[決闘〜一騎討ち/2〜]
「棍棒髭、お覚悟!!!」
「ちょっ…………待て!!」
「ふふ、はそれでなくては」
馬超は体育館に突入するにあたって、以下の事をに伝えた。
『総大将である以上、礼節を重んじ相手に礼を尽くす事』
『総大将である以上、王道を持って敵に望む事』
『総大将である以上、無闇矢鱈に武器を振り回さぬ事』
しかし体育館に到着するなり、先程の馬超の策はどこへやら。
はそれらを「うん、分かった」と素直に聞いていたのに、突入する際に突如変貌した。
直前まではいつもの『可愛い』が、今となっては『覇王!!』な予感。
馬超は「俺の話聞いてなかったのか!?」と突っ込んだが、趙雲はイッてしまった彼女を見て、自身もイッてしまったようだ。
流石は義兄妹の(暗黒の)契りを交わしただけの事はある。
イき具合までピッタリだ。
それはもうアロンアル○ァのように。
ピッタリ・ぴったり・pittari。
彼等がどれぐらいPITTARIなのかはどうでもよいが、唯一まともな馬超は「待てって!」とテンパりながら食い止めようとする。
しかし。
「あぁん?」
「おっ?」
「??」
上から順に、・馬超・趙雲である。
彼女の「あぁん?」チンピラ発言は些か修正してやりたい衝動に駆られたが、今はそんな事を言っている場合ではなさそうだ。
何故なら。
「棍棒髭、どーこ逝きやがった!?」
「妙才の奴………逃げたのか?」
「ふふふ。の圧倒的な威圧感の前に、彼も思わず逃げ出したくなったのだろう」
今だ覚醒状態のままの彼女。
そして、辺りを見回しながら顎に手を当て思案する馬超。
そしてそして、目が少しイき気味な、暗黒兄貴。
何となく、馬超はこの二人に挟まれ逃げ出したい衝動に駆られた。
というか「誰か助けてくれ……」と心から思った。
「さては逃げやがったな!!!?臆したか、髭!!!!!」
「、まずは落ち着け…………頼むから」
「ふふ……………には指一本触れさせないぞ」
「子龍……………頼むから……………」
余りの会話の不成立さに目頭を熱くしながらも、『ここで負けては駄目だ』と馬超は自身に喝を入れる。
そしてフンッ!と鼻を鳴らして気合いを入れると、すたすたと体育館の中央に歩いて行った。
は相変わらず喚いていたが、彼女の怒り具合は『棍棒髭』→『髭』になった事で、どれだけゲージがたまっているか測れるであろう。
「髭め!!」「ふふふ」と何やら怪しい表情を見せるこの義兄妹を放置して、馬超は中央に立ちふぅとため息をついた。
そして、そこから辺りを見回す。
しかし本当に藻抜けの殻なのか、策なのか?という以前に人の気配がしない。
と、そこへ。
「計算通りです……………」
「んなっ!?」
「あぁ?」
「ん?」
男の声と共に、シビーンシビーン………………「今です……」シビビーン!!!という音。
どうやら天井に居たようで、音もなく馬超の背後に降り立ったらしい。
シビーンという音は無双乱舞だったらしく、男の持つ白羽扇からは、黄金カラーなビーム。
と趙雲は扉の前に居たので免れたが(は趙雲におんぶされて逃げた)、当の馬超はモロにそれを食らってしまう。
だが自分達の武器に刃が付いていないように、男のビームにも殺傷能力はないらしい。
すっごい痛いだけで、『致命傷』という程のものは避けられた。
「っつー……………」
「馬ッチ、痛くないソレ?」
「孟起、怪我はないか?」
「っ……………………………痛いに決まってるだろうが!!!!!!!」
痛みに顔を顰めるも、仲間二人は特に興味がなさそうに、どうでも良さそうに問う。
遠回しに『警戒せずにズンズン中入るからだろ』と言っているのだ。
でもなんかムカつく。
