚ってダメですか?」
じっと上目遣いに「ダメ?」と聞いてくるに、趙雲は破顔した。
「良いですね。では…は私を゛子龍兄″と呼ぶのは?」
「え!いいの?マジ嬉しい!!」
「ちょっと待て!!」
ノリノリの二人を止めたのは、無視された形の馬超。怒りからか、拳がプルプル震えている。
「の兄はこの俺だけで十分だ!!」
馬超のその言葉に、再び趙雲は吹き出した。は呆気に取られている。
「はぁ?何言ってんの!?馬っチとあたし歳一緒じゃん。タメだよタメ、ムリムリ!!」
馬超の申し出をばっさりと切り捨て、は趙雲の腕にしがみついた。
「趙さ…じゃなくて子龍兄は三つ年上だから良いので〜す!」
「ふふっ、本当にみたいな妹がいたら良かったんですけどね」
趙雲がの頭をナデナデしている。まんざらでもなさそうに。
「、何だその捨てようは!!子龍、お前ノってないでの腕ほどけよ!!」
「断る」
趙雲も馬超の申し出を切り捨てる。
いつの間にやら黒になりつつある趙雲を睨み、馬超はぐぅと咽を鳴らす。
「…そいつは俺のモンだ」
はっとして、馬超は自分が失言をしていた事に気付いた。
は口を開けて唖然とし、いつの間に合流していたのか孫策・典韋が目を丸くしている。
趙雲だけが一人クスクスと笑っていた。
「キャッ!愛のこくはくぅ〜!」
がおちゃらけ始めたのを機に、他の面々が待ってましたと盛り上がり始める。
「孟起!男だぜ〜!!」
「本当だな!こんな公衆の面前で告白とはよ!」
「ふふふ」
一人意味が分かっていて笑う趙雲以外は、盛り上がりを隠せない。
そんなメンバー達にさすがに馬超は戸惑った。
「ち…違う!変な誤解を…」
「いや〜ん!恥ずかティー!」
「俺も負けてられね〜ぜ!」
「若けーってのは良いな!!」
「典もまだ二十代でしょう?ふふふ…」
どんどん話がエスカレートしつつあるのを悟った馬超は、遂にキレた。
「違うと言っているだろうが!コイツを拾ったのは俺だ!!ようは俺の所有物だ!!!モノだモノ!!!分かったか!!!!」
普段よく拗ねる馬超だが、キレる事は滅多にない。
それをよく知る以外の男三人は、驚きを隠せなかった。
「モノ…かぁ…」
が俯いてポツリと放った一言で、馬超はしまったと我に返った。
「あ…いや、違…」
他の面子を見ると、皆冷たい目で『泣かしたらどうなるか分かってるよな?』と馬超を睨んでいた。
「ショックだわ…。あたしモノなんだ…」
ぼそぼそと小声で呟くに、正直馬超は焦った。
ここで主役に泣かれては、せっかくの歓迎会がムダになってしまう。
「孟起、は人間だと訂正しなさい」
状況的にまずいと思ったのか、とっととの機嫌を直す為にお父さんの様な口調で言ったのは趙雲。
機転を利かせてくれた趙雲に馬超は従い、項垂れてに謝った。
「…その、す…すまん」
「ん…」
下を向いてもじもじしているに、馬超が誠心誠意謝った。
「…分かった!!カラオケとメシおごるから許してくれ!!」
「…本当に?」
はちらっと馬超を上目遣いに見やる。
「本当だ!!この俺に二言はない」
「ん〜、じゃ良いよ。許してあげる」
ようやっと顔を上げてにっこり笑ったに、馬超・孫策・典韋は『意外とゲンキンなヤツ』と笑う。
趙雲一人が『は餌付けが効くのか』と真剣に彼女を見つめていた。
受付を済ませ、案内された部屋は中々に広かった。
部屋に入ってからすぐに食事とドリンクのコールをする。
我先にとマイクを取ったのは孫策。
「歌うぜ〜!」
ノリノリでリモコンに打ち込まれ、表示された曲は…。
「あ、でもなんかイメージ合ってるかも」
と思わずも納得する、チビッコ大好き戦隊モノ。しかもあるはずのない振り付けを次々と披露。
振り付けというより、これはもう武闘を思わせる舞である。
しかしそれには格闘をしらないも感慨する。
お次は典韋。
ノリの良いBLUEHE○RTSを彼独自にガンガンに歌いまくる。
盛り上げ役を買うタイプじゃないのかな?と思っていたも、彼のワイルドさに感心した。
「典ちゃんいいぞー!!」
「おう!おめぇもノってけ!!」
典韋も酒を片手に歌い尽くす。
その次に馬超と趙雲がCHEM○STRYをデュエット。これには思わずもウットリした。
「なんかすげー素敵…」
頬を手に当て見とれるに『見愡れただろう?』と馬超がニッと笑う。
綺麗なハモりが終わり曲が終了し、馬超と趙雲は拍手を受けながら着席する。
「絵になるね〜。川○が馬っチで堂○が子龍兄かな?」
「何!?どうみても俺が堂○だろう!」
「そうかなぁ?」
「ふふふ」
「〜!お前の番だぞ〜。自己ショしろ〜!!」
またも始まる言い合いをよそに、酒も入っているせいか孫策がを指名する。
「え〜?あたしだけ自己ショかよ〜?」
「皆の事知りてぇんだ!ケチケチすんな!」
「あいよ、りょ〜か〜い!」
が入れた歌の前奏が始まるのと同時に、改めて自己紹介を始めた。
「え〜…あたしはです!ピチピチの21歳!」
「知ってるぜ〜!」
「どこがピチピチだ?」
「うっさい!ん〜…最近ニキビが出来ると『二十歳過ぎたらふきでものって言うんだよ?』と言われてちょっぴり悲しいでっす!!」
「なんだソリャ?」
「ふふふ、面白いです」
「でもでも!心は永遠の18チャイでっす!ヨロシク!!」
「こっちこそヨロシク頼むぜ〜〜!」
「いいぜー!!」
「いけー!!」
「では歌いま〜す!」
こうして、時間は刻々と過ぎていった。