だって痛いから。
しかし馬超の怒声もどこへやら。
達には全く効かないようで(覇王バリアーと暗黒バリアー)、そ知らぬ振りを決め込んだ。
「夏侯淵殿は、ここには居りませんよ………………」
「諸葛…………やっぱりお前か!!!」
ふふふ、と羽扇で口元を隠しながら、先程ビーム(殺傷能力なし)を放った男・諸葛亮ちなみに字は孔明が笑った。
馬超はモロにヒットした背中の傷を気にしつつも、ジロリと彼を睨み付ける。
それを遮ったのは、を腕から解放していた趙雲だった。
「諸葛殿、彼がこちらに居ない…………とは?」
「ふふ…………それは……………」
「何だ?とっとと言え」
「ふふ………………私に勝てたら、教えてさし上げます………」
諸葛亮が不敵に笑い、羽扇を一振りした。
その場には、緊張が張り詰める。
「ふん、俺達二人に勝てると思っているのか?」
「孟起。諸葛殿の知を見くびると、痛いしっぺ返しを食らうぞ?」
「攻める隙を与えなければ良いだけだろう」
「まぁ、そうだが………」
馬超も趙雲も、スラリと己の獲物を取り出す。
そして諸葛亮を真剣に見つめ、槍の型をとった。
「ふっ……貴方方に、私が倒せるとお思いですか…………………?」
「貴様こそ、負けた後で泣き言を言うなよ?」
「諸葛殿、どのような策を用いるのかは知りませんが、私達二人を相手にその『貧弱な』腕で、どこまで太刀打ち出来るでしょうか?」
煽る諸葛亮に、不敵に笑って切り返す馬超。
だが。
最後の趙雲の台詞には、流石の諸葛亮も面喰らったらしい。
一瞬目を丸くして、次には目を細めている。
あの趙雲が。
『誠実』『謙虚』『冷静沈着』『男前』『爽やか笑顔が好印象』の趙雲が。
噂ではここ最近かなりカミングアウトをしているらしいが、実際彼のアウトぶりをこの目で見て、諸葛孔明は「ほう……」と感心した。
それは多分、彼等の総大将による影響なのだろう。
「ふふ………………」
諸葛亮は一人ほくそ笑むと、先程の馬鹿にしたような目付きから一転、獲物を捕らえるようなそれに変わった。
「では……………お相手願いましょう………………」
「行くぞ!!!」
「覚悟!!!」
今正に決戦が始まろうとしていた、その時。
放送室から、聞き慣れた劉備先生の声が聞こえた。
『軍総大将・、夏侯淵軍総大将・夏侯淵を打ち取ったり〜!!』
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「ウソォ!?!?!??」
「マジで!!!?」
「なんじゃソラ!!???!?」
上から諸葛亮・馬超・趙雲と、声が上がった。
あの諸葛孔明が叫んだ!?っつーかキャラ違うだろ!!との声を『仕方ない』と一蹴出来るぐらい、彼等が驚いていた証拠である。
ふと、馬超の目が体育館内の倉庫前に止まる。
そこには。
「だーーーーーっはっはっはっはぁ!!!見たかあたしの実力うぉーーーー!!!」
「ちっくしょーーーー!!!!!!!」
夏侯淵の首筋に、孫権からもらったギザ剣を当てながら出て来るの姿。
彼女は得意満面に小鼻を膨らませ、士気は上昇も上昇、針を振り切っている。
対する夏侯淵はとんでもなく悔しそうに泣き崩れ、地面をボコスカ殴り捲る。
『戦は無事終了した!各々戦闘を終了し、校庭に集まるように!!!』との劉備先生の声が、体育館内に良く通る。
は夏侯淵の首筋にギザ剣を当てながら、彼を連れて意気揚々と体育館を後にした。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
残された諸葛亮・馬超・趙雲の三人は、微妙な空気の残るこの中で『………どういう事だ!?』と互いに目配せし合った。